33歳、職業対魔師今日も頑張る！

七幕

「よっし、今日は霊気も回復したし頑張るぜ」

　昨日は悪夢も見ずに済んだ為、暁良は丸一日身体を休めたからか顔色も良く、大抵の相手なら問題無く相手できる位に回復していた。

「未知瑠に今日は問題無い事をメールしておくか……」

　未知瑠にメールをすると返信は直ぐに帰ってきた。

「(了解しました。)」

　一文のみの簡単な返事ではあるが、未知瑠らしいと暁良は微笑んだ。

　その後も仕事の事で軽くメールのやり取りをし、昨日出来なかった昼間の調査をする事となった。

　朝食を済ませ現場に向かうと既に未知瑠は待機してストレッチをしていた。

「おっす、待たせたか？」

「いいえ、時間通りだから問題ないわ」

　軽く挨拶を済ませ早速簡単な打ち合わせを始める二人。

「昨日社長に妖怪の特徴を伝えたら、覚かもしれないと言われたわ」

　昨日のやり取りを未知瑠は暁良と共有した。

「そうか、覚は戦った事は無いがそんなに強い相手ではないって資料で見たことあるな」

「でも探知能力は高いらしいから霊気を纏うと直ぐに察知されるのが厄介ね」

「まぁ、でも妖気を隠せたとしても相手が敵意を持って近づいたら流石に気づくだろ」

　暁良は未知瑠の実力を知っているだけに心配はあまりしていなかった。

　未知瑠も油断はするつもりは無いが、暁良の実力を知ってる為、過剰に心配はしていない。

「まぁ、こっちはベテラン二人だし霊気を抑えつつお互いカバーしながら動けばいいだろ」

「そうね、現時点で私達が出来る事なんてそれ位しか出来ないしね」

「そう言うことよ」

　それから二人は昼の暖かい山を歩いて、この山で起こってる事を調査をしているが、特にこれといった事は見つけられないでいる。

　何も知らない人が見ればカップルが山でデートをしている様にも見えるが、現在ここは一般人立ち入り禁止状態である。

「でもよ、調査って言っても原因なんかわかるもんなのか？」

　暁良はふと思った事を口に出した。

「そうね、私は調査で何も無かったとしても異常事態だと思ってるわ」

「その心は？」

「異常がないのが異常」

「お見事！」

　未知瑠はそんなやり取りに軽く溜息を吐いた。

「確かにここまで色んな事が起こってて異常はありません！じゃ腑に落ちないな」

「えぇ、だからこそ夜には一昨日会えなかった奴を発見したいわね」

「あぁ、そもそもの話し覚かどうかもまだわからないしな」

「そうね」

　実際に相手を確認していない二人は若干不安になりつつも調査を続けた。

　それからかなりの時間調査をした二人は空が大分傾いている事に気づく。

「そろそろ休憩して逢魔時に備えるか」

「わかったわ一度山を降りてご飯にしましょう」

　そうして二人は山を降りていく。

　遠くからそんな後ろ姿を見ている者がいるとも知らずに……。

　それから山を降りた二人は近くのベンチに腰掛けご飯の準備をしはじめた。

「ん、おにぎりか？」

「えぇ、今回は山でのお仕事だしね神様に力を貸してもらう為に握ってきたのよ」

　そう言った未知瑠は暁良に二つおにぎりを差し出す。

「いいのか？」

　差し出されたおにぎりを見つめ、未知瑠に聞いた。

「どうせ準備してないと思ってたから多目に作ってきたのよ」

「そうか、サンキュー」

　おにぎりを受け取ってから暁良はさっき未知瑠が言った言葉がきになった。

「そういえば、神様にお願いする意味でおにぎりって何で？」

「貴方も一応神職なのにそれも知らないのね」

　未知瑠が言うには、昔の人々は山を神格化しており、山には神が住む場所であると信じられていて、その力の加護を受けようとおにぎりを山の形に結び体内に取り込む為に食していたと言われている。

「ふーん、まぁご馳走さん」

「全く貴方って人は……お粗末様です」

　おにぎりを食べ終わった二人は時刻を確認し、十六時を過ぎてた事に気づいた。

「そろそろ逢魔時ね、少しゆっくりしすぎたかも」

「そうだなこれから戦う事を考えると億劫になっちまいそうだけどな」

　二人は立ち上がり再び尾上山に向かっていった。

　日は既に沈みかけており逢魔時であった。

　今回は前回の二の舞にならない様に予め霊気を抑えてから山に近づいていた。

　その甲斐あってか再び尾上山に来た二人は警戒レベルを引き上げる事になる。

「これ、覚じゃないだろ」

「え、えぇこの妖気はAランク相当の気配よ」

　そう、現在の尾上山は妖気を感知出来ない一般人が来たとしても感じ取れる程の濃密な気配で覆われている。

「だけど、一昨日来た時に一瞬感じ取った妖気はここまで桁外れではなかったぞ」

「……これは調査出来なかった昨日何かあったのかしら？」

　未知瑠は昨日来なかった事を軽く後悔した。

「これは一度引き返した方がいいかもしれないわね」

「そうした方がッッッつ！」

　未知瑠の言葉をに返事を返そうとした時、二人の身体に強烈な悪寒が走った。

「帰っちゃうの？」

　その声と共に山の中にあった濃密な気配はいつの間にか暁良達の背後から感じられた。

「もっと遊んでいけばいいじゃない」

　未知瑠は金縛りにあったかの様に動けなくなり、暁良も凄まじいまでの気配に身体強張ってしまっている。

「どうしたの？動けなくなっちゃった？」

　尚も背後から声を掛けてくる。

　暁良は強張った身体に鞭を入れ、意を決して相手の方に振り返る。

「やっとこっち見てくれた」

　トクンっと心臓が高鳴る音が頭の中に響いた気がした。