二十九幕

 現在、逢魔時である。


 今回は前回と違いベテランは全部で十五、ペア相手の新人達十五人、と単騎の橋姫で合計三十一人だ。

 これ以上の人数は他のエリアに大きく影響出る為、無理と上層部が判断を下した。


 作戦の開始は花菱の叱咤咆哮から始まりを告げる。


「お前えら!気合い入れろやぁぁぁぉぉ!」

「「「おぉ!!!」」」


 花菱の視線の先には三鬼がいる。

 その三鬼はこちらを見て嗤っている。


「おやおや、下等な人間がワラワラと来ましたね」

「カカカ、我らが揃っているんだ、どうせ何も出来ないですな」

「そうですね」


 三鬼は対魔師が近くにいても構えようともしない。

 花菱は構えない三鬼を見て。


「何だ、素直に殺されてくれるのか?」

「これはこれは、私達を殺せるんですか?」

「カカカ、虚勢ですな」

「そうですね」


 自分達を脅威とは思ってない、完全に舐めていた。

 だが、その油断は橋姫……茨城姫乃としては最高の油断だ。

 目深くに被った帽子で顔を隠すだけでは三鬼にバレるリスクがあった。

 だが三鬼は戦闘が始まったにも関わらず、仲間達と談笑しているかの様な油断っぷり。


(あいつらが隙を見せたら、一瞬……ほんの一瞬だけ妖気を解放して、白鬼を攫う)


 妖気を解放したら人間側にバレる、だから一瞬だけ、一瞬だけなら三鬼の妖気で誤魔化せるかもしれない、そこまでしても気付く奴はいるだろうがそれでも暁良を助ける為に、力を使わないと言う選択肢は無い。


 そう考えていると、その隙は直ぐに出来た。

 碓井が敵に切り込んでおり、それに合わせて花菱や他のベテラン達も切り込んでいったのだ。

 それを見た白鬼は「ほうほう、何人か出来る奴はいるそうだ」と意識を碓井の方に向けた。


(今だ!)


 そう考えた時には、既に行動していた。

 そしてこの戦場から轟音と破砕音と共に橋姫と白鬼が消えた。












 皆がいる我孫子山からかなり離れた位置、名も無き山ではあるがここに橋姫と、殴られて吹き飛ばされた白鬼がここにいる。


「やっと二人きりになれたね」

「おやおや、そんなに私といたかったのですか?」


 体に付いた砂埃を払いながら、平然と立ち上がった。


「えぇ、会いたくて会いたくて、夜も眠れなかったワ」


 まるで遠距離恋愛をしているカップルがやっと会えたかの様な会話だ、だがその感情は真逆である。


「昔の仲間ノよしみで、暁良を返して素直に引き返すって言うなら命だけは助けるヨ?」

「あらあら、嬉しいですね、ですが貴方が狙ってる位牌を私は持ってませんよ?」

「だったら残リの二人かナ?」


 そう聞き返した橋姫は白鬼が発した言葉に驚いた。



 場面は変わる。

 花菱は自分達は足止めが任務だが、倒すつもりで戦っている。

 その甲斐あってか、前回より万全だからかはわからないが、確実に肌鬼の力を削いで行ってる。

 上手く行けば姫乃の力を借りなくても倒せるだろう。


「大人しくやられろやぁぁぁーー!」

「カカカ、いつも人間は威勢だけはいいなな!」


 肌鬼は花菱がこの中の中心人物だと理解して花菱ばかりを優先して狙っている。


「せいやぁ!」


 だがそれをさせない為に、未知瑠や他のベテランは動く。

 花菱と未知瑠、他のベテラン達は肌鬼を狙っていた、だかその中に碓井はいない。


 碓井は新人達と、赤鬼を狙い少し離れた所で戦っていた。

 新人達が混じって大丈夫なのかってベテラン達は思ったが、その状況を見れば杞憂だった。


 それは前回青鬼と戦っていた状況と酷似している。


 違うとしたら、それは赤鬼にダメージを与えられる者がいない事。


 新人達の攻撃は殆ど無意味であった。

 だが赤鬼のほんの僅かな注意を引く事はできる、その殆どが未知瑠や大河、後は一人位だったのだが赤鬼にヒヤリとさせた。

 本当にその程度である。


 赤鬼は勝てないと理解した、勿論長く戦えば自分が勝つ、だがこのまま時間が経てば、茨城童子、もしくは肌鬼がやられて此方に援軍が来て殺されると理解している。

 だが、それでも余裕そうに話しかける。


「それにしても、人間はプライドが無いのですね、妖怪と手を組むなんて」


 姫乃の事を言っているのだろう。


「あら〜、なんの事ですかぁ〜?」

「他の者ならともかく、貴方程の実力があれば気づいてるでしょ」

「……」


 碓井は黙った。

 その会話を聞いてた新人達も何を訳わからない事を言ってるんだ?と言った顔である。


 碓井は何で赤鬼はこの詰んでる状況でそんなに呑気に話していられるのかわからなかった。

 何故鬼達がこんな呑気なのか、それは。
















 少し離れた所では裏鬼門が開いていた。

 そこにはC級からB級にカテゴライズさらている妖怪が出てきている。

 Bも混じるとなると新人達では苦しい。


 場面は再び橋姫に戻る。


「今何テ言っタ?」

「おやおや、耳が悪くなったんですか?裏鬼門に置いてきたって言ったんですよ」


 位牌は裏鬼門に置いてきたと告げられた。


「何デそんな所に?」

「いえいえ、単純に幽世かくりょの近くに置いた方が瘴気で早く堕ちるかな?って思っただブハッ!」


 最後迄聞かずに殴った。


「まったくまったく、話中に殴るなんて酷いですね」

「そうネ、相変わらズ、ふざケた回復力ダけはホメて上げる、ソシて安心シて」


 そう言った後、妖気を爆発させた。


「モウニドトサイセイシナイカライタイノハイッシュンダヨ」


 そこから先は、一方的に白鬼を破壊するのであった。

 圧倒的暴力によってあっさりと白鬼は死んだ。


「早く行かないと……」


 そう呟くと橋姫は我孫子山に戻っていった。

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