024:ローランドの冒険者ギルド①


「ここがローランド領の町か……思ったより変わらないものだな」


 俺とスーはローランド領の西端にある小さな町『チャンスイ』にやって来た。


 犬猿の仲であるハイエア領とローランド領の間では一部を除いて交流がほとんどない。

 そのため俺もローランド領については詳しく知らなかったのだが、たどり着いた町の様子はハイエアの町とさほど変わらないように見えた。

 

「ご主人さまはハイエア領からいらっしゃったのです?」


「うん。ハイエアで冒険者をやってたんだ。今はその資格を剥奪されちゃったけど……」


 荷馬車にいろんな魔術を駆使して魔改造を重ねた結果、予定より大幅に早く1週間ほどで到着した。

 その間にスーの身の上は少し聞いたが、俺の話はまだあまりしていない。


「えっ!? 追放……? なんでなのですか? ご主人さまは追放されるような人じゃないと思うのです! それに剥奪だなんてやりすぎです! わたしは遺憾の意を表します!」


 どこで覚えたのか、スーは「イカンのイ」がお気に入りワードらしい。


「俺の実力不足だよ。所属しているパーティがすごいところだったからね」


 最も低いEから始まるパーティランクは形式上ではSSSランクまで存在する。

 だが今までにSSSランクと呼ばれたパーティは過去に魔王を討伐した伝説の勇者パーティだけ。


 現在ではSSランクパーティも3組しか現存せず、Sランクですら7組しか認定されていない。


 少なくともハイエア領ではそれくらい数が少なく、まさに選ばれし者にだけ与えられる名誉あるランクだった。

 Sランク越えのパーティを作り上げる事は冒険者たちにとっての大きな夢だ。


 ローランドのギルドではどうなっているのだろう。

 少し楽しみだ。


「そんなのヘンなのです! ご主人さまだってすごい人なのです! 魔術にくわしくないわたしでもわかるのです! ご主人さまみたいに強くて、すごくて、それにやさしい人……わたしは知りません! それが実力不足だなんておかしいのです! やっぱり遺憾の意を表するのです!」


 スーはどこまでもお怒りのようだ。

 そういえば、誰かが自分のために怒ってくれるなんてはじめてだな。


 誰かのために怒られることは良くあったけど。


 不思議な感じだ。

 なんだか嬉しい。


「まぁSランクパーティだからね。みんな俺なんかよりずっと強い人ばっかりだよ。俺がいたころはAランクをやっと安定してクリアできるようになったくらいだったけど、今頃はSランクダンジョンに挑んでるのかもな……」


 そう思うと少しさみしさを感じる。

 俺も一緒にSランクダンジョンに挑みたかった気持ちがないのかと言われれば、嘘になるだろう。


 トランたちとの冒険の日々、俺にも夢はあった。

 パーティに認められる事だけではなく、俺自身がやりたい事があった気がする。


 Sランクダンジョン攻略。

 多くの冒険者たちと同じく、パーティ結成当時のトランたちもそれを夢みていた。

 

「むぅ……でも今のご主人さまにはわたしがいるのです! だから……そんな顔はしないで欲しいのです……」


 俺のさみしさを見抜かれたらしい。

 スーがぎゅっと腕にしがみついてきた。


 この子なりの励まし方なのだろう。

 その気持ちは素直にうれしくて、スーの頭を撫で返した。


「ありがとう、スー」


 俺はまだ過去に囚われているのだ。

 それはSランクパーティと言う栄光ではない。


 たとえそれが独りよがりな勘違いだったとしても、仲間を共に夢を目指した……その時間に、まだ囚われている。

 そこから抜け出すために、俺は踏み出す一歩を決めた。


 だから……


「俺はローランドでもう1度、冒険者になりたいんだ」


 俺自身の力でSランクに到達するために。

 俺自身の夢を叶えるために。


「また冒険者になるのです?」


「うん。なれるか分からないけどね」


 ローランドの冒険者ギルドの仕組みは、ギルドに行かないと分からない。

 だからもちろん、少し不安もある。


 俺はもう一度、本当に冒険者になれるのか……。


「絶対になれるです!! ご主人さまならきっと最高の冒険者になれるに決まってるのです!!」


 ゆるぎない真っすぐな視線でスーが断言してくれた。

 それだけでもなんだか心強い。


 不安が軽くなる。


 初めて感じる強い力だと思った。


 今までは仲間たちを支えるのが俺の役目だった。


 スーと出会ってからは逆に支えられている気持ちになる。


 魔術を使われているわけでもないのに、スーのこうしたちょっとした言葉が俺を強くしてくれる気がするのだ。


 もしかしたらスーには俺なんかよりももっと凄い補助魔術師の才能があるのかも知れないな。


 俺はその不思議な力に背中を押されるように、不安を押しのけて冒険者ギルドへと向かった。

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