四十一幕

 姫乃は暁良の事が急に得体の知れない者となった。

 合同訓練の時、渡辺津名が戦闘中「源暁良は呪いを受けてるよ」と姫乃に言っていた。

 姫乃は、呪いを受ける事すら面倒くさがる暁良が容易に想像できた、だから暁良は妖怪を昼間に殺してないと考えている。


 でも、呪われると言う事は呪いを受ける昼間に妖怪を殺している事。


 姫乃は記憶が薄いと言われてる小さい頃に殺したのか?とも考えたが、それこそあり得ないと思った。


 まず、力の無い低級や餓鬼は昼間に現れる程の力がない、それじゃあ昼間に現れられる程の力がある妖怪を殺した、子供が?それこそもっとあり得ない。


 姫乃の中で複数の可能性を考えていた。

 一つは、子供の時に酒呑童子として既に覚醒していて、その力で妖怪を屠った。

 しかし、これも可能性がかなり低いと考えている。

 何故なら、大江山四天王に暁良の魂を奪われた時、残った身体の方には酒呑童子を感じたからだ。

 だから、まだ魂は酒呑童子と混ざっていないと断言できた。


 もう一つの可能性は暁良が単純に嘘をついている可能性。

 有り得なくないが、これも可能性は低いと思っている。

 先にも言ったが、呪いを受ける様な事を暁良がわざわざするとは思えないし隠す様な性格でもない。


 そして、最後の可能性……。


「ねぇ?」

「なんだ?」

「貴方は誰?」

「どう言う事だ?」

「ごめんなさい正確に言うね、貴方は暁良?それとも頼光?どっち?」


 暁良はもっとよくわからなかった。


「俺は暁良だが……、詳しく頼む」

「うん、勿論だよ」


 そう言って姫乃は説明してくれる。


「私は今日、渡辺津名が源暁良が呪われていると聞いたのよ」

「呪いって言っても昼間に殺した事ないし、酒呑童子がくっついている位だが……」

「その酒呑童子が呪いだったとしたら?」

「はっ?」

「私は酒呑童子が呪う原因になった相手に心当たりがあるのよ、それが源頼光よ」


 暁良は説明されても疑問しか湧かなかった。


「頼光達は私達に毒を盛り動けなくなった所で奇襲をしたわ、私は命からがら逃げたけど……酒呑は首を落とされ、それでも戦ったそうよ……朝までね」


 頼光が呪われたのはわかった暁良だが、それでも自分を頼光と結びつける理由がわからなかった。


「ん、昼間の討伐ならそもそも死んでなくないか?酒呑童子……」

「そうね……、もしかしたら、酒呑の本体は知らない場所で封印をされてると思う」

「封印って言うと京都の首塚大明神か?」

「そこは私が酒呑の魂魄を探してる時に真っ先に見に行って、何も無かったわ」


 姫乃はそう言って考え込む。


「そもそも頼光とか昔の人だろ?何で俺に話しが結びつくんだ?」

「以前、病院でした輪廻転生の話し覚えてる?」

「輪廻の輪の中で浄化してとかって奴だろ?」

「そう、当時と知ってる情報が違うから少しだけ説明変わるけどね」


 そう前置いてから姫乃が説明する。


「浄化して次の入れ物に入れる話しをしたでしょ?そして、その浄化して入れ物に入れた時にくっ付いて来たのが酒呑の呪いね、それじゃ何で酒呑の呪いは暁良にくっ付いてきたの?暁良じゃなきゃダメだったのかしら?」


 暁良は姫乃の言いたい事が段々とわかってきた。


「つまり俺の魂は頼光だから、浄化しても酒呑童子の呪いセンサーに引っ掛かったって事か?」

「そうね、輪廻の輪が新しい魂を作らないで、魂を綺麗に綺麗に掃除して送り出しただけだから、何処かに製品番号源頼光が彫ってあったんでしょうね」


 暁良は成る程と考えていた。


「成る程な?……それで何か問題あるのか?俺は自分の事を源暁良と認識しているけど、対魔師以前の記憶は薄いが覚えてもいるぞ?」

「そうね、それ自体は問題ないのだけどね」


 暁良はそれなら良いんでは?と思っていると。


「だけどね、人間側に酒呑の呪いを受肉復活させたい勢力がいるわ」

「肌鬼も酒呑を起こしたい奴がいるとか言ってたな」

「私の考えでは酒呑童子の呪いを起こしたい勢力と貴方を守りたい勢力がいると思うの」


 姫乃は顎に手を当てて、考えながら喋っている。


「呪いを起こしたい勢力は多分だけど、酒呑童子の呪いの完全討伐なのだと思う」

「それなら俺を切った方が早く無いか?」

「違うわ、今は呪いとして暁良にくっ付いているけれど、死ぬ時は貴方の魂だけよ、そして死んだ貴方の魂を輪廻の輪は製品番号源頼光・源暁良を彫られたまま洗って、また別の物にいれて送りだすのよ、送り出した先で呪いがくっつくとは知らずに……」


 暁良は結局呪いは来るのかよ!と思っている。


「だけど貴方が呪いを取り込むか、もしくは取り込まれた状態、つまり一体化してから殺せば、次の輪廻で酒呑の呪いを浄化に巻き込み、消える……と思うのよ」

「それじゃ、大江山四天王は呪いを殺す計画に加担していたのか?」

「多分、あいつ等は殺したい側の計画を利用しただけだと思うわ?酒呑の呪いをを受肉させた後に裏切る予定だったのよ、まぁ、殺したい側も裏切る事は想定済でしょうけどね」


 暁良はここまで説明されて、ふと疑問が浮かんだ。


「なぁ、呪いと魂は違うのか?」

「成る程、聞きたい事はわかったわ」


 姫乃は察して「私も勘違いしたしね……」と言った後に説明を始めた。


「今貴方に付いてるのは魂とは違うわ、憑いてるのは酒呑の純粋な憎悪とかそう言った想いだと思うわ?」

「呪いとか、酒呑童子は面倒な奴だな……」

「呪いが受肉したら、貴方が成る者は、酒呑童子の想いを継いだ源頼光と言う魂を持つ源暁良になるわ」


 暁良はもう訳わかんねーな!と言う思いだった。


「さて、話しを戻して、次は貴方を守りたい勢力ね」

「おう」

「これは私達ね!」


 急にドャる姫乃。


「まぁ、冗談じゃないけど冗談よ?」


 最初の重い空気は大分和らいでいた。


「貴方を守りたい勢力の誰かが、貴方の過去の記憶を制限してると思うの」

「なんで守るのに記憶の制限をかける……」

「確証はないけど、貴方の記憶の中に、思いだされると貴方自身を揺らがせる記憶があるんじゃないかしら?」

「ん〜、わかんねーな」

「以前も言ったけど、貴方が揺らがない精神でいれば酒呑呪いは何も出来ないって言ったわよね?」


 暁良は病室での話しを思い出す。


「言ってたな……」

「その揺らぐ何かが薄い記憶の中にあると私は思うのよ?だからそれを思い出させない為に応急処置として記憶の制限をかけたのだと思う」

「それじゃこの記憶の事は感謝しないとなのか」

「そうだね」


 その後も暁良は姫乃の話しを聞いて、これ迄の色々な事情を理解した。

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