episode.40 悲劇と喜劇
洞窟の奥、さらに奥へと入りまた広い空間へと出る。そこには台座があり、“神降し”の準備も整っていた。
「お待ちしておりましたですじゃ、王よ」
「音波、すまない。お前達をこのような事に巻き込んで」
「何を今更ですじゃ」
「はぁ!?」
「王の成す事にヒヤヒヤした事も少なくありませぬ。でも、それは私達を慮ってのこと。貴方は優しい王ですじゃ。それではわしも戦いに向かいますじゃ」
「…」
釈迦は何も言えなかった。覚悟の決まった音波を止める事は彼女の覚悟を否定するものと分かっているから。
音波がここを後にするのを見届けて、儀式に移る。
「これで、やっとだ…やっと、お前を救える…」
「…」
虚空を見つめる彼の目は誰かを、探しているかのような目をしていた。
「ね、釈迦。私も行ってくるわ」
「…っ分かった」
(彼はいつも私を見ていた。だけどそれは私ではない私。だからもう、これで終わりにするの。この恋は一時のモノ)
釈迦は送り出す。彼女の為にも。そして自身の悲願のため。
2体の妖魔の猛攻を防ぎつつ、突破口を探っていた魁斗。だが、限定解放を行った2体の妖魔を食い止めるのは無理があった。
(おじさんは隠せたけど、このままじゃ…)
“巨大な太陽(グレイテストサン)”
「なっ…!?」
龍帝の手に持つ赤い宝玉が魁斗の目の前で止まり刹那、灼熱と眩い光をあたりに放出した。
その余波で洞窟内に振動を生む。
「龍帝、幾ら私の“最防”で防いでるとは言え少々手荒すぎやしないか?」
「すまんな。少しハッスルし過ぎてるかもしれぬ。だが、それも仕方のない事。ようやく我らが王の悲願が叶うのだからな」
「そうだな」
「話してるとこ悪いけどこっちも急いでるんだ、後にしてくれ!」
「「!?」」
爆発と同時に融解、蒸発し、今もなお煙が立ち昇る方を見る。
(おい、生きてるのか…?)
(直撃だったはず!)
龍帝の放った“巨大な太陽”の直撃。本来ならば直撃で消し飛ぶはずであった。だから龍帝、矛盾は油断した。忘れてはいけない。彼の中にはあいつが住んでいる。
「俺の影は太陽をも呑み込む」
煙の中から現れた黒い影の塊。その中から無傷の魁斗いや、“影の住人”オルターエゴが姿を現す。
「なっ!?」
(影で防御したのか!!)
「蜜璃からこれ以上魁斗に異能を使わせるなとお達があったんでな。ここからは一瞬で終わらせるぜ?」
“瞬影”
矛盾ならびに龍帝は彼から目を離さなかった。だが、気づいた時には彼は自身の背に居た。
「ッ…!?」
(はや…)
“影々十閃(えいえいじっせん)”
影で作り出した十体の影人形との縦横無尽の斬撃。その攻撃を受け、2体の妖魔は地に落ちる。
「ほっほほ、残念じゃな。わしが居ることを忘れるでないぞ?」
“偽音”
攻撃を与えたはずの2体の妖魔は、実際には当たっておらず、彼の遥か頭上、洞窟内天井付近に登っていた。
「こっちも、仲間がいる事を忘れるなよ?」
「おい魁斗!先におっ始めんなよな!」
「急に走り出したと思ったらこれなんだもんな」
「“数字持ち”3体。よく無事だったわね」
「うーん!沸るわね♪テンション上がっちゃうわ♡」
「黒絵さんどうどう、勝手にエクスタシー感じないでね」
「そう言う神夜も楽しそうだね」
「みんな、ここ戦場だよ…?」
洞窟内に現れる7人。それは妖魔の3体に大きな衝撃を与える。
(麗央だと!?)
(あいつは重症を負っているはず…蜜璃か!?)
能力を死守できなかった生誕。重傷を負わせたもののトドメを刺せなかった千脚と泡沫。その3体への不満が頭をよぎる。が、それは今の状況では不要なもの。頭から消しさり、この状況打破を考える。
“限定解放・無了音域(むりょうおんいき)”
「連戦できついかも知れぬがここが踏ん張りどころじゃ!やれ!」
「「おう!」」
音波の限定解放は味方以外の全ての異能を封じるもの。この好機を逃すまいと2体は最大火力を与える。
“暴発する太陽”
“縦横無尽・矛”
「魁斗いや、オルタか。お前はあの先、釈迦の下に行け。ここは俺たちでどうにかする」
「…了解」
迷いはあった。異能が封じられた今、彼らに妖魔に対抗する手段があるとは思えなかったから。だが、麗央のこの言葉は信じるに値すると感じた。
オルタは影移動で瞬時にその場を離脱する。
「さて、お前ら踏ん張るぜ!」
「漏らすなよ?」
「その踏ん張るじゃねぇよ!!」
爆発による振動は最深部である釈迦の元まで届いていた。
「…」
「…釈迦、雫を返せ!」
「ここに来るのはやはりお前だったか」
“咲華”
“超重力”
「ぐっ…」
魁斗が攻撃を出すよりも、先に釈迦の重力攻撃がくる。何もできず、重さで地に押し付けられる。
「いいか、お前を待っていた。雫の意識に掛かったプロテクトを消すためだ」
「ど、う言う事だ…?」
(後ろの台座に秘密があるのか?)
