十五幕
夏希と二人になった暁良は、近くのカフェに入って話しをしている。
「それにしても、早瀬が対魔師か……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!私こう見えてます優秀ですよ!」
とても説得力が無かった。
「お前がここ最近何か含む言い方してたのは、これの事だったんだな」
暁良が今迄の事を問うと「サプライズです!」と鼻息荒く言ってきた。
「んで、何で対魔師になろうと思ったんだ?」
この返答次第では、戦いから遠ざけるつもりでいる暁良。
何故なら、対魔師は命のやり取りがあり、中途半端な気持ちでやれば後悔しか残らない事を知っているからだ。
「私って、中学生の時に山で迷子になったんですよ〜」
いきなり中学時代の迷子話しを始める夏希に「なんの話しだ?」と返すと「理由の話ですよ!」と言ってくる。
「それで、長い時間山から出られなくて、気がついたら夜になってたんですよ〜」
「よく無事に帰れたな?」
夜の山は妖怪が多くいる場所、子供が無事に帰れるのは相当運がいいのである。
「無事じゃないですよ〜、ちゃんと妖怪に襲われました!」
「そうか」
相槌を打ちつつ話しを聞く事にした。
「私は恐怖で体を震わせながら、山から降りれる道を探していたのですけど、そこで妖怪と出会ってしまったんです」
その時の恐怖は今でも覚えているのか、自身の肩を抱く。
「その妖怪が血走った目で私に襲い掛かってきたんですよ〜」
「一応頑張って逃げたりしたんですけど、直ぐに追いつかれたりして、もう駄目だ〜!ってなった時に、若い対魔師さんが颯爽と現れて助けてくれたんですよ」
暁良の瞳を強く覗きながら、真剣な表情で話す夏希。
「その姿がカッコ良くて、私は人を守る対魔師になりたいって思ったんです」
「それは命を賭けれる理由なのか?」
「正直、命を賭けれるかはわかりません!」
わからない事に命を賭けるのか?と思う暁良なのである。
「そもそも、人を助けたいって思う事に命を賭けるとか理由とか権利とかそんなの必要なんですか?」
その言葉に「そうだな、その通りだ」と言った。
夏希だって対魔師は命賭けだと言う事は百も承知だし、その決意に対して暁良が勝手に道を決めるのは違うなと反省した。
「ところでお前の武器は何だ?今日は持ってきてないようだが……」
「えっ、持ってきてますよ〜?」
そう言いながら腕輪を触る夏希、その言葉の意味を知った暁良は「はっ?」っと思わず言ってしまう。
「早瀬は霊装具現化できるのか?」
「できますよ!」
(マジで優秀じゃないかこいつ……)
「それならペア組む理由なくないか?具現化出来るって事は、戦力としては初心者の領域を出ているぞ?」
そう言うと夏希はもの凄く申し訳ない顔で「実は……」と切り出してくる。
「私、身体強化も霊装具現化も出来るのですけど、戦闘のセンスが致命的にないって対魔師試験官の方から言われました」
「身体強化してるのにセンスがないってどういう状態だ?身体強化すれば大抵はどうにか出来るだろ」
身体強化を施せば、感覚も研ぎ澄まされるので、運動音痴と言われる様な人でも、ある程度動けるようになるはずなのである。
「何にしても、一度見てみないと何も言えないな……」
そう言って二人はカフェを出て、今は比較的安全になった尾上山に向かうのである。
尾上山に着いた二人は早速準備を始める。
「とりあえず、俺は具現化しないで相手するから、そっちは具現化してかかってきな」
「わっかりました!覚悟して下さいね!」
自信満々な態度で呪文を紡ぎだす。
「私が助けたい人全てを守る矛よ、私に力を貸して!」
その言葉と共に腕輪は淡い光りを放ち形を作って行く、そこに現れたのは大きな弓であった。
(矛じゃないじゃん)
「それじゃいつでもかかってきな」
「はい!行きます!」
そう言った夏希は霊気で生成された矢を番え、攻撃を繰り出そうとしてくる。
「何故その距離で矢を番る、弓が武器なら距離を取れ距離を……」
「意表を突けるかなって思ったんだけどな〜」
確かに意表を突かれたと暁良は思う。
「取り敢えず俺は離れるから、時間を合わせて模擬戦を開始するから、弓を使って俺をどうにかしてみな」
「わかりました!余裕です!」
「俺から一本取れたら聞ける範囲で一個だけお願い聞いてあげるぜ」
「ホントですか!これは気合い入ります!」
かなりやる気充分なようだ。
「ちなみにそっちの勝利条件は、俺から一本取る、敗北条件は俺に無力化させられるって事でいいか?」
「オッケーです!」
「それじゃ離れるから五分丁度に開始するからな?」
夏希の姿が確認出来なくなる位に距離を空けると、時間まで意識を研ぐ。
(腕輪が弓の形を取ると言う事は、夏希は遠距離適性が高い筈だ、この距離だとあっちが有利だろうから気合入れないとな)
夕陽も出始め開始時間になった。
そしてその瞬間、暁良がいた所に矢が飛んで来る。
「あぶなっ!」
暁良は矢を回避できたが、ヒヤリとした物が背中を伝う。
更に二発の矢が最初の矢と同じ方向から飛んでくるがこれも回避する。
「同じ方向から何度も矢を射るのは、場所を教えるだけだから悪手だぞ」
そう言って、身体強化を全開にした暁良は、弾丸の様に真っ直ぐと夏希がいるだろう場所に走って行った。
夏希は暁良が向かって来ている事に気がついてるが、それでも矢を射っていく。
「見つけた!」
夏希を見つけた暁良は、更に足を速め距離を詰める。
距離を詰めてる間にも「てい!ていっ!」とやる気か無くなりそうな声と共に矢が飛んでくる。
夏樹に手が届く距離まで近づいた暁良は「チェックメイトだ」と言って攻撃を繰り出そうとした時、肩に痛みが走った。
「やった!一本!」
夏希の喜ぶ声が聞こえる。
「何が……」
暁良の疑問に夏希が答える。
「私の切り札、不可視の矢です!霊気の消費が大きいのでそんなに撃てないですが!」
「不可視の矢とか初見殺しも良い所だろ……」
自分も不可視の刃を使うのに棚上げである。
「っと言うか何処が戦闘センス無いだよ!全然あるじゃねーか」
「嘘じゃないですよ!お前は機転が効かないから直接戦闘するな!って試験官さんに言われました」
その言葉は本当なのか必死に説明してくる。
「今回は最初から切り札で、一本取る為だけに他の攻撃は全部陽動としました!ですから切り札を防がれたら、間違いなく私の負けですよ!」
つまり最初から計算通りだったらしい。
「まぁ、負けたのは俺の油断だし、願いは何だ?予算は一万円までな?」
「やった!って別にお金使う様な事は言わないですよ!」
「それじゃ何だ?」
そう言うと恥ずかしそうにモジモジする。
「私の事、下の名前で呼んで下さい!」
「そんな事でいいのか?」
「そんな事でいいんです!せっかく相棒になったんですから!」
「まぁ、取り敢えず腹減ったから、飯食って帰るか〜」
そう言って踵を返した暁良の後ろで「えぇ〜〜呼んでよぉ!!」と叫んでいる。
暁良は軽く溜息をつくと。
「ほら、行くぞ夏希!」
その顔は少し赤く染まっているが、夕焼けの光りか、恥ずかしさで染まってるのかは、暁良にしか解らない。
「ところで肩痛いんだが?大丈夫なのかこれ?」
「ごめんなさい〜〜!」
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