九幕

 戦闘は再び始まっていた。

 これを戦闘と言える物なのか判らない程に相手との戦力差が開き過ぎてはいるが……。


霧月!むつき!


 橋姫の攻撃を躱しながら身体を傾け、低空から繰り出す不可視の斬撃を繰り出すも橋姫は問題もなく避けた。


「怖い攻撃をするね?」


 不可視の攻撃に対しての橋姫の素直な感想だ。


「余裕で避けてる癖によく言うよ」

「怖い攻撃だけど、視えないだけの攻撃だし、実際にはそこにあるんだから避けるのに訳ないよ」


 そう言いながらも橋姫は当たれば致命となる攻撃を繰り出していく。


「くっ!」

(こいつギリギリ躱せる攻撃しかしてこねぇ……舐めやがって)


 玩具が何処まで耐えられるかを測るように全ての攻撃がギリギリである。

 しかし、攻撃が当たって壊れたとしてもそれはそれで良いと言った様に容赦は無い。


「ところで貴方は逃げないの?」

「なんだ逃してくれるのか?」

「あはは、貴方が残るって聞こえたし新しい玩具をさっきの女の人が連れてくるんでしょ?」


 会話は筒抜けだったらしいが、未知瑠は無事に逃げられそうだ。


「でも、貴方があまりにも簡単に壊れたり逃げたりしたら、直ぐにあの子を追いかけるから覚悟してね?」

「おいおい、噛めば噛む程味が出るとご近所で評判な暁良さんだぜ?最後まで俺で遊び尽くせよな!」


 会話をしながらも橋姫が繰り出す暴風の様な攻撃が暁良を襲う。

 暁良は今に倒れてもおかしくない程、疲弊し戦っていた。

 一方で橋姫は何の疲れも感じさせない余裕な表情で、暁良の精神と意識を削る攻撃をしてくる。


「ホラホラ!どんどん動きが鈍くなってるよ!」


 暁良の動きが鈍ろうが橋姫の攻撃ペースは一向に緩くなる事はない。


(やばっ……意識が遠のいてく……る……)


 このまま意識を手放せば楽になれる。

 楽になればこの苦しみから解放される。

 面倒くさがりな暁良には意識を手放す誘惑がとても甘く感じた。


 しかし!


(駄目だ!ここで諦めたらそれこそ遊び殺される!こいつは俺が諦めない内は俺で遊ぶ!俺が耐えれば社長がこいつを何とかしてくれる!)


 身体の動きは時間が経つたび鈍っていくが戦う意思は時間と共に漲っていった。

 だが意志が漲っているから相手が弱くなるなんて事はありえないのである。


「頑張れ!頑張れ!」


 何とも力が抜ける応援だが、橋姫からは本当に頑張って欲しいのだと不思議と理解できた。

 とうとう肉体のダメージが精神を超え、暁良崩れ落ちる。


(まだ…終わ…る訳に…は…)


 そこを最後に暁良の意識は闇に落ちた。


 夢を見た?。

 夢を視た?。

 ユメヲミタ?。


 目ノ前にイル美シい女ヲ屈服サせたい!

 本能ガこノ女の全テを奪エト動きだす!


 橋姫が歓喜の声を上げ俺と戦っている。

 橋姫が艶を帯びた顔で俺と戦っている。

 橋姫が俺に全てをぶつけて戦っている。

 橋姫に俺の全てをぶつけて戦っている。


 俺の意識は再び堕ちた。目覚めた


 意識が戻ると真っ白な天井が見えた。

 霞がかった頭で辺りを見てみるとテレビ等で見た事ある機会が並べてあった。

 暁良の腕には点滴等のチューブが取り付けられている。


「……ここは病院か」


 まだハッキリしない意識で呟いた。


「ここ病院か!何で俺……痛っ!」


 痛みで一気に意識が覚醒した暁良は現状把握をはじめる。


(俺は確か橋姫と戦っていたはずだが、クソッ途中から全然覚えていない!そして何より全身が痛いぜ……)


 取り敢えずナースコールを使い看護師の方に色々聞いてみる事にした。

 看護師の話しでは、暁良は尾上山から搬送されたとの事、その時に幻魔と未知瑠が付き添ってくれた事等を聞いた。


「これは詳しい事は社長と未知瑠に聞くしかないか」


 そう考えた暁良はこの日、夜も遅い事もある為眠りについた。

 翌日の朝から面会で幻魔と未知瑠が早々にお見舞いにきてくれた。


「思ったより元気そうでよかったわ」

「おにぎりパワーかもな」

「馬鹿っ」


 未知瑠は恥ずかしそうに応えた。


「儂もいるんじゃからイチャつかないでくれんか?」


 幻魔の存在を外に置き去りにしてた二人は申し訳なさそうにした。


「聞きたい事があるんだけど、昨日は何があったんだ?」

「何があったのかこちらが聞きたいのじゃが覚えておらんのか?」


 話しを聞くと、未知瑠が泣きそうな顔で幻魔に助けを求めて来た事、現場には血だらけで暁良が倒れていた事、現場は嵐が過ぎ去った後の光景の様だった事を聞いた。


「結局はどうなったかはわからないって事か」

「そうじゃな、しかしわかった事もあるじゃろ」

「そうですね、敵が茨城童子であり何かを探していると言う事ですね?」


 解っている事を確認の意を込めて暁良は幻魔に聞き返す。


「そうじゃ、じゃがお主達の頑張りのお陰であの周辺の妖怪は全て消えた」

「全て…ですか?」

「全てじゃ」


 橋姫がいなくなったら他の妖怪が戻ってくるだろうし、橋姫がまだいるならそれはそれで問題がある為この疑問は二人も感じていた。


「まぁ、何にせよ一先ず事件は解決としようかの!暁良と未知瑠よお疲れ様じゃ!流石に暫くちゃんと休んでくれ」


 幻魔の解決宣言は腑に落ちない物の、実際にこれ以上出来る事もないだろう事も解っている為何も言わない暁良と未知瑠である。

 気持ちを切り替えようと暁良は自分の両頬を両手で軽く叩いた。


「よっし!休みだ!俺は暫く引きこもり生活をする!」


 その言葉で部屋の何とも言えない空気は変わる。


「ふふ、そんな事言っても数日は病院での引きこもりよ?」

「そうだった……!」


 その言葉と共に部屋は3人の笑いで満たされたのであった。

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