episode.37 最恐vs最強 その2
数年前の秋。
「あれ、これって…?」
少年の広げる両の手の平には風が舞い、枯れた葉を天へと巻き上げる。
風間落葉 16歳 異能力発現。
この異能力を発現したとき、正直恐ろしかった。自分はごく一般的な家系の生まれだし、両親が何か特別な能力を持っているなんて話は聞かなかった。俺様に突如として表れた才能。その異質さが俺様の心を握りつけた。
このことを親友に話した。気のいい奴でクラスではいつも中心にいる。そいつが居るだけだ雰囲気が和らぐようなそんな奴。小学校からの仲でお互いに隠し事なんてない、そんな関係だった。
「え!?お前すげぇじゃん!!!」
「え、?」
そんなこと言われるなんて思わなくて少々面食らった。いや、分かってた。だから変わらずにいつものように関わってくれるこいつに安堵したんだ。
「どうしたよ、そんな顔して」
「怖がると思った。突然変異だぞ?こんな気味の悪い力を持った奴、普通近寄らねーって」
「その力はお前がこの地球に一人しか居ねーって証じゃねえか。俺は親友でお前の事を家族の次くらいに近くで見てきたんだ。お前の事は誰よりも理解してる。だから俺の親友を悪く言うな」
「、!地球ってスケールデカすぎだろ。最初の一言で後のセリフ全部吹き飛んだわ」
「何ぃ!?お前!俺がスゲ~いい顔でスゲ~いいセリフ吐いたのにそれを聞いてなかったって言うのか!?」
このこのと首に腕を回し頭をぐりぐりと撫でられる。ちゃんと聞こえてた。照れ隠しなんだ。嬉しかったんだ。スゲ~嬉しかったから聞こえないふりしたんだ。
「な、その力で人助けしないか?」
「は、?」
その日から俺と親友の人助けが始まった。親友曰く、「能力は使い様だ。悪く使おうと思えば悪い能力になっちまう。でも良いことの為に使ったら良い能力になる!」らしい。
俺の能力の性質は風を操れること。
この能力の性質を使って色々な事をした。重い物を運んでるご老人の荷物を風で浮かせ軽くしたり、転びそうになっている人の体を風を使い支えたり、木に引っかかった風船を風を使い取ってあげたり。
俺と親友はそんな些細な人助けをしていき、数か月が経った。
俺はその日、学校で少しだけ困ってる人の手で助けをした後、親友の待つ公園に向かった。少し遅くなったのでもう既に着いて待ってるかな?そんなことを思いながら公園に足を踏み入れた。だが、公園に親友の姿は無く、俺は待つことにした。数時間が経過しても親友は来なかった。俺は何度も携帯に連絡を入れたが親友は出なかった。俺はおかしいと思い親友の家に向かった。
親友の家からは嗅いだことのある臭いがしていた。それが血の匂いであると知ったのは玄関の扉を叩き、開けた時だった。
親友の両親は背中に大怪我を負っているようで血を流し倒れている。俺はその二人の間を通り抜けリビングに入った。そこには胸を刺し貫かれた親友と巨大な化け物が居た。
「オオ、オニイイチャン?」
その言葉を聞いたとき全てを理解した。どうして親友の両親が背中から攻撃を受けていたのか、親友が無抵抗に胸を刺し貫かれているのか。
「あああああああ!!!」
生まれて初めての激情に呑まれる。その生物は落葉を殺そうと血の滴る爪を向けるが、落葉はその場にある何もかもを吹き飛ばした。
それが、この出来事が、彼が異能力を暴走させた原因の大きな事件である。
現在、向き合う幽閉者の二名。
(この異能力は、人間には過ぎたもの。俺様の小さな体には余り有る力だったから…力を行使するために俺様は口調を大きく変えた。自分が上だと能力に、そして自分自身に言い聞かせるため)
落葉は親友との日々を振り返り、一つのヒントを得る。
(能力に圧を掛けるんじゃなく、能力と一体化する。俺があいつを必要とするように)
落葉の下に集まる風は、彼に力をくれる。
“風螺旋塵(ふうらせんじん)”
集まった風を神器に向け一気に放出する。その質力は今までの嵐や竜巻が可愛く思えてしまうほどの威力だった。
「これが俺様の全力だぁぁぁ!!!」
「クフフフフ、面白い!全力の貴様に我も少しばかり応えるとするか」
パチンッ
指を鳴らすと神器の周りに幾千本の剣が出現する。
「その程度で防げると思うな!!」
「ふ、この程度が我の本気と思うな」
神器が手を挙げると幾千本も頭上に有った剣が一つに集まり一つの巨大な剣へと姿を変える。その巨剣の大きさは千はくだらない程巨大であった。
「は、?」
「喜ぶがいい、これが本気だ」
“草薙之太刀”
その一撃は落葉の放った高質力の“風螺旋塵”を斬り消し、大地に亀裂を生んだ。その技は安易に振るってはいけない。その一撃は“絶剣”に等しく、天を裂き、大地を割り、対象の命を絶つ。
「ふん、運が良かったな。我がお前を気に入っていなければこの一撃は見れなんだぞ」
気を失っている落葉に言葉を投げかけ、背を向けその場から立ち去る。
最恐vs最強決着!
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