十六幕

 今日は新人である夏希に、一日の流れを把握させる為に細かい仕事を任せた。


(夏希が今日の現場情報を確認しに行ってる間に、橋姫にメール出しておくか……)


 以前約束した内の一つを思い出した為、暁良はスマホを取り出し橋姫にメールを書く。


「(今日は以前話した早瀬と夜に仕事だが来るか?)」


メールを送ると直ぐに返事が返ってくる。


「(仕事終わったら行く!)」


 そう言えば、仕事してるとか言ってたなぁと暁良は思い出した。

 詳しい事はまた後で連絡するとメールすると直ぐに「(わかった〜)」と返ってきた。


(何の仕事してるのかわからんけど、メール返すの早すぎだろ)


 もう橋姫の現代染まりに疑問を抱かない様にした暁良である。


 暫くすると夏希から現場情報が回ってきたので、夕方に待ち合わせする事になった。

 時間まで現場の近くの町を散策しようと思った暁良はブラブラと歩き出した。


「この辺は全然来ないから、何か面白い物が見つかるといいな」


 町はそこそこの賑わいを見せており、近くには海もあるので、今は違うが夏場は更に人でごった返すだろうと予想できる。

 町を抜けて海まで出てきた、因みに今回の現場はここである。

 暁良は軽く海の周りを歩き、また町に戻った。


 町に戻ると怒声が聞こえてくる。


「お前がぶつかって来たんだろ!慰謝料払えや!」

「そんな、私達は避けました!貴方がぶつかってきたのは周りの人達もみてる筈です!」

「………」

 

 どうやらチンピラに絡まれてるカップのようだ。

 男の方は声が震えているが気丈に対抗している。

 女の方は恐怖からか一言も喋らない。

 周りで遠巻きに見てる人の反応を見るに、見た目通りチンピラが因縁をつけてる事が予想できた。


「あぁん!慰謝料で許してやるって言ってんだよ!さっさと払えやっ!」

「な、何で払う必要のないお金を払わないと行けないんですか…!」

「なんだとっ!」


(周りも関わりたくないからか助けようとはしないか……しょうがない助けるか)


 チンピラが男に殴りかかろうとする手首を暁良は掴んだ。


「はい、そこまでな」

「んだぁ?テメェその手離せや!しばくぞ!」


 そう言ったチンピラは今度は空いた手の方で暁良に殴りかかってくる。

 暁良は掴んだ手首を捻り上げるとチンピラはグルンッと回転して投げ飛ばされた。


「どする?まだやるなら付き合うけどオススメはしないぜ?」


 倒れてるチンピラは暁良に勝てないと悟ったらしく、急に態度が変わる。


「あ、いぇ大丈夫です、そのすいません」

「謝る相手間違ってるぞ?」


 そう言うとチンピラはカップルの方に向き直った。


「どうもすいませんでした……許して下さい」


 チンピラはこれで良いですか?と言わんばかりの視線を暁良に向けたが、その視線を無視した。


「もう二度とこんな事しないで下さい!貴方みたいな人がどれだけ迷惑をかけてるか、良く考えて行動して下さい!」


 暁良が味方だと思ったのか、男はチンピラに向かって強気に文句を言い出す。

 それを見た暁良は軽く手を振りカップルを放置して去った。


(これ以上は余計なお節介だな、後はあの三人の問題だ)


