episode.24 反撃 続
「返してもらったぞ。俺の“異能”」
蜜璃はあたりの様子を確認する。高出力の電撃を受け、黑絵、神夜は気絶しているが息はある。早々に肩をつけなければいけない。
「やめろ!その異能はお前が扱うには過ぎたものだ!」
生誕は焦っていた。自身の懐に入っていた“物”を蜜璃が手に入れてしまった事で。だが、焦っていても冷静な判断を身体は下していた。
「これがあれば帯人を救える。ついでにお前をあの世に送ってやるよ」
“奇妙な朽木(ストレンジツリー)”
「お前の力は脅威だが俺にはこの力がある!」
奇妙な朽木は成長と共にその力を生誕に還元する他にも、生誕自身が扱うことのできない他者から奪った(・・・)異能力を扱う事ができるように補助する役目がある。
“木剣”
それは木の枝から作られた木刀。だがそれの殺傷力を上げる異能を彼は最近奪っていた。
蜜璃はその木剣をメスで弾こうとするがそのメス事、右肩を切り落とされる。
「なる…ほどね」
“絶剣”
それは帯人の異能力。彼が持つものが剣であればそれは何をも斬り裂く刃となる。
「はは…やっぱり蹂躙は面白くない!こういう死と死の瀬戸際がいい。だからもう少し付き合えよ」ニッ
「…ッ!!」ゾクゾク
(私が恐れたのは異能の力だけではない。何より恐れたのはこいつのこの性格!)
蜜璃は他人の痛みを理解できない。怪我などの外傷の痛みは理解できる。人間だから。だが、内傷は理解できない。そこが蜜璃の唯一壊れている点と言える。不完全。
地面に落ちた腕を右足で踏む。肉を踏みつける感触はやや不快だが蜜璃はそれすらも感じては居ない。
“再配列”
左手を先の無い肩に当てる。するとそれはまるで蜥蜴の尾のように新しく生え変わる。
(“再配列”…自身が触れたものを作り変える力。やはり危険過ぎる…)
長年医者として過ごして来て分からない事がある。
「江東先生…お願いします!助けてください…」
そう言われて安心させるため「大丈夫です」と、言葉と笑顔を向けながら執刀し数えきれないほどの命を救った。が、それと同時に救えない命もあった。
彼らは医者に頼るが最後は救えなかった医者の責任にする。俺が執刀した時にはもう手遅れの状態の者も少なからず居たし、患者の運も関わってくる。
人を傷つけ、人と関わってきた。だが俺はやはり人の心がわからない。向ける笑顔は本当の笑顔なのか?疑問。だがそれを補うように結奈は俺に人間の心を教えてくれる。結奈がいるから俺は人間で居られるのだろう。
地に落ちた右腕を蹴り上げ左手で触れ作り変える。作り変えられたそれは巨大な鋏。その鋏は2つに分かれそれぞれの柄に当たる部分は円を描いている。
「お前はここで倒さねばならん」
“限定解放・神樹降誕画(ヴァース・ツリー)”
生誕、蜜璃の周りに“帯電する樹木”、“奇妙な朽木”が群生し、生誕の真後ろに巨大な木が誕生する。
「限定解放か…」
「“帯電する樹木”の総放電を受けるがいい!」
“森樹雷(フォレストサンダー)”
蜜璃を取り囲み並んだ“帯電する樹木”は生誕の一声と共に一斉に放電した。
轟音、砂煙。どうなったのか、それは生誕にも分からない。成長、進化を遂げて初めての限定解放。力の制御は未熟。だが、それ故に高威力のものであった。
(やったか…?)
「煙がうざいな」
「馬鹿な!!どうやってあの放電から…」
砂煙からでてくる蜜璃は無傷であった。加減のできてない放電。生誕自身も命中したとそう感じたはず…
「ああ、確かに浴びたな。でも俺の身体が雷に触れる前に手で触れてしまえばどうって事はない。雷は性質を変える。勿論、俺に害のないものにな?」
「な…」
(電気よりも速く動くだと!?いや、違う。そんな人間存在しない!異能でも使わない限り、だが奴の異能はそのようなものではない…考えられる要因は…)
「その鋏か!?」
「ご名答、この鋏は特別性でね。電気を引きつける。これに吸い寄せられた電気を俺が触れれば良いだけだ。な?簡単だろ?」
「化け物が…」
「お前に言われるのは侵害だな。それよりも限定解放をしてもお前は俺には届かなかった訳だが…時間をかけ過ぎたかな?ここらで終わりにしないか?」
「ぬかせ!」
生誕の後ろに聳える巨大な木の根は槍のように突き、鞭のようにしなり蜜璃へと攻撃を行う。
蜜璃はそれを両手の鋏の片割れで切り裂く。
(私の研究はまだだ!こんな所で終われるものか!)
生誕による攻撃の勢いは増すがそれを全て捌き蜜璃は懐へと飛び込む。
「じゃあな」
腕を交差させ生誕を切り裂く。
「No.7が殺られた。予定通りに行くぞ」
『了解』
2人の戦いを影から見る怪しい影。通話を切りその場から去る。
そこに思いは合ったのか。そこに願いは合ったのか。恩を断ち切り前へ。
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