三十四幕
翌日から実践形式の訓練が始まった。
「くそっ、近づけん!」
暁良は現在、指導隊長の一誠と模擬戦を行なっている。
不可視の糸、正確には見えてはいるが背景に溶け込む程に細い、しかし硬く鋭く軟らかい糸が縦横無尽に暁良を囲い、切り刻んでいく。
「ぐっ!クソ!がっ!」
急に視界に入る糸を慌てて断ち切ろうとするが、刀は糸の弾力に返される。
糸が反動でしなりそのまま暁良を刻む。
「こんなにやりにくいのか!」
逃げた先には糸が待ち構え、跳んだら足を絡めとらる。
そして見えづらい。
「殺しはしないけど、殺すつもりでやってるからね、常に眼には身体強化で視力を強化してないと、私の糸は躱せないよ」
そう言いながらも糸は止まらない、呻り、しなり、巻き込み、絡めとり、削りとる。
「源君の身体強化はこの隊でも上位にいるね、しかし身体強化に頼り過ぎて地力が足りてない」
(そんな事は百も承知なんだよ!)
「静流!」
暁良を狙う糸に対して受け流す技を放つが、流し切れず身体を刻まれた。
「ここまでだ、お疲れ様、源君は今後は身体強化なしでの訓練がメインだね正確には眼だけには強化を入れてね」
「あ、ありがとうございました……」
そう言いながら暁良はあちこち傷だらけで倒れる。
終わってみれば、一誠は戦闘中一歩も動いていなかった。
倒れた暁良に姫乃は駆け寄ろうとしたが、それより先に千歌が駆け寄っていた。
「暁良君これ使って」
そう言ってタオルを差し出してきた。
「あぁ、悪い助かる」
姫乃はギリッと歯を噛んだ。
「さて、次は姫乃さん貴方ですね」
一誠は次は姫乃と訓練をするようだ。
「いいわ、昼間で力は出ないけど、今出せる全力でやりたい気分だわ」
「えぇ、構いませんよ私もやれるだけやります」
姫乃の訓練が始まった、この場合は一誠の訓練にもなるのかもしれない。
戦闘開始と同時にまっすぐと突っ込んだ姫乃は直ぐに急速転換させられる。
「まさか、そんな数の糸を網目状に貼られるとは思わなかったわ」
糸を幾重にも張り巡せ、来る者全てを切り刻む糸の結界がそこに見える。
「はい、姫乃さんの先手必勝が怖いですからね、ですが一度脚を止めたら私の領域です」
編まれた糸は投網の様に次々と姫乃に飛んでくる。
姫乃は全てを躱して近づこうとするが、前に行こうとする度に、必ず何重にも編まれた糸が目の前に現れる、身動きが取れない空中に飛ぶ訳には行かない為、結果左右か後ろに行くしかない。
偶に糸の網目に綻びがある時は引き裂いて前に進んで行く。
それの繰り返しで手が届く距離まで近づけたと思ったら距離を離される、終わりの無い戦いだった。
その戦いを見ていた百鬼夜行面々は、すげぇ〜と感想を言う事しか出来ないでいた。
暫く戦っていたが決着が付かない為、引き分けとなった。
「いやー、流石でしたね攻撃が当たらないとは思いませんでした」
「それはこちらのセリフよ、まぁ貴方を最初の位置から動かせたし、良しとするわ?」
時間が夜なら全て力技で行けるのだが、それじゃ訓練にならない事は姫乃も理解してる為、これはこれで良しとした。
動いてストレス解消した姫乃は暁良の所に行こうと振り向いたら、千歌がまだ暁良の隣にいた。
「暁良、私とも訓練して!」
解消したストレスがまた溜まった姫乃である。
その後、ボコられた暁良が再びダウンしていた。
ローテーションで一誠と戦って行く面々、最後に一誠と大河の戦いだった。
「それでは大河君、私は糸を使いません、そして身体強化のみで殺しに行きます」
「殺すつもり……ではなくですか?」
「はい、殺しに行きます、霊装具現化が出来てない貴方は次の任務で99%死ぬでしょう、そうなる前に私がここで引導を渡してあげます、死にたく無ければ死ぬ気で霊装具現化してください」
両者が構え、戦闘の合図を姫乃が下す。
「始めっ!」
その言葉と共に、両者が激突する。
「五月雨一閃!」
暁良程のキレはないがそれでも充分と言える剣速で雨の様に斬撃を浴びせるが、それを平然と躱す一誠に、大河は直ぐに次の技で攻撃をして、隙を与えまいと繰り出す。
「霧月!」
不可視の斬撃を繰り出す。
「ヌルいです」
その言葉と共に腹にパンチを喰らい、身体がくの字に曲がる大河。
それでも技を繰り出す。
「霧月陽炎!」
大河オリジナルの技、霧月は不可視の技でこれは幻影を見せる技。
だが、再び腹を殴られて不発に終わる。
「悪くないですが、幻影を見せる位なら幻影の太刀を全て本物にしなさい」
そう言ってまた腹を殴った。
「ぐっ……
左右両方から同時に斬撃が飛ぶ。
「未熟です!」
腹を殴る、腹を殴る、腹を殴る、幾度か繰り返すと大河は倒れた。
「俺は剣だ……」
もう意識は無いのだろう、だがうわ言の様に何かを言っている。
「俺は剣……何者にも縛られない一振りの剣……すべてを祓う轟鬼の剣……」
そう呟いている大河の手には今迄使ってた刀とは別の刀を手にしていた。
ドサッと大河は倒れ、それと共に今作り出した剣は霧散し腕輪に戻った。
「意識は無かった様ですが成功させたようですね」
その言葉と共に全員が声を上げ喜んだのだが、大河は知らずに意識を手放していた。
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