032:特別テスト ギルドマスター戦①


「どうぞこちらへ。登録テストの最終的な結果をお伝えします」


 なんとか中庭の消火を終えて、俺たちは別室に案内されることになった。


 すぐに消火したことで火事に発展はせずに済んだ。

 ファイブくんを失ったエナンも気持ちを切り替えたらしく、もとの冷静な様子に戻っている。


「普段ならその場で私から伝えるのですが、今回は特別に指示があったので」


 そう言って案内されたのはギルドの奥にある大きな部屋だった。


「失礼します。登録希望者の方をお連れしました」


 そこに待っていたのは1人の女性だった。

 部屋の中央に置かれた書類だらけの大きな机に座るわけではなく、それに寄りかかるようにして立っていた。


 ……只者じゃないな。


 俺の目を引いたのは整ったその容姿でも、真っ赤な髪でもなく、腰の両側に吊り下げられた二本の剣だった。

 特にその内の一本、黒い鞘に納められた剣からは異質な気配がしていた。


 危険な剣だと直感で理解できる。

 だが女性はその剣を飼いならしているような、そんな感じがした。


 一目見て分かるほどの実力者だ。


「登録試験ごくろうさま。私がこのギルド『バニーボ-ル』のギルドマスター、サヴィニアだ。君がルードくんか」


 サヴィニアは鋭い刃のような視線とは裏腹に、意外にも温和そうな口調だった。


「そうだが」


「わたしはスーなのです。ルードさまの奴隷なのです」


 スーは相変わらず奴隷アピールを忘れない。


「ほう、面白い奴隷を連れているな……実に興味深いが、今は止めておこう。さっそくだが、君のテストの結果についてだ」


 サヴィニアは興味深そうにスーを観察したが、すぐに報告書に視線を移した。


「エナンからの報告書は見せてもらったよ。どれも初めて見る結果だけれどね」


 結果は全て「∞」むげんだ。

 俺も聞いたことがない。


 エナンとしては「測定不能で未知数の可能性」を表現したらしいが、ギルドマスターにそれがちゃんと伝わっているのだろうか。

 意味不明として不合格になったりしないかと不安しかない。


「もちろん合格だよ。おめでとう。君は今日からこのギルドの仲間だ」


「やりましたね! さすがご主人さまなので! トーゼンの結果なのですけれど!」


「おめでとうございます。ルードさん」


「ありがとう」


 結果は無事に合格だった。

 不安が大きかった分、少し拍子抜けした気分になる。


 ……良かった。


「ランクはみんなと同じEランクからのスタートだ。君の実力は理解しているが、こればかりはギルドの規定だからな。私の権限でもどうにもならない。許してくれ」


「いや、かまわないよ。実際このローランドでは新米なんだからな」


 許すもなにも、合格できただけで感謝したいくらいだ。


 ランクアップなんてこれから実力を認めてもらってからで良い。

 それが普通だ。


「でも実力はもうSランク以上だと思います! ルードさんって本当に何者なんですか?」


 元Sランクパーティ……なんて名乗って良いのだろうか。

 所属はしていたが力不足、役立たずとして追放された俺にその資格があるとは思えない。


 Sランク以上の実力なんてあるわけないだろう。


「最初に言った通りだよ。ただの冒険者……それも元ね」


「もう、ただの冒険者が私のゴールデンボールを爆散させられるわけないですよ? ……まぁ良いです。何か事情があるんですよね? わざわざハイエアからローランドに来るなんて、理由もなくやらないですから」


「まぁ、ね……」


 思わず言葉を濁してしまった。

 役立たずとして追放されたなんて言いにくくなってきたぞ……。


「過去を詮索するつもりはないが、私もこれからの事には期待している。よろしく頼むぞ」


「ギルドでも初めての歴代最強の大型ルーキーさんですね! よろしくお願いします!」


「ご主人さまならどんな依頼も任務もすぐクリアできるに決まっているのです!」


「期待に応えられるように努力するよ」


 あんまり過剰に期待しないで欲しいものである。


「登録試験の合否に関しての話はこれで終わりだ。仕事を探すならギルドの入り口にクエストボードがあるから好きなものを選ぶと良い」


「他にも受付カウンターでご案内もしてますよ。私に声をかけてくれれば秘密のすごい依頼もご紹介できます。ルードさんだけの特別サービスですよ?」


「そうか。わかった」


 部屋を出ようとサヴィニアに背を向けた瞬間、背筋に冷たい感覚が走った。


「だがその前に……」


 サヴィニアのその声は何かが違った。

 さきほどまでと同じ声のはずなのに、今までの温和そうな雰囲気とは全く違う鋭さを感じた。


「私と手合わせ願いたい」


 そう言ってサヴィニアは剣を抜いていた。

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