episode.36 最恐vs最強

「ふう~…粗方片づけたかな?」


上空に飛翔する空蔵は一息吐く。「“骸語り”」は広範囲に作用する異能力。故に能力者の疲労も増加する。


(死者の魂を使うのあんまり好きじゃないけど今はそんなこと言ってられない)


「お前の異能力面白そうだな?」


「ッ…!?」


空蔵の額に汗が滲む。それは自身と同じく地上から数百メートル離れた上空に居ることではない。尸楼のボスとして、相当上位の実力を持っている自身が簡単に背後を取られ、天津さえ話しかけられたこと…


「あ、ビックリさせたか?俺様の名前は風間(かざま)。よろしくな」


(こいつが風間!?風間落葉か!?実際に会ったのは初めてだ…!)


「んで、お前は?」そう聞かれ、空蔵は慎重に答える。


「空ー」


「ま、すぐに忘れるんだけどな」


のんきに答えようとしたのが間違いだった。彼は“幽閉者”であり、無間牢獄にて永劫幽閉を言い渡されて今も尚、牢屋に閉じ込められているはず…

それが何故、ここに姿を現すことができたのか?考えられる要因は三つ。


一つ、助っ人として簡易的に牢屋から出された。

二つ、無間牢獄自体に何かがあり、脱出することができた。

三つ、この混乱に乗じ、脱出を手引きする何者かがいた。


一つ目はまず無い。事前に連絡がないのはおかしいからな。二つ目、これはあり得る話だ。数時間前に起きた大爆発その影響で無間牢獄自体の機能が損なわれる何らかのアクシデントが発生した。それにより、外に出ることができた。三つ目、この大群妖魔は実は本題を隠すための囮で、本来の目的は風間や無間牢獄内に居る他の異能犯罪者たちを外に逃がすこと


(もしくは、その二と三の両方か…)


「お前はなんでここに…?」


相手は政府ですら危険視する幽閉者の一角。問答は慎重に行わなくては…

空蔵の頬を嫌な汗がつたう。


「俺はちょっとした手伝いだな。お前を止めろって言う」


そう言葉にした直後、落葉の周りを竜巻が覆う。吹き荒れる突風、至近距離に居た空蔵は竜巻に巻き込まれる。


「くっ…」


「止めろって言われたけど、殺すなとは言われてないしなッ!」


“暴風の竜巣”


異能を制御せず、有る力のまま押し出した広範囲攻撃技。瓦礫を巻き上げ、地面を抉る。天変地異と言っても差し支えないほどの威力であった。


力が強まる前に何とか脱出できた空蔵。だが


(直撃ではなかったといえだ…)


腕が引き千切れるほどの高威力。空蔵の右腕は無く、全身には裂傷が見られた。


(最恐の幽閉者…まずまともにやりあって俺が勝てる見込みは無い)


影で数多の人を殺めてきた空蔵。その空蔵の目は正しかった。先の“暴風の竜巣”は落葉にとってほんの挨拶程度の威力なのだ。


(この現状をどう切り抜けるか…このまま放って置く訳にもいかないしな)


傷を癒しながら思考している空蔵の背後に何やら怪しげな人物が立っている。


「どうした、戦わないのか?」


「ッ!?」


空蔵は距離を取り構えるが、その人物を見て肩の力を抜く。


「お前、気配消してまで近づく必要あった?」


「驚いたであろう?貴様の驚愕ぶりは滑稽だったぞ吸血鬼」


幽閉者の一角。付喪神、神器。


「はぁ…相変わらず人をおもちゃみたいに扱うその性格、直した方がいいんじゃない?」


「長い塔生活で暇だったのだこれくらいの楽しみは合ってもよかろう」


(いつも限度ってもんを知らないんだから…対処するこっちの身にもなってほしいところだね…)


「なんだ?」


「別に」


空蔵の生返事に神器は眉を顰めるが、事態は急を要する。

高質量の竜巻は地面を抉り、家屋を巻き取り、今も尚肥大化しつつあった。


(これが風間落葉の異能力「“風神”」。故意ではないが能力の制御ができず、大災害を起こした張本人…)


「どうするんだ?」


「まあ、止めるしかあるまい。私は凪に頼まれているからな」


そう言い、神器は物陰から身を乗り出す。それに気づいた落葉は神器に声を掛ける。


「あれ~?珍し、お前は塔から出てこないって聞いたんだけどな。どんな心境の変化?お前は表舞台には立たず一番いい観客席でその演目を鑑賞するタイプのはずだろう?」


「そのつもりだったのだが、凪の奴に言われてな。仕方なく舞台に上がったと言うわけだ」


「へ~」


「まあ、せっかく舞台に上がったのだ。少し動くとするか、せいぜい楽しませてくれよ」


“劈く嵐”


思わず耳を抑えたくなるような風音、竜巻が神器を巻き込む。


「俺様を誰だと思ってるんだ?妖怪風情が」


「クッククク、まさかその程度ではあるまい?」


嵐を跳ね除けられ、竜巻のど真ん中に居たであろう神器は傷一つなき無傷の状態だった。その訳はすぐに分かった。神器の周りを剣が高速で舞っているのだ。


「ま、そうこなくちゃね!!」


“激昂な嵐塵”


落葉の周りに大量の竜巻が発生する。その一つ一つは町を破壊するレベルの大きなもので、物陰で息を顰め二人の戦いを見ていた空蔵も驚くほどであった。


(これほどまでに危険な男だったのか!?)


パチンッ


神器はそれに臆すこともなく、指を弾き鳴らす。神器の周りを防御のため舞っていた剣たちは、その合図で一斉に一つの大きな剣に戻る。そしてその剣は戻ると同時に竜巻を切り裂き消し去った。


「は、?」


その剣は竜巻を消し去った後、瞬きの間に落葉を捉えた。落葉は吹き飛ばされ、家屋の瓦礫の中に墜落する。


「ほう…」


「痛いじゃねえかよ…」


(咄嗟に風で防御したか…ん?ふ、面白い)


神器の口角が自然と上がる。落葉は風を自身を中心に発生させ、取り囲むように防御陣形を形成していた。まるで、先の神器が剣でおこなったように。


(ちまちま攻撃してても神器にとっての決定打にならない。なら)


「一撃をもって屠る」


「ほう…」


さっきまで吹き荒れていた風、嵐は止みその風は落葉を中心に舞う。


大技来たる。迎え撃つ最強!

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