十幕
幻魔と未知瑠が帰り、話し相手がいなくなった暁良は、個室に備えてあるテレビを見て時間を潰していると部屋に誰かが入ってくる気配を感じた。
「やっほ〜元気?」
視線を向けた暁良は思わず膠着する。
そこには昨日殺し合いをした相手である茨城童子こと橋姫である。
「なっ!お前なんで……」
「あれ?来たら不味かった?」
そんなふざけた返答をしてくる橋姫に警戒レベルを最大まで上げた。
「あっ、大丈夫だよ!貴方達にはもう何もしないよ?」
「どう言う事だ?」
今一その言葉を信用できない暁良は心意を聞いてみた。
「だって貴方の
「はっ?」
橋姫の言葉に理解が追いつかない暁良。
「あれ?自覚ないの?」
「ちょっと、何言ってるかわからないから詳しく頼む」
取り敢えず話しを聞いてみる事にした。
「説明する前に聞きたいのだけど、昨日の事は覚えてる?」
「お前と戦ってる途中で意識飛んだから全部はわからん」
素直に答えていいのか判らないが少しでも情報が欲しい為、本当の事を言う。
「そっか、まだ完全にはくっ付いてなさそうだね」
「くっ付く?」
「そう、推測だけど貴方の魂は酒呑の魂と融合しようとしてる状態なのかもね」
「融合……」
暁良の呟きにお構いなしに説明する橋姫。
「
「えっと、融合するとどうなるんだ?」
「普通ならちょっと魂の記憶的なのを夢で見る程度だけど、とても強い魂をもつ酒呑だと肉体にも影響があるわ」
肉体にも影響があると断じる橋姫。
「肉体にも影響とか怖いわ!」
もしかしたらあの悪夢が現実になって、自分が自分で無くなるのかも知れないと考えてしまう。
「現に貴方が意識を失ったと思われた後、貴方は私と互角以上に戦ったわよ」
何が嬉しいのかわからない笑顔で言ってくる。
「なっ!あれは夢じゃないのか?」
「貴方が夢だと思ってる理由が何なのかは判らないけど、あの瞬間貴方の強い感情に、酒呑が力を貸したのだと思うわ」
強い感情と言われた暁良はあの時の衝動を思い出す。
目ノ前にイル美シい女ヲ屈服サせたい!
(あの感情が俺の感情……?)
「結局貴方の魂がベースなのだから、貴方が何にも折れない強い意思を持てば、酒呑は何も出来ないわ」
「結果的にお前に殺される状況から助かったから結果オーライだが、今後の自分が心配になるな……」
自分の未来が暗雲立ち込める事に軽い目眩を起こしそうになる。
話しに区切りが付いたので他の疑問を聞いてみた。
「ところで、橋姫は昼間なのにこんな所にいれるのか?」
「うん、かなり力は制限されちゃうけど一応私は人里で暮らしてるよ?」
「はっ?」
過去に何度か人里で暮らす妖怪の話しは聞いた事あるが、こんな強い妖怪が人里で暮らせるとは思ってもいなかった。
「でも、山に住んでるんじゃないのか?」
「山に住むとか嫌だよ!お風呂とかもないし!山はあくまで拠点であって遊び場だよ!山ガールって奴?」
こんな俗物的な妖怪がいるのかと暁良は顔を引き攣らせた。
「それじゃ何処に住んでるんだ?」
「すぐそこのマンションだよ」
そう言って指を刺す方をみると病室の窓からでもわかるタワマンがあった。
「……」
「何で黙るの?」
さっき迄話してた重い会話より今してる会話の方が暁良的には衝撃が強かった。
「ま、まぁお前の事はわかった」
「そう?まだ今やってるお仕事とかの話しも出来るよ?」
「い、いぁ大丈夫だ!」
これ以上妖怪のイメージを壊されたくない暁良は何も聞かない事にした。
続けて質問を投げかけた。
「そういえば探し物は見つかったのか?」
「見つかったよ!」
「そりゃよかった、因みに何かとか聞いていいか?」
ずっと探し物としか言って無かったから話しは聞けないだろうとダメ元で聞いてみる。
「酒呑の魂だよ」
「マジか……」
「また酒呑と遊びたいって思って今まで探してたのだけどあの辺のエリアから酒呑の匂いを感じたからあの山に拠点を構えたんだ〜」
「お、おぅ」
まさか自分の所為だと思ってもいなかった暁良。
「酒呑の気配はきっと、貴方が夢を見てる時に出てくると思うのよ、私は偶に出てくる薄い気配を辿ったって事ね!」
「だから俺が意識を失う前と後で対応が違うのか?」
「それもあるけど、貴方自身も気に入ったって言うのも理由かな」
お気に入り宣言された事に一抹の不安を覚えてしまう。
「でも、俺は対魔師でお前は妖怪だぞ?」
「でも、私はもう戦うつもりないよ?」
「そういう問題じゃないのでは……」
「貴方が私を裏切らないならもう誰も殺さないと誓ってもいいよ?」
とんでもない発言をしてくる鬼である。
「何が裏切り行為か教えてくれ……」
少し考えそう答えた。
「ん〜、それじゃ大事な場面、大事な局面で貴方が私を信じられない状況になった時、それでも私を信じてくれる?」
「……、わかった約束しよう」
「だったら私も貴方を決して裏切らないわ」
橋姫とのこの約束は将来大事な事になる様な気がすると暁良は予感した。
「あっ、でも変な奴にナンパとかされたら半殺しにはするから〜」
笑顔で宣言されてしまった……。
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