一幕

 朝日が刺す公園にて、疲れ切った顔の男がベンチで座っている。

 百八十前後の身長とウルフカットの見た目で、十人に四人位は振り向いてくれそうな顔立ちである。

 そんな男が朝日射す公園で一人負のオーラを出していた。


「ふあぁ〜」


 間の抜けた欠伸が辺りに響く、周囲には子供を幼稚園に連れて行く母親たちが忙しない姿で通り過ぎて行く姿を横目に見た。

 その姿は傍目から見るとリストラされた会社員が奥さんに何も言えず、会社に行った振りをしている様だ。


(昨日は結局、あの山の餓鬼を倒し尽くすのに夜明け前までかかちゃったか……)


 男は昨夜の仕事の苦労を思い出しながら鬱蒼とした気分になる。


(餓鬼が全部で三十八体……一匹辺り大した事ないとはいえ、一夜にしては数が多いから一応報告しておくか)


 そう思い男は立ち上がると、すっかり静かになった町を歩いて行く。

 町から少し離れた郊外に向かうと長い階段が現れる。


「ホントこの階段登ってくの面倒だわ……」


 男は文句を吐きつつも、自分の職場だからと諦めつつ登って行く。


 十分程の階段を登ると鳥居が現れる。


「これも決まりだからやらないとな……」


 そういって男は神社の礼儀に従って二礼二拍手一礼をし、奥の社務所に入って行く。


 ここは男が働く職場であり表向きは神社の神職である。

 裏の内容としては全国に現れる妖怪や魑魅魍魎を退治する町のお掃除屋さんだ。

 全国と言ったが、この神社の人間だけで全てを退治とかは当然無理である。

 そこで全国の神社やお寺は協力して対魔教会と名乗り全国で連携して動いている。

 神社の数は約八万、対魔師の数は約三万、非戦闘員が七万人いないか位で両方数えて入れても十万人に満たないブラック組織、それが対魔教会である。

 しかも表向きや裏向きとは言ってはいるが世間様的には裏向きの内容も結構知られている。


「おはようさん」


 社務所の受付の奥にいる巫女さんに挨拶すると、巫女さんは元気良くこちらに駆け寄り挨拶を返した。


「おはようございます!今日も源さんはテンション低そうですね!」


 源 暁良みなもと あきら、それは男が生まれてから33年間使ってきた名前である。


「おぅ、早瀬は相変わらずテンションだけは高いな」


 暁良は早瀬と言われた女性に皮肉るように返す。


「まぁ、私は元気だけが取り柄みたいな所ありますからね!」


 この女の名前は早瀬 夏希はやせ なつきである。

 見た目は身長約150と小柄な体型で髪は腰まで伸びてあり低めの位置で結ったポニーテールでいわゆる可愛い系だ。


「それはそうと、社長はもういるか?」

「社長は奥で暁良さんを待ってますよ!」


 暁良の問いに夏希はそう返事をした。


「それじゃ社長に報告してくるから、これの計算宜しく〜」


 暁良はそう言いながら手首に嵌めている腕輪を外して夏希に渡しながら奥に歩いていく。


「はい!社長とのお話しが終わる迄にやっておきますね!」


 夏希は遠ざかる後ろ姿に元気な返事を返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る