047:まずは薬草採集です②
スーは見つけにくいはずの薬草を、覚えた匂いを頼りに次々に見つけていく。
俺はアイテムボックス化した小型のポーチを作ってスーに持たせた。
軽い【空間圧縮】を付与しただけだが、それでも薬草くらいならいくらでも入る。
俺なら風魔術の組み合わせでこの場の薬草を一瞬で狩りつくす事もできるが、今日はスーに任せる事にしたので見守るだけにする。
スーは成長したがっている。
だから今回はそのために時間を活用しよう。
焦る必要もないからと、俺はのんびりとスーの後を追った。
「
「はい……分かる気がするのです。大きな蕾のほうが少しだけ甘いです」
「じゃあ甘味が強いものは無視しようか」
「わかりましたなのです!」
少しづつ情報を足していくと、スーはそれにどんどん順応していった。
学びを得てはそれを実行し、間違えても考えを放棄せずに試行錯誤を繰り返す。
その一生懸命な姿は見ていて気持ちが良い。
獣人の身体能力なのか、スーは身のこなしも軽い。
それでいて小柄なのに体力もあるようだ。
これなら冒険者としても十分にやっていけそうなくらいだった。
「この葉っぱに走っている線は葉脈と言うんだ。これが太い方が葉に養分が行きわたっているから価値も高い。細い側脈の部分は密度の高い方が良いな」
「光は植物が育つための大事な要素の1つだ。だから影になるような場所よりは明るい日の当たる場所の方が上質な薬草が見つかる」
「茎を少し曲げてみると分かるんだが、モノによって弾力が違う。弾力がある方がしっかり栄養を吸っている証拠だから根もしっかりしてる。葉への栄養も高い」
などなど、教えるのに熱中しすぎた。
スーの成長が楽しくて、ついつい止めるのが遅くなった。
そうしていつの間にか採集する予定だった量を超えていたのだった。
「今日はここまでにしよう。これ以上は採りすぎになる」
我に返ってスーにそう声をかけた時だ。
魔力の気配を感じた。
モンスターだ。
スーに危険が及ばないようにと薬草採取の間もモンスターの気配にはずっと警戒していた。
近くには何も感じなかったのだが、森の奥から急に強い気配がした。
強いだけではない、禍々しい気配だ。
それは猛スピードで森を突っ切って向かってくる。
「ご主人さま……?」
俺の雰囲気の変化を感じ取ったのだろう。
スーが俺のそばに駆け寄ってきた。
「スー、薬草採集はおしまいだ。そのまま俺の側から離れるなよ」
「は、はいなのです!」
念のために周囲に
それと同時に森から巨大な獣が飛び出してきた。
「ブフオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
巨大な猪だ。
3本の連なった牙が2対。
腐って変色しているが、黒っぽい体毛が本来の色だろう。
「こいつは……ワイルドボアだな。いや……でかい、ジャイアント級か」
ジャイアントワイルドボア。
それだけならBランク下位程度のモンスター。
だがこの個体はそれだけではなかった。
「全身の腐敗、禍々しい魔力……ゾンビ化しているな。それもかなり高レベルの呪力によって」
引きちぎられたような体中の傷からして、元々この大きさだったのではなく呪力によって内側から無理やり巨大化させられたのだろう。
外皮がそれに耐えられずに裂けたのだ。
ゾンビ化する前、本来は通常のワイルドボアだったのかも知れない。
それならギルドの情報と一致する。
この森に生息するのはCランクまで……通常のワイルドボアがそのCランクだ。
だが今は強力なゾンビ化の個体となっている。
呪力の厄介さを考慮すれば、危険度はAランクまで上がるだろうな。
これはギルドからの情報と違う。
ゾンビ化するモンスターがいるなんて聞いていない。
森で何らかの異常事態が発生しているのか……?
「ブフオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
俺たちの姿を見つけたらしいゾンビボアが威嚇するように大きく吠えた。
その口は大きく裂け、どす黒く濁った血液をまき散らしている。
「きゃあ!?」
ゾンビボアのその異様な姿にスーが悲鳴をあげた。
確かに子供に見せるにはよろしくない見た目だ。
「大丈夫だ。安心しろ、スーは俺が守る」
「は、はい……なのです! 怖く、ないのです! ご主人さまがそばにいてくれるから……!」
ぎゅっと俺にしがみつく力が増す。
ご主人様として……そして男として、この信頼を裏切るわけにはいかないよな。
とりあえずこのゾンビボアをさっさと処分するとしよう。
スーを怖がらせるなんて許せない。
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