025:ローランドの冒険者ギルド②
「ここがローランドの冒険者ギルドか」
ローランドの冒険者ギルドは俺が知っているギルドによく似ていた。
今では真っ二つに分かれているハイエア王国とローランド帝国だが、遥か昔には1つの超大国として魔界と争ったという伝説が世界各地に残っているらしい。
人間とモンスターとの大戦争時代の話はどこまでが事実なのか謎も多いが、こうして2つの領地を実際に見ると超大国の存在には納得できるような気がする。
町の様子もそうだが、ギルドの様子もやはり良く似ている。
全く新しい土地に来たという違和感を感じないくらいだ。
同じ人間が住む世界だからな。
似ているのもある意味では当然なのかも知れないが……。
「冒険者ギルド『バニーボール』へようこそ。どのようなご用件でしょうか?」
「新しく冒険者登録をしたいんだけど」
入口で案内係らしき女の子に声をかけられたので要件を伝えると、そのまま奥の登録者カウンターに案内された。
「では私が登録を担当いたしますね。受付のエナンです。よろしくお願いします」
丁寧なお辞儀と一緒に頭部の長い耳が揺れる。
エナンは丸いメガネとバニーを模した黒い耳付きのカチューシャが印象的な育ちのよさそうな少女だった。
「ルードだ。よろしく頼む」
「そちらのお嬢さんもご一緒に登録なさいますか?」
「スーはご主人さまの奴隷なのです! なので登録は必要ないのです!」
スーが元気よく返事をした。
元気よく、ギルドに響き分かる大きな声で……。
「おいおい、あんな幼い子供を奴隷にしてるのかよ」
「しかも珍しい獣人かよ。めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか!」
「くそっ! うらやま……けしからん!!」
ギルドに到着して1分。
さっそくあらぬ誤解を受けている気がする。
ローランド領でも奴隷制度は残っているハズだが……あまり良い印象ではないのだろうか。
ハイエア領では奴隷の存在は当たり前だったし、むしろ上質な奴隷を所有する事は貴族の間では一種のステータスですらあったらしいが……。
「えっ? あっ、そうなんですね……ではお一人様のみでの登録ですね」
受付のエナンも少し引き気味な気がする。
なんだか先行きが不安になって来たな。
「それではルードさん、登録の準備をしますので……まずはこちらに必要事項を記入していてください」
「わかった」
用紙とペンを残してエナンがカウンターの奥に消えていく。
俺は言われた通りに名前や年齢などを必要事項を書き進めた。
これが冒険者への第一歩だと思うと少しワウワクするな。
書いていくのは名前や年齢などの基本情報だ。
「おいお嬢ちゃん、迷子かぁ? ここはお嬢ちゃんみたいなのが来るところじゃねぇぞ?」
問題なく書き進めていると、後ろから筋肉モリモリの大男が声をかけてきた。
見上げるほどの巨体に鍛え上げられた筋肉。
粗暴な風貌からして冒険者だろう。
腰にはナイフ、背中には大きな棍棒。
とてもギルド職員には見えないな。
「…………ん?」
最初はスーに話しかけているのかと思ったが、どうやら俺に言っているらしい。
スーはと言うと俺の後ろにかくれるようにしてしがみついている。
まだ俺以外の人間は信用できないようで、怖いままらしい。
町でも通りすがる人々からチラチラと視線を向けられていたが、その度に俺の手をギュっと握って来た。
スーの存在は人目を引いた。
特に男たちは全員が振り返るくらいのレベルだ。
とにかく美少女だからだろう。
まだ幼いながらも将来は絶世の美女になるであろうことが容易に想像できる。
ここへ来るまでにも明らかに下心を持って声をかけてこようとした連中がかなりいたが、そいつらは全員、俺がスーに気づかれないように
おかげでその辺の柱や石ころに声をかける珍妙なナンパ師が量産されてしまったが、スーを怖がらせる方が悪いから仕方ないと思う。
さきほどは俺の奴隷である事を主張するために勇気を振り絞ったようだ。
そこまで主張しなくても良いと思うのだが、スーにとっては大事な事なんだろう。
今は俺が一緒にいるから問題ないだろうが、いつかはトラウマをしっかり克服してあげないとな……。
「俺は男だが」
「おおっと、それは失礼! 女みたいにヒョロヒョロしてるから見間違えたぜ! ギャハハハ!!」
わざとらしい。
この手の暇人は無視するにかぎる。
「いやいや、よく見ると可愛い顔してるじゃねぇか。どうだ? 金に困っているならもっと良い仕事を紹介してやるぜぇ? わざわざ冒険者なんてしなくてもよぉ、グヘヘ……」
大男はなかなかしつこかった。
無視し続けても良いのだが、スーが怖がるよな……。
「余計なお世話だ。俺は、俺自身が冒険者になると決めたから冒険者になる。それだけだ。わかったら静かにしてくれ」
やれやれ、やはり目立つのは良くないな。
スーにも後で言っておこう。
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