episode.38 新たなる目論見
紘の空間転移にて凪、結奈、蜜璃が邸に帰宅。
「結奈ちゃーん!!無事だー」ゴフッ
「退きなさい麗央!!結奈大丈夫?怪我は無いよね…良かった」
戻ってきた結奈に一直線に向かっていった麗央を押し退ける静恵。恐るべき女である。
「蜜璃さんも無事だったんですね」
「ああ、それよりもみんな手酷くやられてるみたいだな。さて、久しぶりの健診と行きますか」
その一言にこの場にいる全員(麗央、紘、守人、静恵、魁斗、凪)は凍りつく。
ある者は
「あーちょっと俺は野暮用が…」
またある者は静かにその場から離れようとする。蜜璃の検診は正確なのだが、検診とは名ばかりの身体調査で有名なのだ。それを知っている者達は何かしら理由をつけてその場を離れようとする。が
「ハァーイ♡麗央ちゃんどこ行くのかしら?」
「ゲッ、黒絵!?」
「守人、その大怪我で動くのあまり感心しない」
「うぐッ…」
蜜璃の背後に控えていた黒絵、神夜がその場から離れようとしていた者達をこの部屋に閉じ込める。
「さて、今回はどんな症状を俺に見せてくれるんだ?」
悪夢の始まりである。
各々の検診(?)が終わり待機部屋には疲弊しきった者達が集まっていた。
「とりあえず全員異常なしだ。魁斗は少し話があるからこっち」
全員が安堵の声を漏らしている中、魁斗は呼ばれたことに少し危機感を覚えるが蜜璃について行く。
別室
「魁斗、お前はもう異能を極力使うな」
開口一番の結論。魁斗はそれに動揺するが、訳を聞く。
「どうしてですか…?」
「それはお前が1番よく分かってるんじゃないか?俺の異能、“再配列”は物の寿命が分かる。お前は異能力、“不死”を使う度にお前自身の寿命を削ってるんだよ」
分かってはいた。魁斗自身もそれを理解した上で戦いに臨んでいたから。人の身に余り有る能力はそれ相応の代償を伴う。
「それでも、俺は戦いに向かいます」
魁斗の決意は固かった。それは自身の私心の為。彼女を雫を助ける為。仇を撃った魁斗に残されたただ一つの生きる目標であった。
「俺は戦いに向かうなって言ってるんじゃないぞ?」
「へ?」
「俺を誰だと思ってるんだ?お前の寿命を伸ばす事くらいできる。だがな、使い過ぎるな。今ある寿命以上に能力を使用したら確実に死ぬぞ?」
「…っ、分かりました」
医者、いや蜜璃の口から「死ぬ」と言う単語が出てきてその事が一層現実味を帯びてくる。
「それと、影の住人聞こえてるんだろ?お前は魁斗が異能を極力使わなくていいように手助けしてやれ」
『言われなくてもそのつもりだ』
「ならいい。よし、話は終わり。次は紘を連れてきてくれ」
「分かりました」
部屋を後にし紘さんに蜜璃さんが呼んでいる事を伝える。紘さんは嫌な顔をしながらこの待機室を出て行く。
数時間後、真季波邸居間にて作戦会議を行う。
集まっている人員は唯、九尾、雪喜、雪、魁斗、静恵、紘、麗央、蜜璃、結奈、守人、凪、黒絵、神夜、空蔵、風間の16名。
その内、作戦に関わるのは唯、九尾、雪喜、雪、結奈を除く11名。
数時間の間に唯、九尾、雪喜、雪が合流し、風間を連れた神器、空蔵も合流する。
雪喜と雪は学校を離れなかった事、唯と九尾は雪喜と雪を助けに向かった事、神器は街を真っ二つにした事で凪からお叱りを受けた。
「ふん、我は反省などー、ぬん!!!」
変な声を上げながら凪の作る扉に吸い込まれていった神器。凪の作る扉の先は対神器用に調整された空間が作られており、神器の反省部屋である。
作戦会議、それは風間から情報を聞き出せた事で釈迦の位置を特定した事が大きかった。
凪)「街の中心に開いてる大きな穴。あそこが釈迦のいる場所で間違いないらしい」
麗)「ならそこに乗り込めば言い訳だな!」
守)「そんな簡単な話だったらいいんだろうけどな」
静)「まず間違いなく罠とか妖魔がうじゃうじゃあるわよね…」
魁)「慎重に行かないとですね」
蜜)「俺と紘、風間は別行動だから実質8人で乗り込む事になるな」
空)「警戒しつつ突入するしかないって事だね」
黒)「うん、テンション上がっちゃうわね♡」
神)「黒絵さん絵の具いっぱい持って行ってね」
結果
突入組
麗央、魁斗、守人、静恵、空蔵、神夜、黒絵、凪(神器)
別行動組
蜜璃、紘、風間
待機組
結奈、雪喜、雪、唯、九尾
「今のでラストか…」
街の中心に開いた大穴から洞窟に入り、待ち受けていた妖魔達、数万体を1人で片付け奥へと進む帯人。
再奥であろう、広い空間が広がった場所に出る。待ち受けていたのは…
「来たな、帯人」
「釈迦、もう終わりにしないか?」
「あ?」
「お前の過去は唯くんに聞いた。その妖魔を治す為に“神の真水”、“天の盃”を探していたんだろ?」
「知ってんなら話は早いじゃねぇか。なら邪魔すんな!」
“過剰重力領域(グラビティリージョン)”
“十閃(じっせん)”
大穴最深部にて一つの激しい戦いが幕を開ける。
同時刻、政府非公式技術センター地下2階。
ここは政府が非公式に進めている実験施設。表の1〜3階は宇宙技術開発局を装い、地下は非道な人体実験、異能研究などを行っている。地下1階では大量のある人物(・・・・)の同一遺伝子個体(クローン)を大量生産している。その地下2階に2体の妖魔…
「おい千脚〜ここにあんのか〜?」
「これだ」
千脚はこの地下施設の照明を点ける。明かりに照らされ映し出された物は巨大な機械であった。
全身を硬い鋼の外骨格に覆われ左右5本づつある巨大な体とその重さを支える強靭な脚。頭部に備わる数十メートルはある巨大な主砲。まさに動く大砲である。(カブトムシ?)
「これが…?」
「ああ、約1000年前に空から落ちてきた地球外生命体を元に改造を施した人工殲滅機能重機。対妖魔を想定して作られたが、消費電力や維持費が馬鹿にならなくてお蔵入りになったらしいぜ」
「そりゃそうなるだろう〜な〜」
「人工殲滅機能重機、通称ジャガーノート。これを使って全てを台無しにするんだ」
「キヒヒヒッ、そりゃあ楽しそうだんで、この女どうするんだ?」
「そいつは核にする。生きた人間はクローンとは違っていい燃料になる。あ〜それとお前もう良いぞ」
「あ、?」
瞬間、千脚の蹴りが掟綻の胴体を消し去る。掟綻は異能力を使うまでも無く即死であった。崩れ落ちる下半身は煙になり消滅する。
「ここの人間どもを黙らせるの少し骨が折れるからな。あいつの異能が役に立つ。まあそれまでの命だったがな。さぁて、やりますかぁ〜あの女の為だけに神の力なんか使わせるかよぉ〜」
千脚の新たな目論見。
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