三十八幕

 あの日から一ヶ月程経ち、其々が訓練にも慣れて来た頃に事件は起こった。


「さて、今回は上から命令が来ました」


 一誠のその言葉に全員に緊張が走る。


「大した相手ではないよ、今回の敵は以前大討伐で逃げ延びた肌鬼だ、これを源君、鏑木君、早瀬君、轟鬼君の四人で討伐してもらう」


 指名された四人は何で四人で討伐?と思う。


「何で四人で?って顔だね、理由は簡単だよ君達四人が取り逃した敵だからだ」


 暁良は、俺そもそも居なかったじゃんと思ったが黙っている。

 姫乃も、私も居たんだけど……と思っている。


「この戦いは君たち四人の訓練成果が試される場だと私は思っている、姫乃君が参加したら成果が見れないと判断した為、君達四人だけとなった」


 ゴクリと四人の喉が鳴る。


「勿論、取り逃がしたら上から文句言われるから私達も控えているがね、これは次に来る大天狗討伐の前に君達自身が自分の実力を知る良い機会だ、頑張ってくれ」


 四人は一誠の言葉に、


「了解しました!」


 と返した。


 その日の内に肌鬼がいると報告を受けた箱根に、魔強導隊第三部隊が所有する車で向かった。


「現場まで送ってくれるとかいいな!いつも現地まで歩いたり、何かを乗り継ぐとか面倒だったんだよな」


 面倒くさがりな暁良はこの待遇に素直に喜んだ。


「暁良君も、もっと早く魔強導隊入れば良かったのにね、そうすればもっと早く会えたのに」

「その時は多分別部隊配属だったんじゃね?」


 千歌の言葉に暁良は真面目に返す。


「暁良や私達は人員補充の意味で、この部隊って聞いてるしね」


 姫乃が暁良の言葉に補足するように言った。


「聞きたいんだが、俺たちが入る前にいた人達は強かったのか?」


 暁良の言葉に室内にいる百鬼夜行元々のメンバーはどう話していいか戸惑っていた。


「強かったぜ、だがそれ以上に大天狗がやばかった……」


 悠太が答えてくれた後、車の中を静寂が包んだ。


「悪い、無神経だった」

「気にすんな、いつかは笑って話せるさ」


 暁良の謝罪を悠太は素直に受け取ってくれた。


 その後、車内は目的地に着くまで全員無言だった。


 目的地に着くと、車に座って固まった筋肉を解す為に、全員軽く身体を伸ばしたりしていた。


「さて、逢魔時まで時間はまだあるね、さっきも話したけど君達四人が倒し、私達残り六人は逃げられ無い様に包囲だけしておく」

「「「「了解です!」」」」

「良い返事だ、それじゃ配置について霊気は逢魔時迄は出さない様に、気取られて逃げられるかもしれない」


 その言葉と共に行動は開始された。





 暁良達が配置に着いた頃、妖怪が力を発揮する時間、逢魔時が訪れた。

 逢魔時と同時に肌鬼に接敵する。


「カカカ、来たか対魔師よ」

「何だ、気づいていたのか?」


 肌鬼の言葉に暁良が返した。


「カカカ、逃げるのも疲れた、最後は尋常に勝負しようかと思ってな」

「潔いですね、前回の逃げっぷりが嘘の様です」


 勿論偽物と言う事はないのだが、目の前で逃げられた未知瑠からすれば、今回の肌鬼が別の妖怪に見えた。


「カカカ、周りを囲んでる奴は参加しないのか?副首領も参加すればすぐ終わるぞ?」


 その言葉に姫乃は「今回は囲んでいる人は不参加よ」と肌鬼に言った。


「カカカ!そうかそうか!ならば早速始めようぞ!ワシの命、貴様らの命、燃やし尽くすまで!」

「くるぞ!お前ら!気合い入れてけ!」

「勿論よ!」

「頑張ります!」

「油断なんて元よりしてませんよ!」


 暁良の言葉に三人は呼応して応えた。


 其々の命を燃やす戦いが始まった。


「てい!」


 一番最初の攻撃は夏希による矢の五連射から始まる。

 矢と同時に未知瑠が飛び出し、肌鬼が躱す方向に先回りする、予想通り肌鬼はそこに飛び込んできた。


「セイッ!ハッ!」


 飛び込んできた肌鬼に剣による連撃と盾による打撃を織り交ぜながら攻撃していく。


「カカカ!お前は前回ワシと戦った奴等の一人か!良い動きをするようになったじゃないか!」


 肌鬼は未知瑠に当たれば致命となる一撃を放つ。

 未知瑠はその攻撃を一歩踏み込み、紙一重で躱しながら剣を一突きした。


「がっ……カカカ、やはり良い動きをするようになった!」


 未知瑠の剣は肌鬼の腹に刺し傷を穿った。


「私だけじゃないぞ」

「そう言うこった」


 その言葉と同時に暁良は肌鬼の首を獲りにいった。


「カカカ!そう簡単にら獲らせんぞ!グッ」


 確かに首は落とせなかったが、暁良は一撃で終わらせず二撃、三撃と攻撃で傷を負わせていく。

 そこに大河も切り込む、大河は霊装具現化をする事に成功していた、既に百鬼夜行のメンバーとして認められており戦闘面でも力を持ちはじめていた。


「五月雨一閃!」

「五月雨一閃!」


 暁良と大河による連携技、この圧倒的に降り注ぐ刃の雨、いや嵐は肌鬼の肉体を破壊していく。

 それに留まらず、ピンポイントに夏希は、敵の嫌がる所を射抜いていく。


「カカカ……楽しい、楽しいのぉ!」

「まだよ、セイッ!」

「グハッ、カカカ……まだワシの命は燃え尽きておらんよ!!」


 暁良達は攻撃を緩めない、何故なら肌鬼が戦意を失っていないからだ。


 肌鬼の眼はまだ生きている。

 肉体はどんどんと削られていく。

 それでもまだ眼は死んでいない。

 肌鬼の眼はまだ生きている。

 命はどんどんと削られていく。

 それでもまだ眼は死んでいない。

 肌鬼の眼はまだ生きている。

 その首を刎ねられていても……。


「カカカ、楽しかったぞ人間よ……満足した、これで土産話も出来た……暁良と言ったな……人間の中に首領を起こしたい奴がいる……」

「どう言う事だ?」


 首だけになった肌鬼の言葉に暁良が問いかけるが、


「カカカ、それは自分で答えに辿りつくんですな……あぁ、もう時間の様だ……熊、虎熊、金熊、冥府で再び飲み交わそう……」


 そして、肌鬼は風と共に消えていった。

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