五幕

 人払いを済ませた目の前の山は尾上山と言う。

 調査を開始する前に二人は腕輪に霊気を流して霊装具現化をはじめた。


「土は土に、灰は灰に、塵は塵に、我が言霊と魂魄に呼応し応えよ!」


 暁良が具現化するのを横目で見た後に未知瑠も具現化をはじめる。


「我が身を守護し、我が願いを成就しえる為の力を我は求めん!」


 呪文を唱え腕輪が淡い光を放つと、暁良は刀へと変化し、未知瑠のはロングソードとバックラーに変化していた。


「なんて言うか、いつも思うけどお前は騎士か!って言いたくなるわ」

「もう口に出してるわよ…それは私も思うけど腕輪はその人と相性が良い形を取るのだからしょうがないじゃない」


 未知瑠の言う通り、腕輪は術者にとって一番相性の良い形を取るのである。

 中には使用方法がわからない武器にまで形を成す為、最近の若い対魔師の中では武器ガチャとも言われているのは別の話だ。

 武器を手に取り、身体強化を終わらせた二人はお互いに視線を合わせ無言で頷きあう。


「これは不味いかもな……」


 暁良は毎回似たような事を呟いている自分に苦笑しながら言った。


「確かに不味いかもしれないわね」


 未知瑠も同じ物を感じ取った為、暁良の呟きに応えた。


「俺たちの存在を感じた瞬間に妖気を消すとか、これはB上位は行きそうだな」

「ええ、妖気を消して奇襲するタイプか逃げながら罠嵌めていくタイプか」

「もしくは完全に逃げるタイプってのもあるぜ」


 二人でどういう敵か想像し頭の中で色んなパターンを構築しつつ調査を開始した。


「それにしても妖気を消すとかやられると、俺たち対魔師としてはお手上げだよな〜」

「そうね、人間に化けている奴もいるって聞いた事はあるし大変よね対魔師って……」

(他人事の様に言うけど、今の俺たちの状況って似たような物だからな?)


 内心で突っ込みを入れつつ、調査に集中する。

 暫く調査をしたがこの日は特に何事も無く、餓鬼13体と鬼を1体倒して調査を終了。

 調査初日としては特に収穫がなかった……強いて言うなら敵は妖気を消せると言う事だけがわかった。 


「明日昼間は尾上山の調査をしましょう」


 解散の流れになった時に未知瑠は提案してきた。


「昼間も調査するのかよ……」

「えぇ、流石に明日も隠れられたらそれこそ面倒でしょ?だからこそ手掛かりを昼間に見つけましょう」

「手掛かりって言っても妖怪共は昼間は出てこないだろうに」


 妖怪達は朝から夕にかけて、例外を除いて現れる事はそんなに無いのが対魔師の常識である。


「そうね、でも力があって知性ある妖怪だとしたら何故あの山で活動してるのか気になるし、もし何か企んでいるなら何かの手掛かりが見つかるかもしれないわ」

「まぁ、昼間なら比較的安全ではあるのは確かだしな……わかった昼間も探ってみよう」


 提案を受け入れた暁良はその後軽く挨拶をして未知瑠と分かれた。


 調査は早めに終った為、早めに帰れる事になった暁良は普段はあまり飲まないお酒を買って帰り、遅めの晩酌をはじめた。


(明日昼間は情報収集って言ってたし、ゆっくりと風呂に浸かってから寝るか……)


 最近は忙しかった為、シャワーで汗をサッと流すだけだったが今日は湯船に浸かり身体を癒す。


「あぁ〜〜生き返る〜〜!」

「この風呂の為に今日頑張った様な気がするぜ……」


 久しぶりの湯船は暁良の精神を駄目にしていく。

 明日も昼間から活動する為、長時間湯船に浸かる訳にもいかないが、あまりの気持ち良さに意識は意志に反して沈んで行く。


 夢を見タ。

 夢を視た。

 夢ヲ観た。


 (あぁ、またこれを見るのか)

 

 辺りには大量の侍達と妖怪達の死骸が転がっている。

 正に地獄絵図の様な場面とはこれの事であろう。


「魔ヲ祓う為ニ我を打ツと言ウのカ人間ヨ」


 俺であり俺じゃない化け物が目の前の刀を持つ男に問う。


「あぁ、貴様の様な悪鬼は存在していてはいけない!故に私は…私達対魔の者は何代に渡ってでも貴様を討つ!」


 男は圧倒的な妖気を放つ化け物と対時しても恐怖を見せずにそう告げた。


「そうカ、其レは楽しミに待トウ!」


 俺は男にそう言った直後、潰した。


「クカカ!鏖殺ダ!」


 俺はそう言うと直ぐにまだ生きてる侍達のもとへと向かい、潰し、刻み、喰らい、首を引き抜き、奪い、殺し、喰らい、刻み、潰し、殺し、殺し、引き抜き、殺し、殺し、潰し、喰らい、嬲り、殺し、奪い、殺、殺、殺し、喰らい、殺し、潰し、殺し、引き抜き、殺し、殺し、潰し、嬲り、殺し、潰し、殺し、殺し、潰し、殺し、殺し、潰し、殺し、殺し、潰し、殺し、殺し、潰し、殺し、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺、殺……。


「コこは地獄ダ……」


 其れは俺の言葉だったのか化け物の言葉なのか解らなかった…。


 目が覚めると温くなった湯船にいた。


「溺れてなくて良かったぜ……」


 呟いた言葉には何の感情も乗ってはいなかった。

 風呂場から上がり、そのままベットに倒れ込むと、疲れからか暁良はそのまま意識を手放した。

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