四十二幕

「それにしても、渡辺津名はどうして姫乃にそんな事をわざわざ教えてくれたんだ?」

「私もそこは疑問に思うわ、そして……、頼光四天王は呪いを討ちたい側の勢力だと思うわ」

「どうして、そう思うんだ?色々教えてくれたし味方の可能性があるだろ」


 暁良の言葉に姫乃が答えてくれる。


「まず状況ね、碓井をしつこく勧誘して第一部隊に引き込む、そして大天狗の急な合同討伐命令」

「それは普通に大天狗の討伐をしたいから碓井とか強い奴を引き込んだとも取れるだろ」

「その可能性もあるけど、私の予想では大天狗を暁良の精神を歪ませる為の、舞台装置に使うのだと思ってる」


 その言葉に暁良は「舞台装置?」と返した。


「大天狗との戦いはかなりの人が死ぬと思うわ……、私が何としても暁良は守るけどそれ以外の人まで守る余裕がなくなる」


 姫乃は泣きそうな顔になっていた。


「その戦いで夏希や未知瑠が死ぬ可能性も高いわ……、そうなった時に暁良は自分を保てる?私が逆の立場になって、もし暁良が死んだら自分を保てないよ……」


 暁良は泣きそうな顔した姫乃の頭を撫でた。


「どうなるか分からないけど、危なくなったら皆で逃げればいいんじゃね?」

「逃げる……?」


 姫乃は何かに気づいた様に言った。


「ねぇ、危なくなったらなんて言わないで、今から二人で一緒に逃げない?」


 暁良はその言葉に姫乃の顔を見た、その顔は泣きそうで、何かに縋る様な瞳をしていた。


「何言ってんだ?」


 急にいつもの感じで一緒に逃げようとか、姫乃らしくないと思う暁良。



「うん、そうしようよ!対魔師なんてやめてさ?二人で一緒に小さい家でも借りてさ!のんびり暮らそ?暁良も面倒な事をしないで済むよ!」


 その顔は必死だった。


「何だ、お前らしくないな……、いつもの姫乃なら私が守ってあげる!とか強気に言うのにな」

「強気になんてなれない!大天狗は私よりずっと格上だよ?間違いなく第三部隊の半数近くが死ぬ!第一部隊は殆ど戦闘にも参加しないと思うよ……」


 只々必死な顔の姫乃を見て、


「ははははは!本当にらしくない、いつもの姫乃なら直ぐに気付いてるのにな」

「な、なによ……」


 暁良が笑った事が不服なのかプゥと頬を膨らませて抗議する姫乃。


「まずな、もし第一部隊が敵で俺を覚醒させてから殺したいなら、姫乃は大天狗討伐で俺を守る必要がないんだよ」

「え?」


 意味がわからないと言った表情をしている。


「俺が覚醒前に死んだら酒呑の呪いは次の頼光に行く、そしてアイツ等はそれを望まないから、俺が覚醒前にピンチになったら第一部隊は俺を守らざるを得ないんだよ」

「あっ……」


 姫乃の頭の中で色々と繋がってきた。


「やっと気付いたか、それにそもそも俺達の推測が間違いで、第一部隊が最初から味方なら、第一と第三部隊相互で大天狗から守るだろ?」

「うん」

「そして聞くけど第一部隊と今日一緒にやった感想を聞きたいんだが、アイツ等は大天狗には通用しないのか?」

「四天王がいれば……、戦力的には問題ないよ」


 さっき迄の泣き顔は完全に無くなっていた。


「もし、俺と姫乃が逃げたら?」

「大天狗は討伐できるけど、第一部隊は第三部隊を守らない、逆に私達が行けば、第一部隊が暁良を守り、私が他の皆んなを守る事に余裕が出来るわ」

「そう言う事だ、それにアイツ等も只守られるだけなんてないさ」


 暁良が珍しくドヤ顔をしている。

 それを見た姫乃は、さっき迄の醜態からか、恥ずかしそうに暁良を小突いた。

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