048:まずは薬草採集です③
魔力には様々な属性がある。
その1つが闇の属性とよばれるものだ。
それは魔界に由来する力とされ、主に上級モンスターが持つ魔力の属性だ。
人間にも扱えるが、かなり珍しい。
そして強い闇の力は呪いのような禍々しい力を持ち、故に呪力と呼ばれている。
「スー、少し目を閉じていろ。すぐに終わる」
「は、はいなのです!」
強い呪力は周囲へと伝染する。
早めに仕留めた方が良い。
だが情報も必要だ。
通常のワイルドボアが急にゾンビ化することなんてない。
何らかの原因があると考えるべきだろう。
恐らくはこの森の奥。
そこに何かがある。
その分析ができるように呪力を残したまま確保する。
そのためには呪力を隔離、封印してからギルドに持ち帰る。
それが今この場で出来るベストだ。
「
まずはこれ以上スーを怖がらせないようにゾンビボアの音を消した。
もっとも、これは念のためだ。
なぜなら悲鳴も上げる暇なんて与えないつもりだから。
スーを怖がらせた罰であり、せめてもの慈悲だ。
呪いの苦しみから一瞬で解放してやる。
「……ッ!! …………ッッ!!」
ボアは乱暴に突進してきた。
相手はAランクに相当するであろう危険度のモンスター。
まともにくらえばヤバイだろうな。
だが、しょせんはボアだ。
それも腐ったゾンビ。
動きは直線的でわかりやすい。
まさに猪突猛進だ。
回避も防御も必要はなかった。
攻撃が届く前に終わらせる。
「
まずは呪力の状態を分析する。
ゾンビ化したモンスターにはその呪力の元になっている部位がある事が多い。
今回は……頭部か。
そこだけ呪力が濃くなっている。
瞬間的にそれを見抜いた俺は行動を決める。
封印する場所はそこだな。
それ以外は頭部から切り離し、解呪してしまおう。
「
ズバババババァァァーーーーー!!
俺が生み出した風の刃によってボアの体が一瞬にして八つ裂きになる。
呪力を帯びたモンスターを直に触れるのは得策ではない。
そこから呪力に侵される可能性があるからだ。
「
ズドドドッ!!
続けて、地面から打ち出すように、針の山のように鋭い杭を展開。
バラバラになった肉片を串刺しにして空中に固定する。
これで肉片から地面に呪力が伝わる事はない。
「
最後に展開した【土杭】を通して呪いを解くための魔術を流し込んだ。
呪力の中心である頭部以外はただのボアの肉片に変わった。
【解呪】の対象から外した頭部だけは強い呪力によってまだ生きている。
「
頭部を氷結させ、その脳細胞の一つまで、思考すらも凍り付かせる。
このまま生け捕りにするのも可哀そうだからな。
「
そしてその頭部を呪力を遮断する魔力の立方体に封じ込めた。
後でギルドで分析してもらうためだ。
俺は呪術も使えるが、呪いの専門家というワケではないからな。
これでゾンビボアは完全に無力化できた。
その間、実に2秒!!!
あとは後かたづけだ。
封印しているとはいえゾンビボアの生首なんてスーには見せたくもない。
なので圧縮してアイテムボックスに押し込む。
残った肉片は
一応、これもギルドに分析してもらうか。
呪力の影響で組織がボロボロになっているため素材などには使えないだろう。
ゾンビボアが触れた地面にも呪力が伝染していた。
呪力によって草が枯れるようにしぼんでいる。
俺は新しく大きめの【土杭】を作ってそこに【呪力封印】を付与する。
ゾンビボアが通ったことで作られた呪力の道にそれを突き立てた。
即席ではあるが封印の役割を担ってくれる。
これでしばらくの間は呪力が広がるのを防げるだろう。
下手に解呪するとあとで呪いの根源が辿り難くなる。
このまま呪力の跡をたどれば原因を解決できるかもしれないが、今の俺は森へ入れない。
さすがに初日からギルドの規律を破る気もないからな。
念のため、ついでに軽く呪力を辿ってみるが……かなり遠くから来ているようだ。
幸いなことに森への被害はまだ少なそうだから、この即席の封印があればこれ以上急ぐ必要もないだろう。
「スー、もう良いぞ」
「も、もう終わったのです?」
「あぁ、危険は排除したから。今日は帰ってギルドに報告しよう」
ゾンビボアなど最初からいなかったかのように静かな草原が戻った。
騒ぎの元凶は全部アイテムボックスに押し込んだからな。
「あ、ご主人さま……守ってくれてありがとうございます、なのです」
「当然の事をしただけさ。それより、俺がお礼を言わないとな」
「お礼……なのです?」
スーは何の事かわからないように首をかしげる。
「薬草採集を手伝ってくれただろ? スーのおかげで集まったんだからな」
それを伝えるとパァっと目を輝かせた。
「わたし、ご主人さまの役に立ったのです?」
スーが尻尾をブンブン振って「ほめてほめて」とアピールするみたいに俺を見上げてくるので、また頭を撫でてやった。
「もちろんだ。スーは役に立ってるよ」
存在だけで癒されるからな。
そばにいてくれるだけで良いんだよ。
とまで言うのはさすがに甘やかしすぎだろうか。
少なくともスーが望む言葉ではない気がしたから、今は心の中にとどめておく。
本当に助けられてるんだけどな。
「さぁ、帰ろう」
「はいなのです」
すでに薬草も必要な量は採集できている。
森に異常事態が発生しているのは確実だろうから、ギルドにも早めに報告した方が良いだろう。
俺たちは足早にギルドに戻る事にした。
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