episode.6 異能

episode.6 異能



斬られた胴体の皮膚から血飛沫が上がりその血はまるで咲き誇る花のようであった。


「ふぅ…」


「この化け物…!?」


規制線、ブルーシートを潜り抜け、巡査の早水が顔を出す。そして倒れている妖魔へと歩み寄る。


「おい、まだだ近づくなッ!!!」


ドスッ…


「…っ」


巡査は閉じていた瞼を開いた。そこには自分を守っり立つ男の姿があった。


鈍い音共に魁斗の腹には妖魔の尖り鋭利となった腕が刺さる。口から垂れる血は魁斗の傷が決して浅いものではない事が伺えた。


「おい…お前!」


「フフフフフ、オカエシダヨ」


刺さった腕を片手で掴み渾身の力をもって、相手の動きを封じる。


「アリャレ?ウ、ウゴカン??」


「早く逃げろ…邪魔だッ!」


早水は腰を浮かせ足を滑らしながらその場を離れる。自分はなんて事をしてしまったのだろうと。


最初、この少年を見て思った。「この少年があの特課?」と。自身の目に映る彼の姿はあまりにも幼く、まだ自分達大人の助けがいる子供であると言う事がひどく頼りなく見えたのだ。


だから残った。妖魔を倒せたらあの仏頂面の遠藤警部にも褒めてもらえると思ったから。結果、この様である。


(俺はちっぽけな対抗心で彼の足手まといになってしまうばかりか怪我までさせてしまった。本来守るはずの市民に守られるなんて…警察官として情けない…)


その場から離れる大人の背は憂いに満ちていた。



ギンッ、ガッンッ…ガンッ…キンッ…


鳴り響く金属音から彼らが互角に斬り合っている事が理解できる。いや、互角というのは違う。今は魁斗が押されている。時間経過と共に魁斗が押されているのである。


(峰打ち(ショウカ)で削った胴体も再生してる。対して俺には風穴が空いている…武が悪いな…)


二対ある腕の鎌を交互に振り下ろすがそれを魁斗は一本の刀で受け流す。右鎌の振り下ろしを受け流した時に目が霞みよろめく。その一瞬の隙を突かれる。


「コデデ、オワリダッ!」


両腕の鎌を同時に振り下ろす。


(ここだ!今しかない!)


「一心流」


“居合・寂寥(セキリョウ)”


振り下ろされる間、受けに回していた刀を鞘に戻し重心を低くし前へと突き抜ける。相手と交わる刹那に抜刀し対象を大きく斬りつける。その一撃の威力は初撃の峰打ちなどの比ではなく、文字通りの一刀両断である。


「ア、リャレ…???」


ドチャ…


「ふぅー…本当は色々聴きたかったけど」


一息を長く吐きその後に言葉を発す。そう魁斗が初撃において峰打ちを行ったのは痛ぶるためではない。魁斗の両親を殺した妖魔に対しての情報を妖魔から聞き出すためだ。


(人語を話す妖魔なら色々聞けると思ったけど…今回はちょっと危なかったからね…)


自身の腹に空いた傷を撫で避難した警察官の下へと向かう。その後ろ姿から先まで空いた穴は無く、そこには血の跡と穴が空いたであろう痕跡だけが残っていた。


「嫌な風が吹くな…」


頬を撫でる風は居心地が悪く、早々にその場を離れた。


戦いのあった高速道路を上から見下ろすように電柱の上に立つ1匹の妖魔。それは今回の高速道路で起きた事故の犯人であり、魁斗の両親の仇である妖魔であるという事は今の魁斗は知る由もなかった。



「遠藤さんお怪我はありませんか?」


「大丈夫だ。早水が世話かけたみたいだな…すまん俺の監督不行き届きだ…」


「大丈夫ですよ。今回も問題なく討伐する事ができたので、では俺はこれで失礼します。何かありましたらまた特課にご相談ください」


「ああ、頼りにしてるよ」


そう言い俺は事務所へと戻る。遠藤さんはこの後の処理が残っているので来た道を俺は一人で戻ることとなる。


事務所へと帰りつき、今日の報告書を書き終え提出し、帰る頃には時計の針は21時を回っていた。


「ただいま」


「おかえりなさい、遅かった」ギュッ


「分かったから離れて」


本当に心臓に悪い。家に帰りつき扉を開くと一番に飛びついてくる。女の子なんだからそういう事について恥じらいを持ってもらいたいものだ。じゃないと俺の方がもたない…


「はぁ…」


「ごめんなさい…」


「怒ってないし、謝らなくていいよ。ただちょっと疲れただけだから」


俺の“異能”は使用すると数時間を置いて眠気が体を襲う。その数時間後が今なのである。実を言うと立っているのもきつい。


瞼が落ち込む。何も考えられなくなる。


「魁斗眠い?」


「ん?あぁ…」


体の力が抜ける抱きつかれている彼女に体を預けるように意識は途切れる。


「おやすみなさい」


そう聞こえたように感じた。

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