033:特別テスト ギルドマスター戦②
「手合わせ願いたい」
本気かどうか。
それくらいは目を見れば分かる。
サヴィニアは本気だった。
一方で殺意のようなものは感じない。
好奇心のようなものだろうか。
俺の実戦での力を試すつもりかもしれない。
あるいはただの戦闘狂か。
「それはテストの続きか?」
抜かれたのはサヴィニアが持つ2本のうち、白い鞘に納められていた剣だった。
俺に向けられていたその剣先をおろしてサヴィニアは肩をすくめる。
「いや、テストは合格だよ。これは追加の特別テストってところかな。無理強いはしないけどね」
すでに合格は決まっているのだったら受ける必要もない。
わざわざ無駄な戦いをしたくはないし。
「さきほど言った通り、私はしょせん『バニーボール』という小さな支部の長でしかない。登録者のランクは規定通りEランクからで、この勝負に勝ってもそれは変わらない」
俺の考えを見透かしたようにサヴィニアが提案してくる。
「だが勝負には見返りがなくては面白くない。だから私に勝てば代わりの褒美を与える」
「代わりの褒美?」
「冒険者に必要な物は2つある。それは自身の力と、そして仲間の力だ」
「なるほど」
「ちょうど優秀なパーティが仲間を求めている。Aランクだ。私に勝てばそのAランクパーティに君を推薦しよう」
Sランクレベルの冒険者でも1人ではSランクダンジョンに挑めない。
進行ルートの設定、回復、罠の対処など、ダンジョン内では戦闘以外にも様々な役割が必要となるし、人には得手不得手というものがある。
戦闘においても人数が多い方がシンプルに有利だ。
だから1人でダンジョンにいくなんてよほどの理由がない限りは誰もやらない。
あまりにも危険すぎる。
頼れる仲間がいて初めて冒険ができるのだ。
「わかった。そのテスト、受けるよ」
特に俺はこのローランドに知り合いなどいないからな。
ギルドの長が認める優秀な仲間とのつながりができるのはかなりうれしい話だ。
「そうこなくてはな」
サヴィニアはニヤリと笑った。
「勝負の条件は? まさか殺し合いだなんて言わないよな」
「もちろんそんな事はしないさ。そうだな……1発勝負にしよう。今からこの剣で君を攻撃する。それを防げば君の勝ち。君が少しでも傷を負えば私の勝ち。これでどうだ?」
「良いが、そっちが不利すぎないか……?」
サヴィニアの剣は粗悪な品では決してないだろうが、それでも普通の剣に見える。
少なくとも今サヴィニアが手にしている剣からは妙な魔力などは感じない。
攻撃が来ると分かっている俺は防御に専念できるし、普通の武器ではとても破れないはずだ。
攻撃魔術以外を見たいというテストの目的は理解できるが、これではさすがに俺が有利すぎる。
「心配ないさ。ちゃんと楽しませてやる」
「そっちが良いなら、いつでも構わないけど」
「ではさっそく始めようか。場所はこの部屋の中のみとする。エナン、その子を連れて部屋の外へ」
「いいえ、私はルードさんの担当です。このテストも最後まで観測する責任があります!」
「スーはご主人さまのおそばから離れません!」
「……全く、ケガしても自己責任だぞ?」
それだけ言ってサヴィニアがわずかに腰を落とし、剣を構える。
剣先を俺に真っすぐに向けた、分かりやすい突きの姿勢。
もうエナンたちの事は視界に入っていないような、俺だけを射抜くような視線に変わる。
俺は
そして前面に圧縮する。
前面のみに圧縮して強度を上昇させた俺の【防壁】はAランクモンスター、巨大なオーガの爪やドラゴンの牙すらも弾く強度を持つ。
人間が全体重を乗せたとしても、ただの刺突程度では絶対に壊れない自信がある。
ギルドマスターほどの人物なら、この壁に込められた魔力の密度も分かるだろう。
それをどう破るつもりなのか……。
ギルドマスターの実力、見せてもらうとしよう。
「一応言っておくが、私はエナンの眼を信用しているし、君の魔術師としての実力は理解しているつもりだ。正直、ケタ違いだと思うよ、君の魔術は。だが冒険者は魔術だけで生き残れる世界でもない」
「……何が言いたい?」
「例えばこんなのはどうだろうね」
サヴィニアがダンと、力強く一歩踏み込んだ。
突撃が来る、と思いきや、サヴィニアの足元が発光した。
それは魔法陣の光だった。
魔法陣は一気に拡大し、この部屋全体を包み込む。
「これは……!」
魔法陣から感じる嫌な感覚。
魔力の乱れをハッキリと感じた。
魔力に干渉して魔術を阻害する結界だ。
またの名を……『
「魔術を封じられた魔術師はどう戦うのかな? 興味があるよ」
予想外の一手だった。
展開した【防壁】が乱れる。
「剣で攻撃してくるだけじゃなかったのかよ!?」
「この剣だけしか使わない、なんて言ってないだろう?」
いや、さすがにこれは卑怯だろ!
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