035:特別テスト ギルドマスター戦④

「もう少し、もう少しでイけそうだからぁ……!! アハァ♡」


「いや、イかせねぇよ!」


 サヴィニアが諦め悪くグリグリと刃を無理やり押し込んでくる。

 だが無謀だ。


 俺の魔術はそんなに脆くない。

 部屋の中に展開された反魔力アンチマギの魔力はもう完全に解析し終えている。


 最後のあがきのようにサヴィニアの刃が回転速度を増す。


 風と火の魔力が入り混じり、俺の魔力とぶつかり合って火花を散らす。


 それでも、ここから俺の魔術が崩れる事はない。

 逆にサヴィニアからの攻撃が1発だと分かっているから、俺はそこに魔力を圧縮するだけでいくらでも強固にできる。



 ギャリリリリリリリ……バギンッッ!!



 そしてついにサヴィニアの刃が折れた。


 折れた刃が勢いよく弾け飛び、その先にいたのはスーだった。


「しまった……!!」


 そこでやっと正気に戻ったのか、サヴィニアが焦った様子で駆け寄ろうとする。

 だがその必要はなかった。


 バチィン!!


「きゃあ!?」


 スーに接触する直前、剣の刃が粉々に砕け散った。


「なん……だと……!?」


 こんなこともあろうかと、スーとエナンの周囲には最初からずっと強めに【防壁】プロテクトを張っていた。

 おかげで反魔力が発動した時にはそれを維持するのにかなりの魔力を消費してしまったけどな。


 そうでなければこの程度の『魔術師殺しメイジキラー』くらいで魔術を阻害されたりはしない。

 なにせAランクダンジョンでもっとひどい反魔力の結界を相手にしたこともあったしな。


 あの時は事前に調査していてもかなり苦戦した。

 それに比べれば大した結界でもなかった。


 あれ以来、似たような状況に陥った時に備えて研究もしていたから。


「……いつから彼女たちに【防壁】を?」


「最初からだよ。2人を危険な目に合わせるわけにはいかないだろう」


 サヴィニアはフラフラと机によりかかった。

 魔力を大量に消費した反動だろう。


「はぁ、はぁ……あれだけの魔術を使っておいて、呼吸一つ乱さないとはね」


「魔力の大量消費には慣れてるもんでね」


 トランたちと一緒にいた時にくらべたら、これくらいの消耗はなんてことない。


「ちゃんと攻撃は防いだぜ。俺の勝ちで良いんだよな?」


「あぁ、私の完敗だよ。でも、だからと言ってミスリル製の武器を粉々にしろとは言ってないんだけどね」


「それは事故だ。悪かったよ」


「ぷっ……あははっ! 本当に面白い男だな。気に入ったよ」


 サヴィニアはひとしきり笑ってから折れた剣を鞘に納めた。

 同時に『魔術師殺し』も消える。


 先ほどまでのクレイジーな様子は消えさり、最初に見たギルドマスターらしい冷静な雰囲気に戻っている。

 いつもこうあって欲しいものだが。


 魔術フェチ?

 それとも適応フェチ?


 いや、適応フェチってなんだよ……?

 自分で言っていて意味が分からない。


「適応中毒なんですよ、ウチのギルドマスターは」


 エナンが教えてくれたが、それでも意味不明だった。


 どっちにしろ変人だという事はわかった。

 このギルドには変な人しかいないのだろうか。


「久々に良い適応が見れたよ。ルードくん、楽しかったね。次は本気でやろう」


「いや、それは遠慮しておくよ。魔剣なんて相手にしたくないからな」


 最後の一瞬、サヴィニアの手が黒い剣に伸びかけたのを見逃さなかった。

 そしてその瞬間に剣から感じる魔力が膨れ上がったのも。


「気づいていたのか」


「そんなに異質な魔力を放っていればイヤでもね」


 強力な魔力が宿り、意思さえも持つという剣。

 それが魔剣だ。


 魔界で発見されたという未知の魔道具で、人間の世では数本しか確認されていない。


「制御しているつもりだったんだが……私もまだまだ未熟でね。完全には適応できていないのさ」


「良く言うよ」


 未熟な者が手にすれば魔剣に意識を乗っ取るられると言われている。

 サヴィニアがこうして平然としていること自体が魔剣を完全に使いこなしている証明なのだ。


 十分な適応だろう。


「まぁ、君と私が本気で戦えばこんなギルドは跡形もなくなるだろうからね。次の機会を楽しみにしておくさ」


「そんな機会がないことを願うよ」


 魔剣使いなんて好き好んで相手にしたくない。


「さぁエナン、今度こそテストは終わりだ。ルードくんにギルドメダルを」


「はい、どうぞ。これがギルドメダル。ローランドの冒険者としての証明書です」


 渡されたのは手の平サイズの金属製のメダルだった。

 中央には「Eランク」を示すマークが描かれている。


 ハイエア領ではカード型だったが、用途は同じようだ。


「やりましたね! ご主人さま!」


「おう。スーもケガはないか?」


「はい! ご主人さまが守ってくださいましたから」


「そうか。良かった」


 手にしたメダルに、前に持っていたカードとは違う重みを感じた。


 まぎれもない俺の意思で、俺の実力で冒険者になったのだ。

 誰かにとって都合の良い操り人形ではない、1人の人間として……やっと本当の意味での冒険者になれた気がした。


「これから俺の本当の冒険がはじまるんだな」


「はい、ご主人さま! スーはどこまでもついていくのです!」


 俺たちの戦いはこれからだ!!




 * * * * *


 受験者:ルード

 観測者:エナン


 推定魔力量:∞

 属性適性数:∞

 魔術実力 :∞


 冒険者登録テスト:合格

  冒険者ランク :E


 ギルドマスターから一言:模擬戦をしてみたところ、確かにむげんって感じの逸材だった。


 * * * * *

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