051:もしかして……①
薬草採集の基本報酬に高品質評価によるボーナスが付き、さらにゾンビボア退治の特別報酬も加算されてなかなかの大金が舞い込んできた。
無一文だった数日前が遠い昔のようである。
「ご主人さま、お金持ちなのです?」
「ちょっとだけな」
「さすがなのです!」
けっこうな大金を手にしたのだが、スーはその価値が良く分かっていないようだ。
奴隷生活が長かったからなのか、正しい金銭感覚が身についていないのだろう。
ご主人様として、そこは教育していく必要があるだろう。
いつかスーが自立する時に困らないようにな。
とはいえ俺にも問題がある。
以前のパーティでは仲間達が金を管理していたから、依頼報酬の適正な価格などあまりわかっていないところがあるのだ。
それに冒険の準備に使うために購入していたモノ以外の値段にもあまり詳しくない。
今回の報酬が破格であることはなんとなくわかるくらいだ。
ハイエアでの俺の生活を考えればしばらくは生活できるだろう。
生活に困らないくらいの常識は持ち合わせているつもりだったが、ご主人様としてもう少し常識を学んだ方が良いかもしれない。
「そうだな……スー、ポーチをちょっと貸してくれるか?」
「はいなのです?」
俺はスーのポーチを魔改造することにした。
ポーチに付与した【空間圧縮】に識別と演算の機能を追加し、簡単にお金を個別に管理できるようにしてやる。
「今回の報酬だ。これはスーの分」
「え……? で、でもこれはご主人さまがもらったお金なのです」
「薬草を採集したのはスーだろ? 俺は代わりに受け取っただけだ。だから好きに使っていい」
子供が持つには少し大きすぎる金額だが、そういった感覚も覚えさせていこう。
「あ、ありがとうなのです! でも、今は欲しい物がわからないのです。ご主人さまのおそばにいられたら、わたしはそれだけで幸せなのです」
う~ん、かわいい。
「じゃあ今日はスーが欲しい物、探してみようか」
「はいなのです!」
俺の手をつかんでとなりを歩くスーはいつにも増して楽しそうだった。
こんなのんびりした時間も良いものだな。
もともと今日は町の中で買い物して回るつもりだった。
まず俺が買う予定だったものは魔術書だ。
と言うのも、スーが魔術に興味を持っているからである。
そんなわけでまずはスーと一緒に本屋に来た。
もともと目をつけていた店だ。
前に通りかかった時、店頭に一冊の魔術書が並んでいるのを見つけた。
『ゾンビでもわかる万能魔術学理論入門 著:アクアクックシ』
通称「ゾンわか」。
少しマニアックだが個人的にオススメな魔術理論の入門書である。
これが店先に並んでいるとは、さすがはローランド領。
トランたちに売り払われてしまったが、俺が最初の頃に読んでいた中でも特に理解しやすかった愛読書である。
アクアクックシの魔術書にはこの「入門書」ともう1つ、「応用書」が存在する。
というかその2冊しか存在しない。
応用書の方は難解過ぎて「理解不能」だとか「未完の理論」だとか言われていて不人気だったらしいが、入門書はとても読みやすい。
俺は両方とも読んでみたが、たしかに応用書はあえて分かり難く書かれているくらいで完全には理解できなかったものだ。
だから入門書と合わせて読む事で独自に改変し、改造し……それが俺の今の魔術の基礎理論になっていたりする。
アクアクックシは俺の魔術の師匠のような存在だな。
憧れの存在とも言える。
変な名前の著者だが、独自の魔術理論はユニークで読んでいて飽きない。
同じ世代に生まれていたら、ぜひとも出会って見たかったものだ。
それも叶わぬ願いではあるのだけどな。
なぜならどちらの本もかなり古い本であり、100年以上昔に作られたと言われているからだ。
だから今では入手も難しいのだが、入門書に関してはコピー本が多く出回っている。
マニアックだが人気があるおかげだ。
今回は偶然にもそんな本を発見したから、依頼の報酬でスーに買ってあげようと思っていたのだ。
スーはまだまだ文字の読み書きから教えている所だが、それでもスーは覚えが良い。
この入門書は子供でも読めるようにとても簡単に記述されているから、すぐに読めるようになるだろう。
そこでふと、サヴィニアを思い出した。
部屋で書類を読んでいる時のサヴィニアは、普段はかけていないメガネをかけていた。
エナンの丸いメガネとは違う、横長の四角いメガネだ。
露出度の高い、いかにも武闘派といった格好のサヴィニアだが、意外にも知的なメガネ姿は似合っていた。
そこで俺は気が付いた。
もしかして、スーにはメガネも似合うんじゃないか……?
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