episode.44 託されたモノ
「ここは…?」
気がついた時には川の中心に立っていた。空、大地、全てが赤く、流れる水でさえも赤い色をしていた。
不可思議な空間に取り残されている魁斗はここにくる前の現状を思い出す。
(確か、千脚に異能力を奪われて“不死”が消えたって事は…)
「俺は死んだのか…?」
「君はー」
「!?」
その声のする方を振り向き、俺は目を見開く。赤い景色の中にひっそりと佇む人物。艶やかで黒い三つ編みの髪が何処からともなく吹く風に当てられ棚引く。綺麗な顔立ち、糸目のようだが瞼が上がると金色の瞳が写る。
「貴方は?」
少し警戒しながらも声をかける。
「ああ、申し遅れたね。私の名前は閻魔、少し妙な気配を感じて来てみたんだけど…まさか生者が渡りに来るとは思わなかった」
閻魔という男はこの世界について話してくれた。
「ここは地獄、生者はいない。ここに来る者たちは皆、死を経験した者たちのみ」
「なら俺は本当に死んだのか…」
「そうなるね。でも君の死を拒んでいる者がいるようだね。だから君はここに居る」
「?」
「少し歩こうか」
そう言い彼は石を踏み鳴らし進む。魁斗は岸へと上がり彼に続く。
「君の想い人に“天の盃”いや、雫と言う少女がいるだろ?」
「なんで知って」
「そりゃ地獄の王様だからね。現実世界で起こったことは一通り知っているとも。良い話も悪い話も同じように、ね?」
閻魔はハハハと笑い話を続ける。
「千脚が言った彼女は一度、君の死を見ている。それは本当の事だよ。彼女は時空(・・)を越えてこの世界に来ているからね」
「はー」
突然の突拍子も無い話に脳の処理が追いつかない。雫が別の所から来たって?その世界で俺は死んだ?わからない事が多過ぎる。
「君も少し違和感を感じているはずだ。本来保管されている研究施設では無く、何故、細い住宅の路地裏に居たのか」
「待ってくれ、どうしてそれをあんたが知ってるんだ!?」
「私はあらゆる時間軸の記憶を保持しているからね。君の両親が千脚に殺されず、君が幸せに今も尚、こんな戦場に立たずに平穏に暮らしているそんな世界の記憶もね」
「っ…」
「話を戻すけど、彼女の元いた世界ではこの世界は滅んでいる。千脚とEBE(イーバ)によってね。だから君に協力して欲しい」
「地獄の王様がどうしてこの世界の肩を持つんだ?」
どうしてなのか。元より王とはその世界を統治するだけの存在。なら地獄が危機的状況にでもならない限りこちらに介入はしないはず。
「イーバを野放しにしていては地獄の存在すらも危ういからね。今はまだ“天の盃”と完全に融合していないから“神技”は使えないけど、完全に融合してしまうと世界そのものがひっくり返る。神そのものが誕生してしまうからね。それは何としてでも阻止したい」
「その話をどうして俺に?」
「君ならできると思ったからさ」
「え?」
「さ、長話はここまで、後は君の働き次第だ。ほら丁度いい」
「…!?」
何処からともなく声が聞こえる。直後、俺の身体が透け始める。
「誰かが君を生き返らせたようだね。生者はここに来てはいけない。早く帰りたまえ」
そう言い元きた道を引き返していく閻魔。その背中に魁斗は声を投げかける。
「閻魔!」
「?」
「俺が世界を救ってやる」
そう言い魁斗は地獄の河原から姿を消す。残された閻魔はハハハと笑い空を見上げる。
「少し生意気だけど、頼りにしてるよ」
「あ、閻魔様!またこんな所でサボってたんですか!?」
「おっと、赤鬼そんなに真っ赤な顔をしてどうしたのかな?」
「本当に言っているのなら拳が飛びますよ?」
「ハハハ、ごめんごめーん!」
その赤い空の下、地獄とは似つかわしくない軽快な声が飛び交っていた。
「さて、それはそうと君はお別れを言わなくても良かったのかい?」
先まで魁斗がいた場所に新たに別の人物が現れる。その人物は黒く、影になっており顔は無かった。
「ふん、あいつにそれは必要ないだろ。置き土産、いや、託すモンは託した」
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「ー!」
「ー、いー」
「魁斗!」
ハッとし目が覚める。勢いよく起き上がる。
「魁斗!」
「魁斗くん!」
「おかえり!」
「心配したんだから」
「あ〜しんど…」
その場には紘、凪、守人、静恵、蜜璃がおり、少し離れた所に風間が立っていた。
どうやら俺を担いで戦場から少し離れた安全な場所で蘇生を行ってくれたようだ。
「今の状況は!?」
「ん」
風間が親指で刺された方角。そこでは離れたここからでも分かるほど壮絶な戦闘が行われていた。
「あれは神器!?」
「今は神器と麗央くんが千脚と白い巨人の足止めをしてくれてる」
凪の説明に魁斗は思考を巡らせる。
(今のまま行っても俺は奴には勝てない。ならどうする?)
そこで、魁斗は自身の内にいる筈の人物が居なくなっている事に気づく。
(あいつ…まさか、俺の身代わりに…!?)
そして、その事に気付いたと同時に魁斗は気づく。自身に新しい異能が覚醒していることを。
手に黒いモヤのようなものがかかる。
(別れの言葉くらいさせろよ…)
「行こう、みんな。最終決戦だ!」
託し、背負って前へ
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