 その後、散策する気分じゃ無くなった暁良は、近くのカフェに入り、待ち合わせの時間迄時間を潰した。

 時刻が十六時になり待ち合わせ場所に来ると夏希が先に来ていた。


「待たせたか?」

「大丈夫です!私も今来た所ですよ暁良さん!」


 夏希は昨日の一件以来、暁良の事も下の名前で呼ぶ様になった。


「そうか、この場所の立ち入り禁止申請は出てたか?」

「ちゃんと出てました!ご安心下さい!」


 確認事項を確認してると時間がきた、逢魔時である。

 二人は武器を具現化して備える。

 妖怪の気配がどんどん増えていく。


「餓鬼が七、船幽霊が十二って所だ遠距離から一方的に狙える夏希はまず船幽霊をねらえ!大した相手じゃないから気負うなよ?」

「わかりました!余裕です!」


 夏希は気負う様子も無く敵の射程外から一方的に射掛けていく。


「俺は近づいてくる奴を端から狩る!」

「了解です!」


 一方的に妖怪を狩っていく二人、デビュー戦は問題なく終わるなと思った暁良と夏希耳に「ぎゃぁぁぁ!助けてぇーー!」と声が聞こえて来た。


「ちっ、禁止エリアに入った奴がいたか、行くぞ夏希!」

「はい!行きましょう!」


 そう言って声の聞こえた場所に行くと昼間に見たカップルが妖怪に襲われていた。

 妖怪の見た目は牛の頭と鬼の体を持つ牛鬼と呼ばれている妖怪で海を代表する妖怪の一つだ。


「俺が二人を抱えて外に連れて行くから援護を頼む!それと牛鬼には近づくなよ?毒を吐く」

「わかりました!暁良さん二人をお願いします!」

「任せろ!」


 その言葉の後に、弾丸の様な速度でカップルの側に走り込んだ。


「は、早く助けて!」「………」


 暁良は気づいた、女は人間じゃない事に。


「まさか、濡れ女か……取り敢えずアンタを連れて行く」


 そう言って男を脇に抱えた暁良は一瞬で戦闘範囲から出た。


「単刀直入に聞く、あの女はアンタの何だ?」

「し、知らないですナンパされて今日海に来ただけですよ!」


 その言葉に暁良は「そうか」と少し悲しそうにした。


(濡れ女は男を殺そうとして、男の方は女を大事にしてた訳じゃない……か)

「俺は戦いに戻るけど死にたくなかったらここから動くんじゃないぞ?」

「そ、そんな助けたならちゃんと助けて下さい!」


 その言葉を聞いた暁良は「アンタのせいでどれだけ迷惑をかけてるか、良く考えて行動しな!」と言った後一瞬で戦場に戻った。

 戦場に戻ると夏希はちゃんと距離を取って戦っていた。


「よく持ち堪えた、牛鬼を狩るから掩護を頼む」

「それは良いですけど女の人は……?」

「それも後で話す、取り敢えず女は放置で近づくな」

「わ、わかりました!」


 夏希が連続で矢を放ち、雨の様に矢を降らす。

 牛鬼の中での驚異度は暁良より夏希のが遥かに高い為、自分に対する警戒が薄いと暁良は理解していた。


(俺の警戒が次に離れた瞬間に斬る!)


 夏希は矢の雨を降らし、その中の一発に不可視の矢を混ぜて牛鬼の目を狙った。


「ていっ!」


 不可視の矢は牛鬼の目に刺さる、そしてその時を待っていた暁良は駆け爆ぜた。


風雷!ふうらい


 牛鬼は自分が斬られた事すら、認識できずに絶命した。

 それと共に周囲の妖気濃度か薄くなった。


「戦闘終了だな」


 額に浮いた一筋の汗を拭い、夏希合流しにいった。


「おつかれさん、初陣には思えない程の活躍だな」

「お疲れ様です!暁良さんの指示のお陰です!」


 夏希は本当にそう思ってるようだ。


「それじゃ夏希はあっちの方で男が腰抜かしてるから連れて行って説教しててくれ」

「えっと女の人は一緒じゃないんですか?」

「あれは俺が説教してから解放するわ」


 その言葉に夏希は納得しきれない感じで「わかりました……」と言って歩いていく。


(さて、最後のお仕事と行きますか)


 そう言って暁良は濡れ女の方に歩いて行った。

 濡れ女の元についた暁良は軽く問いかける。


「さて、わかってると思うけど何か弁明はあるか?」

「……」

「そうか済まない」


 その言葉と共に濡れ女の首を落とした。


「ホント世知辛いな……」


 その後、夏希と合流して後処理をした後、レストランに入った。


「暁良さん!今日は改めてありがとうございます!」

「気にすんなぁー」


 手をフラフラ振って応えた。


「所で今日は牛丼屋じゃないんですか?」

「俺はそんなに牛丼のイメージか?まぁ、良いけどな!それはそうとこの後に人が来るからな」


 そう言った所で声が響いた。


「やっほー、待った?」


 現代鬼っ娘が合流出来たのであった。

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