055:Cランクでも良いから①(追放サイド)


 ~ トラン視点 ~





「ほら見ろ、俺の言った通りだっただろ?」


 ハイエア王国が極秘に管理するSランクダンジョン『虹の麓』。

 その最深部まで俺たちは到達した。


 わずか10階層。

 地下へと進むだけの一本道だった。


 不気味な色の水晶だらけで気味が悪いが、それだけ。

 むしろその水晶の光で明かりもいらないから助かるくらいだぜ。


 ダンジョン内どころか、この周辺にもモンスターは存在しない。

 これは強力な封印がダンジョン全体に仕掛けられているから、そのせいでモンスターが近寄ってこないんだとか。


 長年の間ずっと封印され続けているからか今では警備も手薄でダンジョンの周りには誰もいない。

 ダンジョン内も埃だらけで人の行き来が少ないのは間違いなかった。


 しかもここは本来ならローランド領らしいからかなり遠い場所のハズなのだが、王都から地下にある隠し通路のおかげですぐにたどり着けた。

 なんでも魔術による空間圧縮で距離が短縮されているとか……良く分からんが便利なもんだ。


 全てはSランクになった時に仕入れていた情報の通りだぜ。


 まぁこの通路の警備をかいくぐるために、町の道具屋でちょっとしたボヤ騒ぎを起こしてきたが、あれくらいならすぐ消火されただろう。

 俺さまの伝説のためには必要な犠牲ってヤツだしな。


 悪く思わないで欲しいぜ。


 そしてダンジョンでは戦闘無し、道に迷う事も無し。

 だからここまでのパーティの消耗はほぼゼロだ。


「これが目的の『虹色の魔人』。弱そう」


「そうですねぇ~。確かにこれなら簡単そうです」


 ダンジョンの最奥には巨大な水晶があった。

 壁に埋まっているというか、この水晶に突き当たるまで穴を掘ったのがそのままダンジョンになったみたいな感じだ。


 不気味な色の水晶の奥には黒い人影のようなモノが見える。


 これが『魔人』なのだろう。


 それはモンスターの上位形態であり、モンスターの凶悪な力と人間と同等の知恵を有した存在だとか言われている。

 たしか魔王も魔人らしいな。


 それくらいヤバイって事で封印されているんだろう。


 だが水晶の中の影は子供くらいの大きさだ。

 情報通り、長期間に渡る封印で弱体化してるのか?


 やっぱり余裕だな。


 ククク、これで俺さまは【勇者】だけでなく【魔人殺し】とか呼ばれちまうんだろうな?

 俺さまの経歴にも相応しいぜ!!


「ちょ、ちょっと待ってください……これほどの距離まで近づいても魔力を感じないなんて逆に怖くないですか? めちゃくちゃ高レベルな結界って事ですよね? 破ったら大変なことになるんじゃ……」


「だから大丈夫だっての。作戦通りに一撃で仕留めれば良いだけだろ? それにヤバそうだったらすぐに封印し直せば良いんだからよ!!」


「え、できるんですか? そんなこと……」


「あ、当たり前だろうが!! でなければ来ないぜ、こんなところ?」


 もちろん嘘だけどな。

 封印のやり方なんて知るわけねぇだろ。


「そ、そうですか。だったら安心です」


 パフがアホで助かったぜ。


 魔術師としては優秀らしいがマジでアホだな。

 簡単に騙されすぎだろ。


「そもそも倒せば良いだけだろうが。ビビってんじゃねぇよ」


 そうさ、封印の強さなんて関係ないんだよ。

 心配性なヤツらだぜ。


 俺さまは選ばれし勇者なんだ。

 他のヤツらには無理でも俺さまになら出来る。


 無能なヤツらとは違うんだよ!!

 俺さまは特別な存在なんだからな!!


「よ~し、お前ら準備しろ!!」


 この魔人の弱点であるメイの火魔術とシーンの光魔術。

 それを合体させた最大攻撃魔術をパフの補助魔術で限界まで強化する。


「魔力を使い果たしても良いからな! 一撃で決めるぞ!!」


「理解してる」


「わかってますよぉ」


「わかってますから集中させてください」


 魔術の合成には手間と時間がかかるらしいから普段は使えないが、今回は準備にいくら時間をかけても良い。

 好きなだけ念入りに用意した最大最強の一撃をブチ込めるってワケだ。


 バカな国王のせいでBランクにまで格下げされちまったが、本来ならSランクパーティである俺さまたち『黄金の薔薇』ゴールデンローズが誇る最強魔術だ。


 こんなチビ魔人に耐えられるワケがない。


 というか、今回は俺さまは特にやることねぇな……。


 とりあえず剣でも抜いて周囲を警戒するふりでもしとくか。

 モンスターなんていないんだけどな(笑)


 ま、言うなればリーダーシップだよな。

 俺さまの存在そのものが必要不可欠ってワケだ。


 俺さまがいなければこのダンジョンに挑む勇気もなかったハズだ。

 さすがは勇者ってワケだな。


 やはり俺さまは世界を救う運命に選ばれてしまっているのだろう。

 運命の女神が俺を手放さないのだ。


 さぁ勇者伝説の始まりだぜ!!!!


「よっしゃあ、封印を解くぜぇーーーーー!!!!」

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