045:歩くお城が来たらしい③
「すぅ……すぅ……」
なんとか理性を総動員して俺はお風呂を無事に切り抜けた……と思う。
「良く寝ていますわね」
今は寝室で大きなベッドに3人並んで横になっている。
俺に抱き着いて安らかな寝息を立てるスーをはさんでとリリルルと向かい合うような形になった。
「あぁ、スーは寝つきが良いんだ」
スーと一緒に寝るのはいつも通りだが、リリルルという少女の存在で中々おちついて眠れない。
リリルルは持参していたお泊りグッズの中にパジャマもあったようなのだが、スーの着替えを任せていたらスーから「お揃いにしたいのです」なんて言われたらしく、仕方がないので【衣服製造】の魔術で俺の古着を改造して大きさを整えた。
真ん中に大きなリボンのついたスーお気に入りのワンピースだ。
ファンシーにも思えるそのパジャマは、しかしリリルルにもよく似合っていた。
女騎士としての鎧を脱ぎ捨てたリリルルはとても可愛らしい女の子なのだ。
「スーと仲良くしてくれてありがとうな。俺以外には警戒してて少し心配だったんだ」
俺といる時は笑顔を見せてくれるスーだが、町やギルドではずっと警戒した表情だった。
だからスーがもっと心を許せる人間が増えてほしかったのだ。
今はリリルルがそばにいても警戒した様子は見せなくなっている。
この寝顔がその証拠だろう。
「別にワタクシは何も特別なことはしていませんわ。この子が人懐っこいだけでしょう?」
リリルルは少し恥ずかしそうに、そっけなく答えた。
「そうだと良いんだけどな」
リリルルがお風呂やその後の着替えなど、スーの世話を焼いてくれたおかげだと思う。
多分、彼女の優しさがスーに伝わったのだ。
風呂場での事を思い出すと、横になったリリルルのしっかりとしたふくらみに視線が吸い寄せられてしまう。
スーに合わせてデザインしたからか、心なしかパジャマの胸元が苦しそうにも見えるが……
気が付けばリリルルが恨めしそうな恥ずかしそうな、複雑な表情で俺をにらんでいた。
「す、すまん……」
「もう、顔に
「み、見てないぞ……?」
「ジー…………」
「…………とても綺麗でした」
「~~~っ!!」
正直に告白するとリリルルは枕に顔をうずめてジタバタと暴れた。
恥ずかしさが限界を超えたのだろう。
寝ているスーに気を使ってか、ジタバタの勢いはかなりやさしい。
「またしてもワタクシの初めてを奪われてしまいましたわ! パーティを誘いを断られたのだってアナタが初めてですのよ?」
最後のに関しては、俺だって断りたくて断ったわけじゃないんだがな。
「だからこの責任は取ってもらいますからね! ぜっっっったいにパーティに引き入れますからね!!」
「お、おう……」
リリルルのロックオンはさらに強固になったようだ。
「こ、今回の件はこのパジャマで許してさしあげます。ワタクシが巻き込んだところもありましたし……だから代わりにこれは頂いて帰りますからね」
「それくらいなら全然かまわないが……」
やらかした行為に対して安すぎる代償だと思う。
気に入ってくれたのだろうか。
「それにしても、製造系まで使いこなすんですのね。しかも本職並みのスキル……本当に何もかも規格外ですのね。魔術の専門は?」
「特にないけど。一応、前のパーティではメンバーの補助を中心にやってたな」
そのための魔術の研究はたくさんしてきたが、何かを専門に勉強したことはない。
「【強化魔術】ですとか? アナタの本気なんて、どれくらいの補助が付くのか想像もできませんわね……」
「普通だと思うけどな。使ってた魔術だって【強化】しながら【照明】とか【遠見】とか、そんな基本の魔術ばっかりだったから」
「いや、当たり前のように言ってますけどそもそも【補助魔術】って超高等魔術ですのよ? 【強化】は補助の中では基本というだけで……」
「まぁ確かに同時にいろいろやると疲れるけど」
「いや、疲れるとかではなく……もう、なんだか慣れてきましたわ。その規格外さには」
なぜか呆れられてしまった。
俺は普通にやってるだけなんだけどな。
「そんなことより、これからもスーと仲良くしてやって欲しいんだ」
「なんですの? 急に」
「さっきも言ったけど、スーは警戒心が強いみたいなんだ。でもリリルルには懐いてる」
このままずっと仲良くして欲しいとそう思っただけだ。
「まったく、ワタクシはスーと仲良くなりにきたわけではありませんのよ?」
そう言ってリリルルは広げた手を差し伸ばしてきた。
雲が月明りを遮って、その表情が見えなくなる。
「言ったでしょう? ワタクシはリリルル。欲しい物は全て手に入れますわ。だからルード、アナタを必ず攻略して見せますのよ」
そういえばリリルルからは何度も手を掴まれはしたが、俺から掴んだ事はまだなかった。
「この手を掴んでもらえるかしら? 今日の成果があったのか……ちょっとだけテストですわ」
その手に俺の手を伸ばすのは、やけに勇気が必要な行為だった。
もしもこの手を拒絶してしまったら、ひどくリリルルを傷つけるような気がしたからだ。
「ふふっ。安心してくださいな。この手はパーティではなく、友達として……今は、まだ」
もう少しで手が触れる、というところでリリルルが俺の手を掴んできた。
少しホッとしたような、寂しいような気持がした。
それを確かめるように俺はリリルルの手を握り返した。
吐き気などない。
むしろその手はとても温かくて……
再び月のあかりが窓から差し込んだ時、そのリリルルの表情にドキリとしてしまった。
いつかこの手が、本当の仲間としてつかめたら良いのに。
まどろみの中でそう思った。
そして俺たちは手をつないだまま眠りに落ちていったのだった。
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