044:歩くお城が来たらしい②
「ふぁ~……」
食事を終えるとスーは眠そうに大きなあくびをした。
「なんだか眠たくなってきたのです……」
食事を終えたらお風呂に入り、魔術の話をしながらスーを寝かしつける。
これがスーと出会ってからの俺の夜のルーティンだ。
「そうか。よし、今日は早めに風呂に入って、早めに寝ような」
「はいなのです……」
「やっぱりパパですの?」
いつもならまだ元気な時間帯なんだが、スーは町に出て少し疲れたみたいだ。
人からの視線にもまだまだ怯えていたからな。
精神的な疲労もあったのだろう。
「ご主人さま、一緒にお風呂に入りましょうなのです……」
そう言って服を脱ぎ始める。
「よしよし。じゃあスー風呂に入れてくるから、リリルルは好きにくつろいでいてくれ。飲み物はこの奥、キッチンと冷蔵庫があるから」
「えぇ、わかりましたわ……って2人とも一緒に入るんですの!?」
「ん? そうだが」
なぜかリリルルが慌てだした。
「え? いや? そ、それはマズイのではないですの!? 年頃の男女が、その……2人っきりで全裸になるのは!!」
リリルルは「裸」に抵抗があるのかモジモジしていたが、最終的に思いっきり言い切った。
「そうなのか? いつも一緒に入ってるけど。なぁ?」
「はいなのです。ご主人さまにゴシゴシしてもらうとすごく気持ちいいのです。ご主人さまにくっついているとすごく幸せな気持ちになるのです……」
「い、いけませんわ! そんな……年頃の男女が密室で二人っきりだなんて!!」
「2人きりだと何でダメなのです?」
スーが不思議そうに首をコテンとかしげる。
「そ、それは……いろいろあるんですのよっ!! とにかくいけません!!」
「じゃあ、みんなで入るのです」
「えっ?」
「それなら2人っきりにはならないのです」
「いや、スー。それはマズいだろう」
さすがに危険な流れになってきたので止めておく。
まだまだ子供なスーとちがい、リリルルは立派な乙女だ。
それくらいは鎧の上からでもなんとなくわかる。
というかスーの無邪気さでリリルルが真っ赤なトマトみたいになってしまっている。
「か、構いませんわよ!? ワタクシもちょうどシャワーを浴びたいと思っていたところでしたのよ!!」
「いや、顔が真っ赤だけど……無理してスーに付き合わなくても大丈夫だぞ? 俺1人で……」
というか俺もさすがにリリルル相手になると恥ずかしいのだが。
「無理なんてしてませんわっ! これもアナタを攻略するためですから!!」
スーに抵抗しているのか、リリルルは明らかに強がっていた。
いや「裸」と単語を口にするのもためらうのに、無理してないわけがないんだよな。
そもそもなんで今日、リリルルが我が家に来ているのかと言うと……
「もちろんアナタに仲間として認めてもらうためですわ。仲間になるなら仲良くなるのが一番でしょう? 必ずアナタをパーティに引き入れますわっ!」
との事で、今日はここに泊っていくらしい。
お泊りグッズもしっかり持参したようだ。
「本当はワタクシのパーティの仲間たちも連れてきたいのですけれどね。今のアナタにはまだ早いでしょう? また吐かれては困りますし」
「お気遣い感謝するよ」
たしかにそれは吐くくらいじゃ済まなそうだ。
「良いんですのよ。ゆっくり攻略していきますから」
という具合で、俺はリリルルの攻略対象にロックオンされたらしい。
俺としてもパーティ恐怖症なんてものは払拭してしまいたい。
そんな経緯もあって我が家に招いたのだが……さすがにこれは予想外の展開である。
「たしか、お風呂イベントは好感度アップのチャンスですものね……これを逃す手はありませんわ……」
リリルルは何かブツブツと良く分からない事を言っている。
羞恥心が限界を突破したのだろうか。
「ん? 大丈夫か?」
「え!? な、なんでもありませんわっ! さ、さぁ一緒にお風呂に入りますわよっ!!」
そうしてリリルルにお風呂場まで引っ張られたのだった。
俺に拒否権はないらしい。
風呂場は大きめに作っているから3人でも十分には入れる。
だが脱衣所で鎧を脱いだリリルルは予想外に女の子らしい体つきをしていて……
「もう、乙女の体をあんまりジロジロと見るんじゃありませんのよ……」
バスタオルで前を隠しているが、それでもそのシルエットは分かってしまう。
恥ずかしさからか先ほどまでよりしおらしくなったリリルルはめちゃくちゃ可愛かった。
出来るだけ見ないようにしようと視線を外そうとした時、寝ぼけモードのスーがなぜかそのタオルを引っ張って持っていこうとして……
「ひゃあああああああああああんっ!?!?」
夜の町に絶叫が響き渡った。
そして、次の日から「歩く城」の呼び名が「夜になると叫ぶ呪われた城」にパワーアップしていたことなど俺たちは知る由もなかったのである。
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