episode.35 影で

炎に包まれる妖魔、炊気。彼は戸惑っていた。


(どういうことだ!?“化炎(かえん)”の異能を持っているこの俺が!!熱を!?熱さを感じるだと!?)


彼の持つ異能力、それは炎熱系統の能力。故に能力者本人が熱さを感じにくくなっている。が、彼は肌が焼ける痛みを認識した。


「貴様!!なんだこの炎は!!」


浮遊する、九尾に炊気は問う。彼女の見下すようなや態度も彼を苛立たせる要因の一つだろう。


「妾の炎は特別製でな、耐性を持つ者には特によく効く。さあ、恋路を邪魔する不届き者には鉄槌を下さねばな。なあ、唯?」


「そうっスね~」


「お前、なんで…?」


雪喜と雪の後方から歩み寄り炊気の前に立ちはだかる彼の名は真季波唯。


「何でここにいるのか、スか?避難指示が出たにも関わらず避難所に姿を見せない同級生を心配するのがそんなに悪いことっスか?」


「っ…」


「そんなに大怪我するまでよく粘ったじゃないっスか。ここからは俺に任せて少し休むといいっス」


炊気に向き直り「待たっスね、バトンタッチで俺が相手をするっス」そう言う彼の目は自身に溢れていた。故に、炊気のプライドを逆撫でた。


「お前が俺の相手だと?そっちの妖怪ならともかく、人間の小僧一人だと?舐めるな!!」


「舐めているのはそちのほうじゃ…」ボソッ


九尾は呆れた風に言葉を溢す。


右手に持つ棍棒を大降りに振る。唯は少し体をひねり攻撃を避ける。先ほど唯の居た場所は1メートルほど陥没した。


「大きな獲物を持ち大降りに振り回す相手は懐に入られると弱いだったけ?」


そこに居た全員(九尾を除く)は目を疑った。炊気の攻撃を軽々と避け、容易に懐に飛び込んだ彼は炊気の溝内に拳を叩き込む。ここまでなら対して驚かない(驚く)。


「ッ…!!!」


炊気にダメージが入ったのだ。通常、一般人が妖魔に対抗する手段はあまり無い。何故なら、彼らが種として人間よりも高い身体能力を有しているため。当然数字持ちである炊気に武装もしていない一般人の拳が通用するはずもない。が唯の拳は炊気にダメージを与えた。


「どういう事だ…?」


「どうもこうも、ネタバレしたら意味ないっスよ?」


「なら、吐け“炎棍”!!」


棍棒に自身の異能で火炎を纏わせ振るう。がそれは当たらず空を切り、そこに透かさず唯の手痛い一撃が来る。


「ぐはッ!!!」


唯の拳のラッシュを受け、満身創痍の炊気。だが、彼もまた妖魔である。


“限定解放・癌焔踏又鬼殺(がんえんとうまたきさつ)”


彼は戦いの中で限定解放の発動条件を満たしていた。彼の限定解放の発動条件は、相手が能力者本人の渾身の一撃を受ける、または避けること。


「限定解放…九尾」


「そうじゃな。あれをするのか?」


「うん」


九尾は九本の尾にエネルギーを集中させる。その余波で辺りの時空が歪む。炊気の限定解放は自身をより異形へと変え、自身の異能力である“化炎”を纏う。燃える体は崩れるほど炊気自身のパワーに上乗せされる。唯が選んだ戦術は短期決戦。九尾の大技にて一撃のもと、炊気を葬る。


“炎鬼剛棍”


“無窮”


自身の異能“化炎”に身を焦がしながら棍棒を振るう彼に、九尾の放つ“無窮”が打ち当たる。“無窮”の凄まじい妖力の塊は辛うじて円の形を保っていたが、放ち、炊気に衝突すると、空間を丸ごと切り取ったかのように円上の全てを消し去った。


