三十五幕

 今日の訓練では大河が煩かった。


「本当に俺は霊装具現化出来たんですか!?全然記憶にないですよ!」


 昨日の試合は四回目の腹パンで既に意識は飛んでいたとの事だ。


「あぁちゃんと刀だったぞ、良かったな」


 若干面倒くさそうに暁良は大河に言う。


「でも、全然出せないんですが……」


 皆から具現化が出来たと言われるから、その後、色々やってみたが具現化は全く出来ないでいた。

 自分は暁良に担がれてるのでは?と思ってる大河である。


「知らん、お前が偶々腕輪に霊気を上手く流せただけの話しだろ、無意識とは言え一度出来たんだ、今出来ない事で俺に絡んでくるなよ」

「ですが!」

「霊装具現化はお前の言葉、まぁ言霊と言うべきか……それとお前の霊気が噛み合った時に腕輪が反応し形を成す」

「それはわかってますよ!」


 暁良は面倒くせぇ……と内心で思ってはいるが、俺は大人だって言い聞かせ、グッと堪えていた。


「お前面倒だな?」


 後ろから悠太が歩きながら、暁良が思っていた事を言ってくれた。


「単純にお前は雑念が多いんだろ、俺達は具現化する時、深い事なんて考えてないぜ?」


 そう言った悠太に大河は「でも、意図しないと腕輪に霊気を流すなんて事出来ないですよね?」と言った。


「そこを訓練するんだろ?あれ見てみろよ」


 悠太が言って指刺した方には夏希と千歌がいた。

 二人は談笑しながらも呪文を言って具現化した後、また談笑していた。


「あれが深い事考えてると思うか?」


 悠太の言葉に大河と暁良は、考えてないな……と思った。


「俺達は頭の中のスイッチ……まぁ自己暗示で切り替えて霊装具現化を出来る状態と出来ない状態をオンオフしてるんだ」


 悠太の言葉に大河は成る程と言って頷いて、この話しが終わった空気になった。


「まぁ、源もちゃんと後輩の面倒みてやれよ?」


 そう言って今日の訓練相手の健の元に、悠太は歩いて行った。

 それを見た暁良は「それじゃ俺達もやるか」と言って訓練を始めた。


 その後もローテーションで訓練相手が変わり、今日の最後の相手は小室健だった。


(双剣使いか、他の奴との訓練風景見る限り、かなり縦横無尽に動く野生の猿みたいだったな)


「宜しく頼む、小室」

「こちらこそお願いします、源さん」


 ごちゃごちゃとした挨拶は無しで武器を構える暁良と健。

 そして訓練が始まった。


 一誠の命令で暁良と戦う者は身体強化強化を眼のみとして制限している。

 だがその戦いはかなり人間離れした戦いを行なっている、特に健がだ。


「訓練風景見てて思ったけど、小室は猿かよ!!」


 その動きはアクロバティックな軌道をしていた。

 上からの斬撃と思わせて下から、空中からの振り下ろしと見せかけた踵落とし、空中で身体を捻り躱したりと、単純な身体能力はこの百鬼夜行では姫乃を除いて一番上なのでは?と暁良に思わせた。


「よく言われますね」


 暁良の言葉に律儀に返す。


「ですよね!っと!」


 来る攻撃を強化した動体視力で何とか対応していく。

 その後も対応して、隙があれば攻撃をする暁良、暫くすると明らかに速度やキレが悪くなり暁良が一本決めて終わった。

 健のスタミナ切れである。


「スタミナ切れかよ、正直勝てないと思ったぜ」


 暁良が健に言うと「スタミナが僕の課題ですから」と言われた暁良は、成る程なと理解した。


 この日の訓練が終わり、姫乃にご飯食べに行こうと言われたから、行こうぜって言うと何処から話しを聞いたのか千歌と夏希がついてきた。


「なんで、誘ってない貴方達がいるの?」


 姫乃の言葉に千歌は「仲間と交流を深めるのに問題が?」と言い、夏希は「私、最近影が薄くなって来た気がしたので!」と訳の分からない事を言ってきた。


「ハァ〜……まぁいいわ、それなら未知瑠も誘いましょうよ」

「あ、未知瑠さんは残って隊長から戦闘指導を受けてますよ!」

「未知瑠は何かやったのか?」


 暁良が夏希に聞き返すと、千歌が答えた。


「そういえば、鏑木さんは訓練が始まってから色々考え込んでいましたね、気になる事があって隊長に指導を受けてるのでしょう」

「そうか自主的にか、それじゃ今日の所はこのメンツで行くか……」


 そう言って移動を開始すると、姫乃は右隣、千歌は左隣を陣取り夏希はオロオロした後に背後を取ってきた。


(なんだ、俺は連行でもされてるのか?)


 心配になった暁良は、其々に顔を向けてみる事にした。

 右に視線を向けるといつもの笑顔を返してくれる姫乃。

 左に視線を向けると何か考えてはいるがこちらも笑顔で返してくれる千歌。

 背後を軽く見ると何も考えてなさそうな夏希。


(うん、特に問題なさそうだな)


 暁良は考える事をやめた。


 姫乃が予め調べておいたのか、お洒落な感じの飲み屋に連れていかれた。

 中は個室でメニューを見ると少し高くはあるが美味しそうだった。

 注文をしてそれぞれの手元にお酒を持つと、


「「「「乾杯!」」」」


 宴が開始したのであった。

 このメンツは初めてだったので千歌に今迄のみんなの出会いを説明しつつお酒を飲んでいた。

 どれくらい飲んだだろうか、全員がほんのり顔が赤くなってきた頃に姫乃が千歌に質問した。


「ところで、暁良と黛はどんな関係なのかしら?黛と枢木は暁良を知っているみたいだけど」


 姫乃は先日からの疑問をぶつけた。


 千歌はその質問にニヤァと笑った後答えた。


「私と悠太と暁良君は小学校の時の同級生で幼馴染よ、それで当時、暁良君に告白された事があるわ」


 悪そうな顔で千歌が答えると。

 ビシリッと空気が凍った……気がした暁良であった。

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