『ゼロの魔術師』~Sランク勇者パーティを全力でサポートしていたのに追放された最強の魔術師はパーティ恐怖症になったので全力でお一人様無双を始める事にしました。~

ライキリト⚡

第一章 追放と没落

001:補助する魔術師、追放される①

「魔術師ルード。お前をこのパーティから追放する」


 ここは冒険者ギルドに併設された酒場の一角。

 そこで俺はパーティのリーダーであるトランからそう告げられた。


「はぁ……?」


 あまりに急な宣告に思考が追いつかず、マヌケな声が出てしまった。


「はぁ~……だと? おいおい、お前まだ分らないのか?」


 そんな俺にわざとらしくため息をついたトランは飲みかけのビールジョッキを勢いよくテーブルにたたきつけた。


「なんだ、ケンカか?」


 その音に反応して酒場がざわつく。

 トランはそれを横目に確認しつつ、わざと注目を浴びようとしているかのような大声を酒場中に響かせた。


「だから追放だって言ってんだよ!! つ~い~ほ~うっ!! お前はもう用済みだっ!!」


「…………俺が、用済み?」


 シンプルなその言葉を理解しておどろく。

 言葉の意味は理解できたが、この状況は理解できなかった。


 役立たず?

 なんで急にそんなことを言われなくてはいけないのか。

 

「あはっ! ちょっとトラン様、言い方ひど~い! かわいそうじゃーん! 事実だけど! あっははは!!」


 そんな俺の様子が面白いらしく、丸出しの腹を抱えて笑ったのはスフォウ。

 トランと共にパーティの前衛を務める武闘家だ。


 ボーイッシュながら引き締まったその美しい肉体に魅了される男も多く、今もうっすらと割れた腹筋にくぎ付けになっている男が多数……。

 一方で武闘家としての実力も本物で、危険なモンスターを拳一つで仕留める格闘の達人だ。


「ん? んん? その表情はもしかして驚いているのか? この状況に驚いているのか? まさか自分が追放されるなんて想像もしていなかったのか? だとしたら役立たずのどこにそんな自信があったんだ? まったく理解に苦しむのだが?」


 早口でニヤニヤと笑っているのメガネはメイ。

 遠距離の範囲攻撃を得意とする魔術師だ。


 見た目は可愛い魔女っ娘なのだが、とにかく性格に難がある。

 特に俺は嫌われているようだが、おそらくパーティの頭脳を自称しているメイにとって、いろいろと戦略に口を出す俺の存在がおもしろくなかったのだろう。

 もしかしたら魔術師役がかぶっていることも気にしているかも知れない。


 今もここぞとばかりに口撃するその様は心底たのしそうである。

 人見知りでいつもはもっと無口だというのに……。


「私は反対したんですよ? 弱者の救済も強き者の責任……役立たずだからってゴミのように捨てるなんてあまりにも可哀そうですもの」


 最後に困惑するふりをしているのは聖女のシーン。

 …………見た目以外に聖女要素が皆無なのだが、これのどこが聖女なんだか。


 聖女伝説に一致するのはその回復魔術と、そしてとても豊満なバストだけだ。

 まぁ、回復魔術は希少だから仕方がないのかもしれないが。


「クックック……ほらみろ、これがパーティの答えだよ! もう分かっただろ?」


 そして俺の所属するパーティ『黄金の薔薇』ゴールデンローズのリーダーであるトラン。

 薔薇の勇者を自称するイタい男なのだが、それでも立ち上げたパーティがSランクに認められた事で周囲にも認められる勇者となった。


 一流の剣技と人並外れた身体能力により【剣聖】の異名を持つトランは、高い攻撃力が売りの『黄金の薔薇』における攻撃の要であり、まさにパーティの中心人物と言って良いだろう。

 恐れ知らずで負け知らずの猪突猛進スタイルはまさにトランの勇気の証明であり、勇者の名に相応しいと王国でも評判らしい。


「おいおい、少し落ち着いてくれよ……話が急すぎるんだが?」


 だが肝心のその理由が分からない。


「……落ち着け、だと?」


 俺の言葉にギラッとトランの目つきが鋭くなる。

 その瞳の奥に感じたのは悪意にも近い怒りだった。


 トランだけではない。

 仲間たちもゴミを見るような冷めた目で俺を見ていた。

 その眼に宿るのはトランのような怒りとは違うが、悪意だけは共通している。


 空気を読め、とでも言うように誰かが溜め息をつく。

 満場一致で追放に賛成するようなそのパーティメンバーたちの態度で俺は察した。


 昨日か、前回のダンジョン攻略後か、それとももっと前からなのか……どうやら俺をパーティから追放する事はすでに全員で決定されていたようだ。


 そう、俺以外の全員で。

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