「ふう~疲れた…」


「唯よ~妾も疲れたぞ♪」


座り込む唯に後ろから抱き着く九尾。それを後ろから眺める雪喜と雪。


「ありがとう、助けてくれて」


「あの、ありがとうございました」


「良いよお礼なんて。俺は困ってる同級生を助けただけっスよ~」


抱き着いている九尾は唯の頬と自身の頬を擦り付けていたる当の本人の唯は気にしていない様子だった。どうやらいつもの光景らしい。


「ぐっ…」


体制を変えようと体を持ち上げようとしたとき、鋭い痛みに顔を歪める。そこを雪によって支えられる。先ほどの戦闘で雪喜の体に蓄積したダメージは相当なもの、凡人なら良くて即死だろう。


(妖怪の血が彼を守ってくれたんだね)


唯は微笑みながら九尾を見る。その目を九尾が見て、唯の考えを読み取る。


「其方、少しすまぬぞ」


“蛍尾”


九尾のモフモフの尾が雪喜に触れる。触れた個所から妖力でできた光の粒子が雪喜に流れていく。その光景は蛍が一か所に向かって飛び交うかのようだった。

光の粒子は雪喜に流れると傷を少しずつ癒していく。


「完全には治りきっておらぬ。篤と見てもらえ(医者に)。妾は響也と違って他者を治すのは不得意ゆえにな」


「ありがとうございます…」


「響也さんは凄腕のお医者様っスね。ほら、診療所と大病院を行き来してる人っス」


「いや、知ってるけど。有名だし…それよりも知り合いなの?」


「うん、小さい時からお世話になってるスよ」


「はぁ~治癒の能力は高度で集中しないとダメじゃから疲れたぞ~これは唯に甘えなければいけないのぅ~」


「はいはい」


雪喜の前から瞬時に移動したかと思うとすでに唯の膝に頭を擦り付けていた。その頭をなでると九尾は満足そうに唸った。



少し離れた物陰から、唯たちを除く人影。彼女の名前は櫛笥小夜。魁斗の同級生で同じクラスであり、委員長をしている。


「雪ちゃん…よかった」


(自分を出せる、信頼できる人に出会えたんだ…それは私では無かったけど…)


彼女とは一歳差の幼馴染で家が近く、度々顔を合わせていた。高校では別々の学校に通うことになり、会う機会も話す機会も減っていった。委員会の終わりに久しぶりに見かけた彼女はいままでの彼女とは違い、明らかに元気がなかった。心配になり声を掛けたが昔のように話すことはできなかった。


(魁斗君なら何とかしてくれるかもって思ったりしたけど…)


彼女、小夜は高校一年の時に彼に助けられていた。(魁斗は覚えていない)


(でも、本当に良かった…)


「ちょうど良かった。一緒に来てもらおうか」


「え?」


後ろから声が聞こえたと感じた時には小夜の意識は暗い闇に沈んでいた。


「キヒヒヒッ良い働きだったぞ、炊気。九尾は治癒の能力を使った後、警戒範囲が狭くなる。まあそうだろうな、いくら大妖怪の九尾と言えど妖力量に限界はある。あまり使ってこなかった高度な他者の治癒をおこなったんだ。使った妖力を少しでも回復するために警戒範囲狭めるよな~キヒヒッ」


気絶した小夜を肩に担ぎ続ける。


「お前の戦略に乗って良かったよ、千脚」


「ま、早いとこここから離れるよ。せっかく九尾に気づかれないように近づいたのにその九尾に気づかれでもしたら厄介でしょ?」


双極 千脚


「キヒヒヒッ、それよりも千脚~魁斗とかって言う餓鬼に負けてんの〜?♪」


No.6 掟綻

異能力「“契約”」

自身と他者の間に“絶対”の契約を結ぶ。契約に制限はない。

例:「お前(千脚)は俺(掟綻)が生きている限り死ぬことを禁ずる」など。


「いや、あいつらがいいヒントをくれたんでね、死んだと思わせてる方が動きやすい」


妖魔の巨悪、影にて暗躍!?

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