episode.3 天賦の才

「どうぞ」


結奈が小柄な女性へと珈琲を淹れ目の前へと差し出す。


「ありがとうございます…」


来客用のソファーに座る小柄な彼女の名前は華道紗里伽(かどうさりか)と言い今回の依頼人である。


「それでー」


「今回のご依頼は?」キリッ


帯人が話そうとする横から割り込みこの顔である。依頼主が女性、麗央は張り切っていた。


「はい、一週間ほど前から私の身の回りの人達が少しづつおかしいんです…」


「おかしい…と言うと?」


割り込んでくる麗央を隅に追いやり帯人が話を聞く。彼女は恐る恐るという感じで口を開く。


「何かに取り憑かれたかのように…生きるのに必死みたいで…」


彼女の話では彼女の周りの友人や家族達が奇妙な行動をとり始めたのは彼女が家族、友達と肝試しに行った後。


廃校へと友達数人と肝試しに向かい、家に帰ると後ろから、大勢の人から向けられる視線を感じると言う。


「でも振り返っても誰もいないんです!」


「麗央さん彼女、華道さんから匂い(・・)ますか?」ヒソッ


「ああ…まったく、いい匂いだ」ヒソッ


ゴンッ


「そう言うのは聞いてないです。妖怪、幽霊、妖魔の気配が残ってないか聞いてるんですよ」ヒソッ


「いや、相当なやり手だな…一ミリも残ってない」ヒソッ


やはり、この人からそれらしい匂い(・・)はしない。俺が探知できないから麗央さんならばと思ったのだが…


「電気が突然消えたり!トイレのドアがひとりでに開いたりするんです!」


「なら二人ほどそちらに向かわせますね、麗央、紘行けるか?」


「「おう(はい)」」


「原因究明と解決までがご依頼でよろしかったですか?」


「はい、よろしくお願いします…」



俺と麗央さんは華道さんに付き添い自宅まで案内される。道中、華道さんに簡単な質問をしたが特に目立った内容は話されなかった。


「ここが家です、どうぞ中へ」


「失礼します」


外見はごく普通の一軒家、中に入るがトイレ以外目立った力を感じなかった。


「麗央さん」


「ああ…失礼」


麗央さんは華道さんに一言言いトイレの扉を開く。


「貴方達は…?」


トイレの便器に腰掛けるのは幼いおかっぱ頭の少女、だが体から滲み出す妖力から並みの妖怪ではない事が分かる。


「俺たちは特課の者だ。君はトイレの花子さんと言ったところかな?」


「わぁ、正解よ!そしてちょっと悪戯した甲斐があったわ!」


「俺たちに用があったのか?」


「ええ…妖魔が私たち妖怪の住処に入り込むようになってて…今はぬらりひょんがどうにか抑えてるんだけど、困っててね」


話が見えてきた。花子さんは妖怪達の住処の中に入ってきた妖魔の対処に困っていた。その対処を俺たちに頼みたかったが、呼び出す術を持っていなかった。こんなとこだろうな…


「貴方を餌みたいに扱ってしまったわ。ごめんなさい…」


「いえいえ!何事も無くて良かったです」ホッ


頭を下げる花子さんに顔を上げてと話す華道さん。とりあえずこの件の依頼主は花子さんに変わるのかな。


華道さん宅を後にし、近くの公園の公衆トイレで花子さんと会話をする。


「それで住処ってのは?」


「稲山って呼ばれる山があるんだけど、そこに孤児院があるの」


その孤児院はぬらりひょんが建て、身寄りの無い子供、力の弱い妖怪たちを集め住んでいると言う。その場所に妖魔が出現したのは昨日…


「いきなり現れてぬらりひょんが対処したんだけどぬらりひょん一人じゃずっと守るのは無理があるみたいで…お願い急いで!」


「よし分かった!魁斗走るぞ!」


「え…?」


言うが早いか、トイレを飛び出し走り出す。魁斗がトイレから外へと出た時には影も形も無くなっていた。


「麗央さん人な話最後まで聞かなすぎでしょ…」




稲山に佇む孤児院。


「孤児院から外へは絶対に出てはならぬぞ!」


孤児院を取り囲むように這い出る妖魔達。それをぬらりひょんは一人で相手どる。


「ちとキツイのう…」


「ギィィィィィィッ!!!」


甲高い声は辺りに響き渡りさっきまでとは比べ物にならないほど多くの妖魔が集まる。


「ここまでかの…」


「爺さんよく堪えたな!後は俺に任せておけ!」


半ば諦めていた。そんな時頭上から前に降り立つ人物を眼は映し出す。


「その服は特課か!?」


麗央は辺りに這いずる妖魔を殴り飛ばす。拳の威力が高過ぎパンチ一つで妖魔は塵となる。


「麗央さん…足早過ぎ…」ハァハァハァ


「何故特課が…?」


「花子さんが教えてくれたんです。とりあえず無事ですね?」


「あぁ、助かったわい。花子には後で礼をせねばな。だがこの数の妖魔を一人ではー」


「大丈夫ですよ。麗央さんは天賦の才を持ってますから」


天賦の才、それは生まれながらにして持っている力。麗央は恵まれた体格、常人以上の力(パワー)を有している。おまけに目も良い。


(これでまだ異能(・・)を使ってないとか化け物でしょ…)


全ての妖魔を殴り終え×→消し終え○、戻ってくる麗央さんは涙で頬を濡らしていた。


(ああ…またあれが始まるのか…)


「今回も…俺を楽しませてくれる…妖魔では無かったようだ…」ズビズビ


麗央は力(パワー)が強すぎるが故、対等に渡り合える者が居ない。殴れば消え、麗央の攻撃に耐えられる者は未だ現れない。故に…


「何で泣いておるのじゃ…???」


「あ〜ほっといてください」


魁斗は考えるという行動を放棄した。

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