027:冒険者登録テスト 適性試験①
「お待たせしました、ルードさん」
ちょうど冒険者登録の手続きに必要な項目の記入が終わった所で、エナンがカウンターに戻って来た。
「いや。俺も今、記入が終わったところだよ」
「では確認しますね……はい、問題ありませんよ。ではさっそく登録を進めましょう」
「その前に一応、確認しておきたいのだが……」
「どうしましたか? お隣で『無音で動く不思議なオブジェ』みたいになってる冒険者さんの事でしたら気にしてませんよ? Bランク冒険者のハーミンチさんです」
見えていないのかと思ったがちゃんと認識されていたらしい。
さりげなく紹介までされた。
俺の推測通りのBランクという事はギルドランクのシステムもハイエアと似たような物なのだろうな。
わかりやすくて助かる。
「いや、そうではなく、俺はハイエア王国から来たんだ。元冒険者で……ワケあってその資格を失った」
「なるほど。そうだったんですね。どうりでお強いわけです」
エナンはチラリとオブジェに視線を投げる。
どうやら大男との騒ぎを見られていたようだ。
やけにスルースキルが高すぎると思ったら、知っていたから驚かなかったワケか。
「見ていたのか」
「はい、見ていました。でも見てなくて驚いても、この笑顔は崩しませんよ? どんな時でも冒険者さんには笑顔で接する。それが私の受付嬢としてのポリシーですので」
「なるほど」
すごいな、受付嬢。
俺なら絶対にびっくりした顔になる。
「それからハイエア王国での件は何の問題もありませんよ。どのような経緯なのか存じ上げませんが、帝国にとって冒険者は貴重な人材ですから1人でも多い方が良いんです。実力のある冒険者なら大歓迎ですので、ギルドでも来るもの拒まず、去るものは……うふふ♡」
えっ、なにそれ怖い……。
「冗談ですよ。心配いりませんから、安心して登録を進めましょう」
「そ、そうか……」
エナンって冗談も言える人なのか。
仮面のように張り付けられた笑顔といい、やさしいようでどこか冷めた話し方といい、冗談の通じないタイプかと思ってしまった。
俺が思ったよりユーモアのある女の子のようだ。
「では、さっそくテストを行いましょう。当ギルドでは適性試験と実力測定の2種目で登録テストを行っています。このテストでしっかりと価値を示していただければ誰でも冒険者になれるのがローランド流ですよ」
「わかった。精一杯やらせてもらうよ」
「その意気です。ルードさんの実力ならテストするまでもなさそうですけれどね」
笑顔で応援してくれるが、やはりどこまでが本心なのかわからない笑顔だ。
「それで、ルードさんは魔術がお得意なのでしょうか?」
エナンがとなりのオブジェに視線を向けながら聞いてきた。
オブジェは疲れてきたのか、棍棒を振る勢いが落ちてきている。
「いちおう魔術師をやっているからな。剣よりは得意だよ」
「なるほど。ではこちらへどうぞ」
そうして次の部屋へと案内された。
その小さな部屋のテーブルの上に水晶が置かれていた。
「まずは適性試験です。魔術師の方にはこの水晶を使ってテストをしてもらいます」
「これは……魔見水晶か」
触れた物の魔力に反応して様々な色の光を放つ魔道具だ。
光の強さから魔力量も測定できるという。
無色透明な球体の中央にある虹色の核が特徴的だからすぐにわかった。
「はい、その通りです。ご存じでしたか?」
「本で見たことがあるだけだよ。実際に見るは初めてだ」
たしかハイエアではあまり流通していなかったハズだ。
ハイエアではローランドに比べて魔術より武術が重要視されているからな。
おそらくはその影響だろう。
「では仕組みはご存じですね。この水晶で十分な魔力量や属性適正が証明されたら合格です。テストと言うよりは検査のようなものですからリラックスしてください」
「わかった」
水晶にそっと手を伸ばす。
大量の魔力が込められても壊れない不思議な水晶らしいが、一方で物理的な衝撃には弱いと聞く。
実際に触るのは初めてだな。
今までは属性の適性なんて知る必要もなかった。
必要な魔術を使うための適性がなければ、苦手な属性があるのなら、自分にできる他の方法でその効果を実現できる形に再現すれば良いだけ。
そんなやり方で魔術書を読み漁ってたら、いつの間にか全属性使えるようになってたんだよな。
……たまに意識を失ったり頭痛で死にそうになったり鼻血が止まらなくなったりしたけど。
「そのまま魔力を流し込んでみてください。絶対に壊れたりしませんから、安心して良いですよ」
「そうなのか?」
「はい。純粋な魔力量でこの水晶を壊せたのは歴史上でも最強の魔術師【大賢者】様だけだと言われていますからね。むしろ壊せたらすごいですよ!」
エナンが楽しそうに教えてくれる。
なるほど。
そう言われると確かに安心だ。
魔力量の可視化というのも楽しみだ。
力をセーブする必要もないらしいし、思いっきりやってみよう。
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