episode.15 別日

雨音、目が覚めるといつもと同じ天井…では無かった。でも知らない天井という訳でもなかった。その天井には見覚えがあったのだ。

特色ある日本家屋の天井、畳。その家は後輩、真季波唯の実家であった。前に一度だけお邪魔した事があった。


起きあがろうとすると少しの抵抗感があり、視線を向けると自身のお腹で誰かが眠っている。まあその誰かというのは言うまでもない。


「スゥスゥ…」


(雫…たぶん、心配かけたんだろうな)


目の下が腫れている事から泣いていたという事は分かった。いや、今回だけじゃない俺が『不死』の異能を使用して眠った後は目の下が腫れていた。ずっと、ずっと心配かけていたのに、俺はそれを見ないフリした。


「ごめんな…」


彼女の頬にかかった髪を退け頭を撫でる。


「お、先輩起きたんスね」ビシャン


戸を音がする程大きく開け放つ唯。魁斗はそれに驚き反射的に撫でている手を上にあげる。


「唯なんで、俺はここに?」


「ああ、先輩驚いちゃダメっスよ?」


「…?どう言う事だ?」


「特課事務所、一晩の内に跡形もなく消えて、それと、えっと…」


歯切れが悪い。事務所が壊れたのにも驚くが多分まだ隠している。事務所が無くなった、俺は今一番気になる事を聞く。悪い予感がする。


「おじさん…鹿目帯人はどうなった?」


俺は初めておじさんの事をフルネームで読んだ。それは不安を取り除く為と、唯に分かりやすくする為だ。おじさんなら大丈夫…


「鹿目さん、先輩のおじさんはー」


「そこから先の話は私がします。真季波くんありがとね…」


「結奈さん…?」


そうだ、事務所が跡形も無くなったならそこから逃げられない結奈さんが何故ここに…?襲撃されたなら尚のことだ…


「2日前…」


私はその日、みんなが出かけた後図書館で返却された本を棚に戻す作業をしていた。その時、突然何者かからの攻撃で事務所が揺れたの。

事務所に残っていた帯人さんは私を連れて逃げようとしてくれたのだけど、事務所から出た後、そこに数字持ちの妖魔が5体現れた。帯人さんでも5体の数字持ちを相手にするのは無理があった。それに私を守りながらの戦闘。その結果右足、左腕をもがれ倒れてしまった。私も体を両断されて…


「気づいたらここにいたの」


「おじさんは…死んだんですか?」


「…」


その直後、扉が開き包帯で巻かれ見るからに重傷な人物が紘さんに押され車椅子で登場した。


「誰が死ぬって?」


「生きてる…」


嬉しい。生きてて…てか唯…お前を許さない。あの状況であの言葉であの濁し方で最悪を想像しない訳ないだろ!


「だから勝手に殺すな」


「いや、実際死にかけだったっしょ?」


紘さんが話す。俺が兜と戦い終わった後、事務所に向かうと倒れていたのは息のない帯人さんと結奈さん。空間転移を使い蜜璃を回収、病院に向かい集中治療の結果。


「どうにか命を繋いだってわけ」


「え、結奈さん体両断されたって…」


「俺が治した、その場に身体さえ有れば治せるからな」


紘の肩に手を回し、現れる蜜璃さん。


「でも、帯人さんの腕と脚はその場に無かった…」


「奴らの目的は帯人の無力化だろうな。息の根を止めなかったのは麗央がすぐそばまで来ていたからだろうな」


「麗央さんは?」


名前が出て思い出す。他のことで一杯で忘れていた。この場所に麗央さんが居ないのはおかしい。そう思いおじさんに聞く。


「麗央は怒りで我を忘れ暴れ回ったから投獄中だ」(帯


「一般人にまで被害が出そうになったからな」(蜜


麗央は生まれた時から異能や身体能力が高く、元々は“幽閉者”であった。


幽閉者

異能の能力が高く、政府から監視付きで生活する事を余儀なくされている危険人物。日本に僅か4人しか居らず、麗央、帯人を含め後2人存在する。


「この先どうするんです〜帯人さん」(紘


「事務所が無くなり、戦力も削られる大打撃…」(帯


「事務所代わりにここを使っていいっスよ!」(唯


「それは有難いが、良いのかい?」(帯


「どうぞ自由に使ってください」(?


扉からもう1人の声がし、そこに目を向けるとそこには1人の男性がいた。その人は唯の父親だ。


「申し遅れました、私の名前は真季波凪。唯の父で医者をしてます」(凪


「凪君と此処には居ないが響也って奴に帯人と結奈の治療を手伝ってもらったんだ」(蜜


「大部分は蜜璃さんが行ってくれましたから、鎮痛剤で痛みは和らいでいると思いますがお加減はどうですか?」(凪


「大丈夫だ、しばらく厄介になる」(帯


仮の拠点が、決まりここからまた情報を整理する為、紘、帯人、蜜璃、結奈、魁斗の5人は別の部屋へと集まった。


「まずは妖魔陣の情報からだ」(帯


No. 1兜

生死不明だが、恐らく消滅したと思われる。

No.2〜No.7

生存。


凪さんが用意してくれたホワイトボードに妖魔達の情報を書き出していく。


「俺の腕を喰らったなら異能、情報が筒抜けだな…」(帯


妖魔は人の肉を食い、その人が異能力者であればその力をものにできる。(大部分を食らわなければ効果は薄い)そして食べた肉体からの情報を抜き取れる。(脳を喰らうと手っ取り早い)


「それ大丈夫なの!?不味いんじゃない!?」(紘


「脳を喰われなかっただけマシだな。脳を喰われたら全ての情報が筒抜けだった。取られた異能も厄介になるな…」(蜜


「腕や脚から抜き取れる情報は高が知れている。だが用心するしかないな。そしてあいつらが言っていた“天の盃”についての情報だな」(帯


「“天の盃”って?」(魁


「“天の盃”とはー」(帯


“天の盃”

国宝であり、対に存在する“神の真水”と合わせる事で使用者に絶対的な力を与えると言われる代物。


「それで何をするつもりなのか知らないが碌でもない事なのは確かだ」(帯


その時、帯人の携帯電話が鳴り響く。その着信者名には静恵と記載されていた。


「あ、色々あり過ぎて忘れてたな…」(帯


電話口から聞こえる怒鳴り声は周りにいる4人にも聞こえるほど大きな声であった。

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