二十五幕

 橋姫と遊びに行った翌日は真っ直ぐ社務所に来ていた。

 社務所に入ると大河がおり、こちらに気付くと暁良の方にやってきた。


「源先輩、今お時間いいですか?」


 畏まって話しかけてくる大河に「なんだ、俺をカツアゲでもしに来たのか?」と冗談混じりに言う。


「いぇ、その特訓をつけて頂けませんか?」

「何で俺?お前の相棒は未知瑠だろ……」


 暁良は正直面倒って態度で返す。


「わかっております、鏑木先輩も大変勉強になるのですが、同じ刀を使う物として教えてもらいたいのです」

「とは言え刀の扱いなんてお前の一族に聞いた方が為になるだろ?」


 そう言うと大河は言った。


「刀もそうなのですが、霊装具現化の仕方、つまり霊気の流し方を教えて欲しいのです」

「それこそ俺が教える事じゃないじゃん!」


 全力で拒否する暁良に「お願いします!俺、もし武器ガチャで刀以外になったら戦えません!」と暁良の両肩を掴み懇願してくる。


「刀以外になったらそれがお前に合う本当の武器だよ……」

「ですが、今迄磨いて来た業が使えなくなります!」


 色々面倒になった暁良は「わかったよ」と言って大河のお願いを聞いてあげた。


「要約すると霊装で刀の形状にしたいんだな?」

「はい!」

「なら出かけるぞ」


 そう言って二人は町にある剣術道場へと向かっていく。


「えっと、ここで何するんですか?」

「ここで暫く暮らせ」


 いきなりな事を言われて困惑する大河。


「具体的にどれくらい迄ですか?」

「具現化出来るまでだ」


 その言葉に「えぇ!」と驚いている。


「正直な話し、俺も具現化武器を指定する方法など知らん、だが、相性の良い武器が具現化される」

「そうですね」


 そう大河が答えると。


「だからお前自身が刀になれ!刀の気持ちを考えろ!お前は刀だ!」


 物心着く頃から刀を握っていた大河に勢いだけで説明する。

 実際に剣に生きてる轟鬼の一族の人間はほぼ100%刀を具現化している為、あながち間違いないのではある。


「いいか!お前は一振りの刀だ!刀は喋るな!これから仕事の時以外は、ここで刀になって刀を振れ!わかったか!」

「はい!」


 勢いに押されてそう答えた大河。


「よし!それじゃ俺は帰るからちゃんとやるんだぞ!?」


 そう言って暁良は道場から出て行った。


「はい!……え?」












「さてと、微妙な時間だな、俺も訓練するか」


 先日の青鬼との戦いで単純に地力が薄いと感じた暁良は今後は訓練を増やすかと思案していた。


「だけど、一人でやるには限界あるし……」


 そう考えているとスマホからメールが届く音が聞こえて来た。

 メールを見ると「(遊ぼ?)」と短い文が橋姫から届いた。

 それを見た暁良はニヤァ〜と悪い笑顔を浮かべた。









 暁良がよくお世話になってる訓練所には暁良と橋姫がいた。


「ねぇ、私騙された?」

「いや?騙してないよ?」


 暁良は橋姫に「(いいぜ遊ぶか!)」とメールを返してここに呼び出していた。


「それじゃ此処で何するの?」

遊び訓練だよ」

「別にいいけど、終わったらちゃんと遊んでくれる?」

「オッケー、飯は奢ってやるよ」

「ん〜、それじゃ良いけど、どの程度の力でやるの?私も昼間だから、そこまで力だせないよ?」


 橋姫がそう言うとストレッチを始め出した。

 暁良もそれに倣いストレッチを始めた後、刃の付いてない刀を構えると。


「それじゃ、俺一人で熊童子とそこそこ戦える位の想定で頼む」


 冗談っぽく言うと「わかった〜」と言った直後に暁良は吹き飛んだ。


「おまっ!そんなに力出せないんじゃ無かったのかよ!」


 そう暁良が語りかけると。


「出せないよ〜これでほぼ全力かな?」

「まじか、制限受けてもそれか!俺がどうにかなるレベルで戦ってくれ」


 妥協したのである。


「五月雨一閃!」


 空中から雨の様に降り注がせた斬撃を、橋姫は大きく横に跳躍して躱す、暁良はそう動くと読んで即座に着地、着地の反動を利用しグッと足を踏み込み、縦に回転攻撃をしながら橋姫に突っ込んだ。


「ッツ!」


 その攻撃を横に回転して長そうとすると、暁良は回転をやめ、横向きの回し蹴りを放った。


「やるね!」

「伊達に最近虐められてない!」

「別に私、暁良の事虐めてないよ?」

「真面目に返すなよ……」


 そんなやり取りをしつつも暁良の刀と橋姫の拳は激しく打ち合っている。


 訓練は夕方迄続いた。


 橋姫からも戦いのレクチャーを受けたりして、暁良は今日一日だけでもかなり成長できた実感を感じた。


 訓練所に備え付けてある男女別のシャワー室でお互い汗を流した後にご飯を食べに出かけた。


「今日は何処いく〜?」

「そうだな、偶には牛丼食いたい」

「偶にはって……結構食べてるって夏希とかから聞いてるよ?」


 夏希から情報が流れてると知った暁良。


「俺にプライバシーはないのかよ」


 そう呟くと深い溜息をつく。


「あはは、暁良は人気者だね、暁良の情報が動くって事は、暁良の事を知りたい人がいるから動くんだよ?」

「そうかよ」

「そうだよ」


 そのやり取りをしつつ空を見上げると綺麗に星がでていた。


「今日はその辺の公園でコンビニおにぎりでも食いながら星でもみるか」


 そういうと「偶にはいいね、そういうのも」と言うから星空を見ながら飲む事になった。


「それじゃ、私適当に買ってくるから、暁良は良さそうな場所探しておいて?」

「あいよ、見つかったらメールする」


 そう言って二人は分かれた。















 橋姫はコンビニで買い物を済ませ、暁良からのメールを待った。

 


















 どれくらい経っただろうか十分いや二十分位だろうか、暁良にメールを送っても返ってこない。
















 橋姫は公園を駆けた、買った食べ物等とっくに放り出している。

















 一人の男が倒れている。

 そこに三人の異形が男を囲んでいる。

 倒れてる男は見た事ある。

 目の前に映る光景を見た事ある。

 何時だったか、さっき?昨日?。

 これ以上見たらきっと壊れる。

 誰が?わたしが?あいつが?

 見てはいけない。

 見ないといけない。

 先に進まないときっと後悔する。























 源暁良は息をしていなかった。

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