052:もしかして……②
店先に置かれていた目当ての魔術書を手にとり、軽くパラパラとめくってみる。
かなりしっかりしている。
というか今まで見たコピー本に比べてもかなり精巧に作られている。
もしかして本物かも……
ん……?
こんな記述あったっけ?
ちゃんと読み返すのは数年ぶりだからか、所々に見覚えのない内容があった。
コピーを作った人間の独自解釈だろうか。
元の記述を補足するように付け加えられている。
ふむ、理論としては間違ってない……いや、むしろ見事な補足になっている。
良いな。
俺も読んでみたくなった。
結局2冊を手にして店の中へ入る。
「……ん? 留守か?」
「ま、まっくらなのです」
扉を開けると、その先の店内は真っ暗だった。
鍵はかかっていなかったが、不用心なだけだろうか。
扉から差し込む明かりに照らされて見えた店内には、乱雑に積み上げられた本の山が広がっていた。
とても売り物とは思えない。
「ここ……本屋じゃないのか?」
店内からは魔力の気配がしていた。
外からはまるで感じなかった気配だ。
よく目を凝らしてみれば、小さな魔法陣が壁に刻まれているのが見えた。
魔力を遮断して隠蔽するためのかなり高レベルな術式だ。
やはりここはただの本屋というわけではないらしい。
魔道具が混じっている。
「んー、なんじゃあ~?」
本の山の奥からなにやら寝ぼけまくった声が聞こえてきた。
「誰かいるのか?」
ドサドサッと本の山を崩して現れたのは、真っ黒な布の塊だった。
「!?」
スーが驚いて俺の背後に隠れる。
布の塊はモゾモゾとうごめくと……中からポンと何かが飛び出した。
水色と紫色がまじりあったような不思議な色の髪の毛だ。
そしてその下には真白な肌の少女の顔がついていて……
「ふぁ~……ん、なんだ客か?」
ダボダボすぎる大きな服……というよりはだたの大きな布にくるまれるような恰好で、少女は大きくあくびをした。
布のせいで体型は分かりにくいが、その表情はかなり幼く見える。
もしかしたらスーと同じくらいだろうか。
「えーと……君がこの店のオーナーで良いのかな? この本が欲しいんだが」
「ん~? あぁ、それか。良いぞ、持って行って」
「……代金は?」
「いらんいらん。在庫処分ってやつじゃな」
モゾモゾと立ちあがった少女は「ん~~~」と大きく伸びをした。
服がダボダボすぎて大きく空いた隙間から見えてはいけない部分まで見えているが、まるで気にする様子はない。
なんというか、隙だらけだった。
それからペタペタと本の山の上を歩いてこちらに来ると、改めて俺をみた。
「ふむ。なかなかおもしろい魔力を
髪の色と同じ水色と紫色が混じりあう不思議な瞳が、眠そうな目つきのまま俺を品定めするように見る。
その瞳にはかすかに魔力の光が宿っていた。
俺の魔力を
相手の魔力を見極めようとするのは魔術師の性質かもしれないが、基本的には無礼にあたる。
知らない相手からいきなり体をジロジロ見慣れると気分が悪くなるのと同じようなものだ。
「ほうほう……」
だから普通はしないのだが、この少女は全く気にしないらしい。
俺も別に気にしないタイプなので良いのだが、相手によってはケンカになるレベルである。
「うむ、おもしろい。だが
「別に育てたつもりはないが……いろんな本で魔術を学んできたからかな」
歪だなんて言われたのは初めてだが、そうなってもおかしくはないだろう。
なにせ俺の魔術は全て独学で、いろんな本の知識を組み合わせて出来ている。
魔力がそれに合わせて適応しながら成長したのなら、その結果として歪な形になっているというのはむしろ理にかなっている気がする。
それで今までなにか不都合があったわけでもないから気にした事はなかったが……。
「なるほど、本が師というワケか。おもしろい小僧だな」
小僧ときたか。
少女の方が明らかに年下に見えるのだが……まぁ良いか。
「む~……」
背後でスーが少しムスッした気配がするが、まだ俺の背後に隠れている。
いつもならそろそろ警戒を解きそうなものだが、今回はまだ警戒してるらしい。
確かに少し得体の知れないところはあるが、スーもそれに気づいているのだろうか。
なぜなら目の前の少女からは一切の魔力が感じられないからだ。
どんな人間にも魔力はある。
魔術ではなく剣で戦う剣士にも、体一つで戦う武闘家にも、魔力自体は必ず存在するのだ。
だが目の前にいる少女からは何も感じられない。
魔術師として魔力を見る眼にはそれなりの自信がある。
そんな俺の眼にも何もうつらないのだ。
考えられるのは魔力の制御か。
魔術師の眼にうつらないレベルとなれば、それはかなり高レベルな魔術師にしかできない芸当だが……
「もしかしてこのコピー本、君が作ったのか?」
なんとなくそんなことを思いついた。
「ん? いや、それコピーではないが」
「……え?」
「いやそれ、ワシの本。ワシ、アクアクックシ」
少女は眠そうな目つきのまま、そんなとんでもない事を言い放ったのだった。
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