二十三幕

 戦闘が終わり被害状況を確認する。


 ベテラン対魔師二人と新人対魔師三人の計五人が殉職した、新人は合流前に二人、合流後に一人死んでいたらしい。


「さて、被害がかなり出ちまったが今は素直に生きてる事を喜べ!喜ぶと言うのは生きてるからこそ出来る感情だ!そしてその後、死者が出た事に悲しめ!死者は喜ぶ事が出来ない!だから悲しんだ後は笑え!それが俺達に出来る死者への弔いだ!」


 新人の殉職者の一人は花菱のペア相手だった様だ。

 それでも花菱は新人達に声をかけていつも通りガハハと笑っていた。


(あいつはやっぱり凄いよ……折れない強さが見えるな……俺は最後自分以外の不確かな力に縋ろうとしちまったのに)


 花菱を眩しそうに見て思った暁良。


(まぁ、でもあいつの言う通りウダウダと考えても仕方ないな)


 そうして暁良自分の両頬をパチンと張った。


「うっし、おつかれさん!花菱の言う通りいつまでも沈んでちゃ行けないぜ?」


 花菱に乗っかる形で暁良は全員にいった。


「この後、後処理班が来るだろうから、俺達対魔師は解散するぞ」


 そう言うと花菱が待ったをかける。


「おいおい、これで解散は無いだろ!全員この後飲みに行くぞ、俺の奢りだ!全員強制参加だぞ!」


 そう言って全員が我孫子山を降りて行く。

 降りている途中で大河と目が合うが、力無く視線を逸らされてしまった。


(あいつも色々あったみたいだが……まぁ、あいつ自身が乗り越えないといけない問題だが話し位は聞いてやるか)


 暁良は何があったかは夏希からある程度聞いていた為、大河に近づき話しかける。


「大丈夫か?」

「……」

「おいおい、花菱が言ってただろ?何時迄も沈むなよ」


 そう言って大河の頭をガシガシとするが、その手を払われた。


「俺は強い……そう思っていた」


 大河は暁良に語りかけてくる。


「だけどそれは新人対魔師としてはってだけだった……」

「そうだな」


 暁良は静かに話しを聞いている。


「同期の早瀬さんも先輩である鏑木さんもアンタも戦闘経験があるだけの奴等だって正直見下してたよ」


 知ってるとは口に出さない暁良。


「だけどあの妖気を感じて新人全員無様に吐いて震えていた、その時でもあんた達ベテランはいつもの通り動いていた、それでも俺はやれるって思ってた……」

「そうか」


 大河の言葉は今にも消え入りそうである。


「体が動く様になってからは、俺が新人達を助けないとって思ったんだ」

「そうだな」

「だけど、真っ先に立ち直って戦ってたのは早瀬さんだった、碓井さんも早瀬さんがいるなら任せられると言って行ってしまった」

「あぁ」


 戦闘の事を思い出しているのだろう、大河は拳を強く握りしめて悔しそうな顔で言った。


「だから焦ったんだ、轟鬼である俺が守るので無く、守って貰う事に、だから敵の密度が一番濃い所に切り込んだ」

「……」

「その時も敵が物量で押して来たけど、俺は妖怪を殺して殺して殺しまくった、俺は自分がやっぱり強いと思った」


 大河の強く握りしめたその手からは血が伝う。


「でも、俺は知らない所で早瀬さんに助けられていたんだ」


 早瀬から援護を受けてた事を思い出す。


「それで、密集していた敵を倒して戻ると守ってやると意気込んでいた奴等が死んでいたよ」

「あぁ」

「新人達は俺の所為で二人は死んだって罵った、俺は守るべき人間を守れなかった」


 大河はそこで暁良に向き合う。


「俺は弱い!だから強くなる!アンタや早瀬さん、鏑木先輩より!」


 暁良に気持ちを打ち明けてる間に、心の整理を付けた大河は、先程とは違う強い意思で告げた。


(なんだ、励ましとかいらないな)

「あぁ、強くなって俺達を楽させてくれ」

「俺は轟鬼だ!強くなって先輩を楽にしてやるよ!」


 少し絆が深まった気がする。






 飲み屋では皆浴びる様に酒を飲んでいる。

 ドンチャン騒ぎとはよく言った物だと暁良は思う。

 そう言えばと、この状況に未知瑠は大丈夫なのか?と視線を向けると「もふ、のめばへん」とダウンしていた。


 暁良がお酒を飲んでいると花菱がやってきて「暁良ぁ〜〜飲んでるか!」と酒を注いでから隣りに座る。


 「飲んでるよ」と言って注がれたお酒を呷る。


「今回もお疲れ様だな!」


 ガハハと笑った後、花菱は真面目な顔で問い詰めてきた。


「ところで青鬼は倒したが他の大江山四天王の情報はあるのか?」


 と問いかけてくる。


「いや、まだ無いが死んでいないのは確実だ」

「そうか……ならまた近い内に大討伐があるかもしれないな」


 遠くない未来の戦いを思い、二人は溜息を漏らす。


「今回花菱にはかなり助けられた、改めて礼を言うよ、ありがとう」


 その言葉に花菱は「よせよ、恥ずかしいじゃねーか」と笑って暁良の肩をバンバンと叩いてきた。


 その痛みは悪くないなと思った暁良だった。

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