083:それから①


 魔人の襲撃から時がたち、町は以前と同じ平和を取り戻しつつあった。


 まだ復興中の建物もあるが、人々はみんな元気になったようだ。

 ケガ人は少し出てしまったが、死者が1人も出なかったのは奇跡だとも言われている。


「ルードさん、スーちゃん。お待ちしておりました」


 今日はサヴィニアから呼び出しがあって冒険者ギルドに来ている。

 いつものようにエナンに案内され、サヴィニアの待つギルドマスター室へ向かう。


「やぁ救世主、待っていたぞ」


「その呼び方はやめてくれ」


「フフ、すまない。ちょっとからかっただけさ」


 今日は依頼ではなく、トランたちの顛末てんまつを聞かされることになっていた。


 トランたちに関して、引き渡した帝国本部から連絡があったらしい。


「魔神の封印を破った犯人は彼らで確定だったようだ。パフという新入りのメンバーが全て証言したようだね」


 『黄金の薔薇』ゴールデンローズのメンバーは名声のために危険なダンジョンに無断で侵入し、町に被害をもたらした。


 パフの証言をトランたちは否定していたらしいが、最後にはそれが真実であるという証拠も見つかり、トランたちの罪は確定したらしい。

 だが裏で大きな取引があったらしく、トランたちはハイエア王国に引き渡される事になったようだ。


「どんな取引だったのかは知らないが、この町に危険を及ぼした張本人とはいえ少しだけ同情してしまうな……」


 なにせトランたちハイエアの冒険者の罪が確定した時点で、ローランドへの被害はハイエアの人間による人災だと認定されてしまったのだから。


 ローランドへの多額の賠償金などの資産に対する被害もさることながら、ハイエア王の顔に拭い切れないほどの大きな泥を塗った事になる。

 ハイエア側の怒りはローランド以上だろう。


 トランたちを守るためではなく、怒りの収まらぬ拳を振り下ろす相手を確保するための取引なのだ。

 恐らくローランドでの裁きよりもよほど過酷な罰を受けることになるだろう。


 そもそもハイエア王国は他の地域よりも亜人の存在を嫌悪しているのだ。

 そんな国の王族が亜人化したトランたちをわざわざ引き取るなど、その奥にある怒りはどれほどのものか計り知れない。


 ハイエア王国には死んだ方がマシだと思えるほどの苦しい罰があると聞くが、はたして……


「それからルード、君がいなければ被害はもっと壊滅的なモノになっていただろう。改めて私からも礼を言わせてくれ。ありがとう」


「もう良いって」


 お礼の言葉も何度聞かされたか分からない。

 しかもサヴィニアだけでなく町中の人々からだからな。


 もう十分気持ちは伝わっている。


「それで、その件で帝国のギルド本部からも通達があってな」


「なんだ?」


「おめでとう。君は本日付けでSランクとなった」


 魔人との闘いは冒険者としての実績としても認められたらしい。

 そもそも依頼でもない戦いだったから、なんだか実感がわかない。


「さすがご主人さまなのです!」


「おめでとうございます。ルードさん!」


「いやはや、こちらとしても助かるよ。これでEランクの冒険者に高難易度の依頼を頼むための言い訳を考えなくて良くなるからな」


 ここ最近は復興のための物資の移送などが多いため、護衛などの仕事も多く必要になっていた。

 腕の立つ冒険者たちはかなり忙しくしているようで、その代わりにEランクの俺まで高難易度の任務に引っ張りだこなのである。

 そうでなくとも噂を聞きつけた依頼主から多数の指名が入るらしいのだが。


「とはいえ、魔人殺しなんて本当ならSSランクになってもおかしくないんだぞ? なのにEランクからのSSランクへの飛び級なんて前例がなさすぎてSランク止まりだと。まったく頭の固い連中だよ。まぁ、そもそもEランクからSランクの時点で前例などないのだがな。それでも今回の実績は……」


「はい、どうぞ。新しいギルドメダルです」


 ブツブツと本部への愚痴が止まらなくなるサヴィニアを華麗にスルーして、エナンが新しいギルドメダルを持ってきてくれた。


 メダルが裸で置かれていた前回とは違い、豪華な装飾の黒い箱に収められていた。

 お馴染みの手の平サイズのメダルだったが、今持っているEランクの鈍い鉄色と違って虹色の不思議な輝きを放っている。

 そして中央には「Sランク」を示すマークが描かれていた。


「キラキラなのです! さすがご主人さまなのです!」


「なぁ……これ、ちょっと目立ちすぎじゃないか?」


「魔力を込めると光が消える仕様です」


「いや、普通は逆だろ……」


「本部の趣味です」


 Eランクのメダルを返却し、新しいSランクメダルを受け取る。


 壊れないように魔力を込めると、確かに光は収まった。

 光らなくてもめちゃくちゃ派手だ。


 だが表面に派手な加工がされていてもその中の材質は変わらないらしい。

 ゆえに重さも同じハズで、それを少しだけ重たく感じるのは俺の気のせいなのだろう。


「Sランク、か……」


 冒険者として一つの夢と言われるSランク。

 このローランドの地で新しく見据えた俺の夢は、なんだかあっという間に達成できてしまったらしい。

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