「“神降し”に必要なのものは二つ。一つは“神の真水”。これに関しては謎が多かったが比喩表現だと分かった。神から生まれた人の子。それも大量の血が必要。それは今回の大規模な妖魔の進行で得た。そして二つ目は“天の盃”。雫本体だ」
重力に抗おうとするがそれに気づくとそれ以上の重さを上乗せし抵抗できないようにする。
「話を聞け。だが、雫本体に幾つかのプロテクトがあってな。それの最後の一つが自分の最愛の人を殺す事なんだ」
「なん…だと…?」
(今、なんて…?)
「魁斗!!!」
「おっと、良いところで目覚めたな。今お前の目の前で最愛の人を殺してやる」
台座に固定された雫が魁斗を見つける。必死に声を上げる、その姿に魁斗は少し場違いな感情を抱いていた。
(彼女に会えなかった数時間…前は疎ましく思っていたのに…いつの間にか…)
“超中心重力”
「幾ら“不死”と言えど身体が綺麗さっぱり消えれば再生はできないだろ?」
魁斗の身体は自身の中心に向けて折り畳まれていき、最後には跡形も無く消えてしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ふ、ははは。これで儀式の最終段階に行ける」
「まあ、それは俺が死んでたらって事だろ?」
「なっ!?」
“影移動”+“影々十閃”
「なぜ、生きている!?」カハッ
十体の影人形は釈迦を中心に縦横無尽に動き回り、一斉に斬りつける。
「オルタの力だ。“影人形”、一度に十体まで影の人形を作り出せる。その人形は数が少ないほど本体に近しい能力になる」
「なるほどな…俺は人形の方を殺したって訳だ…」ハァハァ
「お前は失う側の気持ちが分かってるだろ?ならなんでこんな事を…」
「そうか、お前は唯から俺の過去を聞いてるのか」
この戦いに入る前に魁斗は唯から釈迦の過去を聞いた。
「単純だ、俺には彼女しか居ない。だから彼女を取り戻すためならどんな事でもする…」
「…」
魁斗は言い返せなかった。自身は復讐という形に走ったが、彼は蘇らせる、いや、記憶を元に戻す(・・・・・・・)事に注力した。
形、思惑は違えど根っこの部分は一緒なのだ。
「釈迦…?」
「虚空!?お前、戦いに行ったんじゃ!?」
「多分、ずっと居た。戦いの結末を見る為に…」
「やっぱり私は私じゃなかったんだ」
「ち…」
釈迦は違うとは言えなかった。今までの彼女への接し方は以前の彼女への接し方とは明らかに違っていたから。向けている目も彼女へでは無かったから。
「たとえ、私が私じゃなくてもね、私は釈迦、貴方のことが大好きなの」
「…!!」
過ち。それはもう元には戻せないが、これからの指針を決めてくれる。だから釈迦は心に決めた。
(もう、遅いかもしれない。でも、これからは彼女に向き合おう。忘れる事なんてできないけど、彼女も私が愛した1人の人なのだから…)
「とりあえず、ここから出るぞ。戦いの余波で崩れそうだしな」
雫の元へと向き直り歩み寄る。彼女は安心したような優しい表情をした。
「は、はは、話が違うぞ」
小太りのボロボロなスーツ姿1人の男性がこちらへ歩み寄ってくる。
「あの人は…?」
「政府のお偉いさん。まあ、お前らの上司だな。俺はもう諦めただからあの話は無しだ」
「そ、そんな妄言が通じるはずがないだろぉッ!!!」
小太りの男性が取り出したのは拳銃。それを出された事は大して驚かなかった。だが、彼は迷う事なく撃った。
「…は?」
ボタボタッ…
それは本来あり得ない事。釈迦は防御の時、自身の周りを重力で多い攻撃を逸らす。だが、今回はそれが発動せず、そのまま身体に銃弾が命中したのだ。
「釈迦!!」
「お前ッ!!!」
ドゴォォォォォォォォォォン!!!
小太りの男性が居た場所から巨大な何かが現れた。それは男性を無視のように踏み潰した。
「こいつは…?」
「おいース。王様?あっれっ〜?派手にやられてんじゃん」
(この声はッ!!)
「千脚か!?それはなんだ」グッ
叫び傷口が痛み顔を歪ませる。
「これは人工殲滅機能重機(ジャガーノート)だよ。いや〜政府のお偉いさん方も凄いもん作るよね〜」
「それで、何をするつもりなんだ…?」
「決まってんじゃん。全てを壊すんだよ」
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