002:補助する魔術師、追放される②


 トランがパーティを結成してから約5年が経つ。


 孤児院育ちだった俺をトランはパーティに引き取ってくれた。

 その日から俺の力はパーティのために尽くしてきたし、無くてはならない存在になろうと努力してきた。


 だからこそ俺はパーティのために全力を尽くしてきたのだ。

 そして実際、パーティに必要な存在になれたと思ってきたのに……


「お前、自分の立場が分かってないのか? 自分が何で追放されるのかも理解してないみたいだな……!!」


 ドン! とテーブルを叩いてトランが前のめりになった。

 苛立ちを隠そうともしない瞳で俺をにらみつける。


「俺の立場……?」


「はぁ~、鈍感すぎてハゲそうだぜ!! マジで理解できてねぇんだな」


「さすがにニブすぎでしょ? ウケるわ」


「バカなの? バカなのか?」


「あぁ、なんと哀れな……」


 不機嫌そうにテーブルに足を乗せて「やれやれ」と首を振るトラン。

 パーティのメンバーもそれに頷くように溜め息をついている。



「だってお前、いる意味ないじゃん」



「は……?」


 それはあまりにも悪意に満ちた言葉だった。


「あのな、このパーティの戦闘スタイルを理解してるか? 基本は俺とスフィが前衛で戦い、メイの魔術が遠距離で援護してくれる。そんでシーンがアンデッド対策したり、たまに回復もしてくれる」


 もちろん理解しているに決まっている。

 そのスタイルを作り上げたのは俺の指示だからな。


 最前線で戦いたいトランの欲求を満たしつつ、パーティメンバーがそれぞれ一番活躍できる形を作ったつもりだ。


「んで、お前は? 前線で戦うのに適したスキルもないし攻撃魔術も使えない。やってるのはパーティの後ろで専門でもない補助魔術をごそごそやってるだけ。たまに使ってる魔術も地味なのばっかりだ。お前みたいな器用貧乏ヤローがいて俺たちになんの得があるってんだ? いなくても困らないだろ」


「確かに地味だが、その補助がなければお前たちは……」


「バァーカが!! 荷物持ちや道案内ならだれでもできるんだろうが!! 今のお前はレベルも低いただの足手まといなんだよ!!」


 いや、補助って荷物持ちや道案内の事じゃなくて、補助魔術の事なんだが。

 普段から【身体能力強化】や【魔力強化】などかなりの補助魔術を使っているのが分ってもらえていないのだろうか。


 地味とはいえ……暗いダンジョン内を照らす魔術、毒沼の浄化、遠視によるモンスターとの無駄な戦闘をさけるルート選び……長期戦になるダンジョン攻略ではどれもが重要な要素だ。


「確かに俺は補助魔術の専門家ではない。だが他に補助魔術が使えるメンバーがいないのだから誰かがその役割をする必要があるだろう。それにお前たちのクセを把握しているは俺だけだと思うぞ? これから先の高ランクダンジョンだと今まで以上に戦略的な戦いが必要になるし、後方で指示を……」


「ぎゃははははははっ!! そもそも、その前提がおかしいんだろうが!! 良いか? 俺たちはもうSランクになったんだぞ? なにが戦略的な戦いだ? 今日のAランクダンジョンだって余裕だっただろうが!? 俺たちはもう、お前の効果があるのかも良く分かんねー補助魔術なんかなくても戦えるんだよ!!」


 俺の役割をちゃんと説明したいのだが、反論すら許さないように遮られた。


「そうよそうよ! 私たちはSランク!! トラン様は勇者なの!! もっと上に行けるに決まってるでしょ!?」


「まったくその通り。安全だとかなんとか言ってビビってるだけ。パーティの頭脳は私。司令塔は私」


「これも神のお導き……弱者が淘汰される事は自然の掟ですからね」


 次々に俺を非難する言葉ばかりが飛び出してくる。


 そもそも一度は説明した話ばかりなのだが、これではとても理解してもらえているとは思えない。


「おいおい、待ってくれ。落ち着いてくれよ。そもそも俺の補助魔術は今、常時発動するようにしてるから……」


「だからそれがいらねーんだよ!! この寄生虫野郎が!!」


 補助魔術の効果すら理解してもらえていないのに、その説明すら聞いてもらえないとはびっくりだ。

 たしかにパーティメンバーの俺への態度には冷たいものがあったが、こんなふうにまで思われているとは……。


「それに、もうお前の代わりの仲間は見つけてある。もう次のダンジョン攻略から一緒に戦う契約まで出来ているんだ。パフは補助の専門家だし、お前よりレベルも高いんだよ!!」


 そんなの初耳だった。

 だが他のパーティメンバーは驚きもしていない。


 パフという新メンバーの事も、知らなかったのは俺だけらしい。


 それはそうだろうな。

 俺を追放すると決めたのなら、代わりくらい用意するだろう。


「……ふぅ~、これでわかっただろ? お前はこのSランクパーティに相応しくないんだよ。役立たずが追放される。そんなの当たり前の事だろうが」


「ま、待ってくれ……トラン……!」


 何か言わなければ、本当にこれで終わりになる。


 けれど……ここまでメンバー全員に非難され、そして次のメンバーまで用意されているこの状況で、俺にはもう何も言えなかった。

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