episode.12 紘vs音波
弟と俺はいつも一緒だった。親は居なかった、俺が物心ついた時には既に。
俺が20、弟が18の時に音波にであった。俺と弟の異能は合わされば敵無しだった。だが、音波の異能は俺達の異能を掻き消すものだった。結果、弟は死んだ。
その他の妖魔や音波との戦いの後、遺体すら残って居なかった。軽率だったと今なら理解できる。“数字持ち”の力量を甘く見ていたからだ。
「本当に…馬鹿だな…」
病院の一室で治療を受けた後、一日中睡眠をとるのも飽き、ベットに座っていると扉が開く。
「悔やむのは良い。だが、立ち止まっているとお前の因縁の相手は今よりもっと先へ行くぞ?」
「あんたは?」
黒スーツを着ているがアイロンをかけていないのかその一着を着回しているのか草臥れている。髪の毛の跳ね具合がさらに“だらしなさ”を際立たせている。
「私は妖魔や異能による被害を少なくする為、新しい組織を作るその代表…鹿目帯人だ。お前の力が必要だ、俺と来てくれないか?」
「あんたと一緒にいればあのクソババァに復讐できるチャンスが来るかもな…いいよ、その話乗った」
一眼見た時から感じた。一見だらしなさそうなこの男は強い。人を見る目には自信があった。だからなのか…この男が言う新しい組織に興味が生まれた。そして、あの妖魔と出会えるまで自身の力をこの男の下で鍛えようと。
音波を指差し見下す。
「弟の力でテメェを倒す」
紘を見上げ杖を鳴らし不敵に笑う。
「少し遊んでやるかの」
ワームホールからの電磁砲は確かに命中した。だが、煙から現れたのは無傷の妖魔、音波。
(当たる前に分散させられたか…昔と同じだな)
「相変わらず厄介な異能だな」
「わしのセリフじゃな。弟の異能を空間に貯めておるのだろう?相変わらずの規模じゃの。じゃがわしの“周波”とは相性最悪じゃ」
(やっぱり音波の異能は俺と弟どちらの異能とも相性が悪い…)
音波
異能『周波(ウェーブ)』
自身の体から長距離に渡り波を発生させることができる。音波は空間に波を発生させる為、座標が要の紘にとって邪魔でしかない。そして、この異能の能力範囲内にある全ての電子機器は機能を停止する。
冷静さを欠いた行動を取っているようで紘の脳は冴えていた。次にどの盤面にするのか瞬時に考える。
(この場で新しく人を転移させる事はできない。携帯も使えない。だから増援は呼べない。なら俺は)
空中から降り、音波へと走る。
「ほう、接近戦か。正しい判断じゃな。じゃが忘れてなどおるまいな?わしは妖魔じゃぞ?」
異能の能力故、物理には弱い事は明白。だが相手は腐っても妖魔。油断は無い。
「動くんじゃねぇぞクソババァ?老体だろうと妖魔、手加減なんてしねぇ!」
腕を叩きつけるが、それを難なくガードする音波。音波は返しに蹴りを入れようとするが、それを紘は足先にて制す。
(蹴りはインパクトの瞬間が最も威力があるが、その前に止めてしまえばなんて事はない)←麗央相手に経験済み(麗央には効かなかった)
「ほう、少し腕を上げたか?」
「いつまでもあの時のやられっぱなしの餓鬼じゃねぇのさ。ほらお返しだ」
音波の腕を掴み、自身の背後にワームホールを出現させる。至近距離での電磁砲。直撃し、胸に穴が開いた音波は距離を取る。
「貴様…やってくれるな……」ハァハァ
(最初の1発目の後、消したと思ったのじゃが小さくして見えないようにしていたな…それを悟られぬように接近戦で戦ったか…)
「俺もこの5年で成長してんのさ。あんたを倒す為にあんたの異能への対抗策を用意してんだよ!」
強がってはいるが紘は自身ごと電磁砲で撃ち抜いている。音波に異能で電磁砲の照準をずらされないように掴んでいた為、手は焼け、身体は痺れ、立っているのがやっとの状態だった。
(さすが俺の弟だ…掠った俺でも身体が麻痺してやがる…)
「わしは再生するが…お主はどうじゃ?わし諸共撃ち抜いた時、貴様も少なからずダメージを負ったはずじゃ」
「さぁ、どうかな?」バレテル
「この場で殺すか…弟の居る墓まで送ってやろうか?」
「まだ奥の手ってやつがあるけど…どうする?」
「同じくじゃが、それをするとわしもお主も只ではすまぬ。生憎わしは彼奴に邪魔が入らぬようにするのが役目。両手を怪我した奴にはどうする事もできまい。また近いうちにのう?」
そう言い消える。気配が完全に消えた事で警戒を解く。張り詰めた空気、限界だった足の力を緩める。その結果、後ろへ大の字に倒れる。
(音波の言った彼奴ってのは魁斗が報告書で出してた数字持ちか…)
「はぁ…魁斗〜頑張れよ〜」
黒い空に向かって叫ぶ。聞こえてない、まだ戦っている彼に向かって。
(でも何か引っかかるんだよな…クソババァが出てきたりなんか、足止めみたいな…)
決着、彼は鼓舞するまだ戦う彼へ
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