四幕

 朝の忙しない時間、社務所には男女と老人の三人がソファーに腰掛けて話し合いをしていた。


「嫌だわ!今日は疲れたから休むわ!」

「あのね……休みたいのは私も同じよ?でも、この件は早急に対処しないと不味いのよ!」


 話し合い?なのかはわからないが男が報告終えて、女の報告が終わる迄は話し合いの体を成していた。


「俺はここ三日で睡眠時間が十時間だぞ?このまま働いてたら過労死するわ!」

「私も似たような物よ、だからこそ二人で協力しましょって話しになっているのでしょ?」


 怒れる男、源 暁良と言い合いをしている呆れる女は鏑木 未知瑠かぶらぎ みちる、短い髪をポニーテールにした切長な目をした身長百七十位の美人系の女、未知瑠は面倒臭そうに暁良の相手をしている。

 この様な流れになった訳は15分程前まで遡る。


「おはようございます〜」

「うむ、おはよう」


 如何にも寝起きです的な暁良の挨拶に幻魔は威厳のある態度で返答した。


「さて、昨日の報告を頼む」

「わかりました、それでは討伐報告をさせていただきます」


 暁良はいつもの調子から営業モードのスイッチに切り替え報告を始める。


「結果だけを報告すれば、餓鬼が二十一体に片車輪を一体駆除しました」


 昨日の報告もあった為、幻魔はそこまで報告に驚く事はなかった。


「連日餓鬼が大量に現れて、片車輪まで現れたか……これは裏で何かが起こっているやもしれぬな」

「はい、餓鬼がいくらいた所で問題はないですが、今後も片車輪クラスの妖怪が出てくるようになれば我々対魔師はかなり大変になるかと思います」


 言葉に自分は今大変です!とアピールしつつ報告する。


「ふむ、まぁ対魔師なら餓鬼程度は問題ないが、一般市民からすれば恐怖の対象じゃ」


 餓鬼の平均的な強さと言えば成人男性が一人ならギリギリ勝てない位で二人なら問題ない程度の強さである。

 それだけなら大した事が無い気もするが、奴等は殺意があり、人間を見ると殺してにくるから厄介だ。


「何にせよこの後鏑木かぶらぎも報告にくるじゃろうて、その報告も聞いてから今後の方針じゃな」

「わかりました」

「まぁ、お主は今日はゆっくり休め」

「はい、ありがとうございます」


 内心では言われなくても休むつもりであったが、上から言われたが故に暁良は完全に自由になった。


 コンコンとノックの音が室内に流れる。


「入れ」


 その言葉と共に扉は開かれる。


「はい!鏑木 未知瑠かぶらぎ みちる失礼します!」

「まぁ、座って報告を聞こうかの」


 その言葉の後に未知瑠は同じ部屋にいた暁良に一瞥した後、幻魔の正面のソファーに腰掛ける。


「それでは報告させていただきます」

「頼む」


 幻魔が報告を促すと未知瑠は淡々と説明を始めた。


「昨夜は餓鬼はニ体だけでしたが、鬼を三体駆除しました、奴らの発生の原因は恐らく上位の者が近くに住み着き自分達の住処が奪われた為と推測します」


 その報告を聞いた幻魔は直ぐ様申し訳なさそうに暁良に告げる。


「暁良よ今日の休みは無しじゃ、鏑木と協力して原因の特定と解決をせよ」


 この時、暁良の今日の自由は終わった。


「宜しくお願いするわ、暁良」

「……」

「二人で協力すれば直ぐ終わるわ」

「……嫌だ」

「え?」


 そんなやり取りの後に冒頭のやりとりへと続いたのである。

 

 なんやかんやと言い合いをを続けていたが、何を言っても駄目だと判断したのか暁良は諦め行く事にした。

 暁良と未知瑠は受付で夏希から腕輪を返してもらってから町へと調査に出る。


「そういえば、鬼が三体も出たのによく無事だったな?」

「確かに一度に現れたら危険でしょうけど、各個撃破してと言わんばかりに現れたからそこまででもないわよ、むしろ暁良のが片車輪相手とか大変だったんじゃない?」


 ベテラン対魔師の二人からすれば鬼は単純に強いが特殊能力はない為、難度はCランク下位となっており片車輪は炎を纏っているせいか討伐難度は同じCでも高い位置にある。


「まぁ、霊装具現化出来るレベルならBランク中位くらいまでならお互い問題無いわな」


 霊装具現化とは腕輪に霊気を流して武装化する事であり、能力の低い者は身体強化以外の霊気操作が出来ないでいる。

 その操作が出来る者と出来ない者で対魔師はベテランかどうかを判断する傾向にある。


「そういう事よ、でも最近対魔教会は後進育成の為に初心者から中級者はベテランと組ませる方針にするみたいよ?」

「そうなのか、社長からそんな話し全然聞かないけどな」


 未知瑠は貴方に言うと逃げると解ってるからでは?と思ったが口にはしない。


「まぁ、初心者とかが餓鬼や低級の妖怪以外を相手にしたら逃げられずに殺される可能性が高いだろうし、良いと思うぜ」

「私も同意するわ、私達も近いうちに見習いを付けられると思うわよ?」


 そう言うと暁良は露骨に嫌な顔をしてみせた。


「うへぇ〜俺に後進育成とか向かないわ」

「知ってる」


 未知瑠はクスクス笑いながら同意した。

 そんなやり取りをしていたら調査現場にいつの間にか到着していた。


 日は沈みはじめ、人ならざる者が活性化する逢魔時、二人のベテラン対魔師は初日の調査準備をはじめた。

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