三十六幕
「どどど、どういう事かしら暁良?説明して!」
姫乃の言葉を皮切りに質問が始まった。
「そうですよ暁良さん!ちゃんと説明して下さい!」
「説明するも何も、俺もハッキリと小学生の時の事なんか覚えてないぞ、千歌が言った事も、ぶっちゃけるとそんな事もあったなぁ〜位にしか覚えて無いし」
その言葉に姫乃はドヤァな顔をしている。
そして暁良の言葉を聞いた千歌は、
「暁良君、あんなに情熱的に告白してくれたのに覚えてないの!?私は今でも覚えてるよ!」
姫乃は今度はフリーズしていた。
千歌の言葉を聞いて夏希が鼻息荒く聞いてきた。
「な、なんて言ったんですか!暁良さんがそんな情熱的な事言うとか信じられません!」
夏希の言葉に良くぞ聞いてくれたと言わんばかりに千歌が話し出す。
「お前の事をもっと知りたい!お前の事が好きだ!この先もずっと一緒にいよう!って言ってくれたんだよ?」
夏希に語っていたが最後は暁良に視線を向けて言ってきた。
「悪いな言った様な記憶はするんだが、ちゃんと覚えて無いし小学生の話しだろ?その頃の好きなんてガキンチョが、えへへ〜僕団子虫好き〜ってのと対した変わらんだろ」
「でも、告白した事実は変わりません!」
「まぁ、そうなんだろうがちゃんと覚えていないけど、振られた気がするんだが?」
「そ、それは当時はクラスのみんなが揶揄ってきたし……悠太とは親同士のせいで許嫁関係だったし……」
モゴモゴと何か言ってる千歌。
「まぁ、そうだよね小さい頃の話しなんて気にしてもしょうがないよね?」
どうやらフリーズから溶けた姫乃はまたドヤ顔をしていた。
「そう言うこった」
暁良は姫乃の言葉に同意した。
そうしてまた飲み始める。
暫くして千歌が話しを振ってきた。
「暁良君は凄く雰囲気変わったね、昔は熱いと言うか真面目と言うかそんな感じだったのに、まるで別人みたい」
「昔って言うのをちゃんと覚えてないから何とも言えんけど、言う程俺は変わったか?」
会話を大人しく聞いていた姫乃は口を開いた。
「何時からならちゃんと覚えてるの?」
姫乃は色々違和感を覚えていた。
「ん〜、対魔師になった後だから十五年位前の事からなら覚えてるぜ」
「それ以前の事は?」
「あぁ、忘れてる訳じゃなくて覚えてはいるぜ?、さっき見たいに言われれば思い出せるし」
「…………」
姫乃は嫌な予感しかしていなかった、確かに小さい頃の事をハッキリと覚えてる人は少ないが、それにしても記憶が曖昧すぎるし、千歌が言う別人だって言葉が気になっている。
「どうした?考え込む程、俺の記憶力は残念なのか?そんな露骨に考え込まれるとヘコむんだが……」
その言葉に姫乃は、取り敢えずこの件は独自に調べようと思った。
「いえ気にしないで、ごめんなさい飲みの席で考え込んじゃって……飲みましょ!」
姫乃は思考を隅に追いやり、取り敢えず今は楽しもうと思った。
場面は変わり、未知瑠は一誠と訓練をしていた。
「セイッ!ハッ!」
「先日の訓練にも言ったけど、流石に基本はしっかり出来ているよ、動きも悪くない、盾を使った防御もしっかり出来ている」
先日の訓練でアドバイスを貰っていた未知瑠は、先日と同じ評価を貰っていた。
「ハァハァ……ありがとうございます」
焦っていた未知瑠だが、二度同じ評価を貰った事で多少自信を付けても良いのかと思った。
「でも、君は残ってまで指導を受けた事を考えると、こんな事を聞きたいんじゃないんだね」
一誠は未知瑠が焦っている事を感じ取っていた。
「君は基本に忠実だよ、しっかりと防御するべき時はしっかり守る、攻撃する時は攻撃する、只ねそれだけだよ鏑木君は」
忠実なのは良くないのか?と未知瑠は思った。
「この戦闘スタイルは不味いですか?」
「いや不味くないよ、私が言いたいのは君の攻撃は怖くない、だからアドバイスをすると言うなら君が今、余裕を持って防御している時、一歩踏み込んで攻撃してみるといいよ」
一誠はこの模擬戦が始まってから未知瑠が何処で盾を使い、どのタイミングで防御するか全て読んでいた、つまり一誠が自分の攻撃を防御させていたと言う事でもある。
「成る程、ありがとうございます」
「気にしないで下さい、これでも指導隊長ですから……アドバイスついでに、盾は守る物であり剣は攻める物です、しかし剣で守る事も出来ますし盾で攻める事も出来ます、基本に囚われ過ぎないで下さい」
そう言って訓練が終わり一誠は帰った。
残こされた未知瑠は今日の訓練の内容を考えていた。
「一歩踏み込む……か、確かに基本に忠実過ぎたのかもしれないわ」
未知瑠はその後、もう少しだけ身体を動かしていた、その姿は先程と同じ様でどこか違う動きに見えた。
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