034:特別テスト ギルドマスター戦③
「さぁどうする、魔術師くん? 卑怯とは言うまいね」
部屋に仕込まれた魔法陣。
事前準備バッチリじゃねぇか!
「卑怯だよ!!」
だが防ぐだけなら問題ない。
攻撃を防ぐ手段は防御だけではない。
そもそも1発を避ければ俺の勝ちだからな。
俺の勝利条件は「傷を負わない」ことだ。
「そうです! こんなの卑怯です……ご主人さまが魔術師だって知ってて準備するなんて不公平なのです! 遺憾の意を表するのです!!」
スーが抗議の声を上げるが、勝負はもう始まっている。
文句は後で言う事にしよう。
「何が起こるか分からないのが冒険というものだよ!」
サヴィニアの言う事も一理ある。
ダンジョンで魔術を使えない状況はいくらでもある。
俺もそれは体験してきた。
それくらい対処できなければ一流になどなれないのだ。
「さぁ君の戦いを見せてくれ!」
お次は懐から取り出した投擲用の小型ナイフが飛んできた。
俺ではなく、俺の周囲に突き刺さったナイフにはワイヤーが括り付けられていた。
わかりやすい色付きのワイヤー。
移動を制限するための即席トラップだ。
そう簡単に避けるだけでは済まさないらしい。
つまりは「正面から突破して見せろ」と、完全に立場が逆転してしまったな。
手が込みすぎだろう。
1発勝負までの前座が長すぎる。
だがこうなれば受けて立つしかない。
「さぁ、行くぞ! 死ぬなよ!?」
今度こそサヴィニアが踏み込んだ。
姿勢が地を這うように低くなり、爆発的な加速を持って俺に接近する。
その剣先が目指すのは俺の身体のド真ん中。
とても手加減が感じられるような勢いではなく……
「本気で殺しに来てるじゃねぇか!?」
その加速の勢いは明らかに身体能力だけのものではなかった。
火と風の複合魔術だ。
踏み込んだ足元での爆破により文字通り爆発的な加速を発生させている。
しかも『
準備万端にもほどがある。
だが、おかげでやりやすくなった。
瞬きする間もない、まさに一瞬。
その間に0から反魔力を解析するのは面倒だったが、わざわざ手本を見せてくれた。
解答例が出ているのだから、あとはそれを真似れば良いだけ。
自力で適応するよりもずっと簡単だ。
「
ギャリィィィィィン!!
再展開された俺の【防壁】によってサヴィニアの刃が阻まれた。
「なにっ!? バカな……魔術だとっ!?!?」
こちらも反魔力に適応した魔術で応戦させてもらう。
……が、まだ壁が完全ではない。
反魔力へ適応するための再構築で術式が部分的に破綻している。
いつもなら完全に防げるハズの刃がギリギリと魔力の壁を押し破ろうとしてくる。
ここからはスピード勝負だ。
さらに再構成を続ける。
破壊されるより先に術式を完成させれば俺の勝ちだ。
「この一瞬で適応したか! 実に面白い!! だがこれならどうだ!?」
ギュイィィィイィィィイイイイ!!!!
今度は刃がドリルのように回転し始めた。
ただの剣じゃない。
貫通用の仕掛け武器だったのか。
しかも刃に魔力が流れている。
まるで【防壁】の破壊に特化した作りだ。
「おいおい、用意周到すぎるだろっ!!」
ここまでくると俺が【防壁】を使うのを知っていて用意したとしか思えない。
まさか、あの大男の騒動から……
「ハァ、ハァ……♡ 良いぞ! さぁ、もっと適応してみせてくれ!!」
刃の回転速度が上がる。
余計な事を考えてる暇はないようだ。
というかなんか目がイっちゃってるぞ!
もしかしてヘンタイなのか!?
「お望み通りやってやるさ……!」
刃から感じるのは風の属性だ。
相克するのは土の属性。
魔力の属性を変化させて刃に流れる魔力を打ち消すように適応させた。
さらに壁を圧縮して強度を上げていく。
防壁の再構成が進み、ギチギチと刃をからめとっていく。
「おっ、おぉ……! 感じるぞ……すごい適応速度だ! 感じるっ!!」
ここまで来ればもう破壊されることはない。
この攻撃で俺の【防壁】が破られることはなくなっただろう。
なんか気持ちよくなっている所に水を差すようで申し訳ないが……
「勝負あり、だろ」
魔力を相殺された刃は次第に回転を止めるだろう。
1発勝負なのだから、これで終わりだ。
「ハァ、ハァ……♡ もっと、もっと見せてくれ……! 私に適応してくれ……!!」
聞いてねぇ!
やっぱりこの人イっちゃってるぅ!
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