043:歩くお城が来たらしい①

「ただいまなのです!」


「お邪魔しますわっ!」


 ギルドから我が家に戻って来たころには、すっかり夜になってしまっていた。


 我が家とは、ハイエアからローランドまでの旅で魔改造を続けてきた荷馬車だ。

 もはや荷馬車とは思えないくつろぎスペースになっており、すっかり愛着がわいてきた。


 いろいろと増築していたら5階建てになったからな。

 部屋も沢山あるし以前ハイエアで住んでいた部屋より住みやすいくらいになってきた。


 ただかなり目立つ大きさにもなってしまった。

 魔術でサポートしていないと倒れるくらいだ。


 だから目立たないようにと荷馬車は町の外に置いていたのだが、それでも十分に目立っていたようだ。


 なんでも「城が歩いてきた」と最初から噂になっていたらしい。

 たしかに遠くから見たらそう見えるかもしれない。


 盗賊やモンスターとの遭遇に備えて外壁を補強しすぎたか?

 あとで迷彩の魔術でもかけてみるとしよう。


「スー、ちゃんと手を洗うんだぞ」


「はーいなのです」


「アナタ、パパですの? というか水まで出るんですのね、この歩くお城……」


 今日は冒険者登録するだけだったのだが、なんだかいろいろあって疲れた。


 それにしてもいろんな人と出会ったな。


 今まで魔術を学ぶためにヒキコモリ生活を続けてきたからか、新しい人との出会いは新鮮で楽しいものだった。

 こういう新しい刺激も大切にしていこう。


「はい、スー。今日の分だ」


 いつもより少し遅くなったが、まずはスーに夜の分の食事を与える。


「いただきますなのです!」


「ってなんですのソレ!? なにを食べさせてるんですのっ!?」


「ん? これがワイルドボアの肉で、これがソードフィッシュの切り身。これはフォレストワームの体液だな」


「えっ……肉? 切り身? 体液!?」


 それぞれの食材から必要なエネルギーだけを圧縮した小さな粒。

 ハイエアでは『サプリ』と呼ばれている加工食品だ。


 スーはまだ幼い。

 それに獣人は成長に必要なエネルギーが大きいと聞いたことがある。


 だからちゃんと調べて必要なサプリを作成して与えているのだ。


「美味しいのです♪」


「えっと? そんな薬みたいなものだけですのっ!?」


「ローランドにはないのか? サプリっていうんだけど、ちゃんとした食事だぞ」


 せっかくなので俺の分と、来客であるリリルルの分をテーブルに並べる。


「初めて見ましたわね……これがボア肉?」


 ハイエアでは普通にあったんだけどな。

 たしか筋肉を効率よく育てる為には効率的な栄養の摂取が必要だから開発されたんだっけか。


 当たり前に思っていたけど、これは肉体を重視するハイエアのスタイルならではの文化だったんだな。


「ボア肉から必要なエネルギーを抽出して作ったんだよ。魔術で」


 実際にどうやって作るのかは秘密にされているから分からないんだけどな。

 俺のやり方は独学だし。


「それ本当に魔術ですの……? なんだか魔術の領域を超えていません……?」


「いや、生体エネルギーと魔力の反応を利用すれば簡単だぞ? 効率的に必要なエネルギーを取り出せるし、圧縮できる。腐る心配もないから長期間のダンジョン攻略にも役に立つし」


「いや簡単じゃないですわよ!?」


 そういえばサプリはトランたちにも評判わるかったな。

 おかげでキャンプ用なのに大きな薪とか調理道具を詰め込んでダンジョンに持って行ってたっけ……。

 料理はスフォウがやってたから俺の役目じゃなかったけど。


 今思えば、戦闘以外でやってなかったのは料理くらいだな。

 ま、おかげでアイテムボックスを広げる魔術を覚えたのはずっと役にたってるからすべてが無駄ってワケでもなかったけどな。

 アイテムボックスを広げるための【空間圧縮】はいろいろと応用が利くし、早めに覚えて良かったと思う。


「せっかくだから食べてみるか? いくらでもあるし」


「そうですわね……害はないようですし」


 スーがポリポリとおいしそうに食べているのを横目に見て、リリルルは意を決したように赤い粒を口の中に放り込んだ。


「あっ……美味しいですわっ」


 もちろん味付けも完璧だ。

 スー専用だけど。


 ちゃんと子供が好む甘味を付与しているし、スーの反応を研究して好みの味に日々改良を続けているからな。


 それに水なしでも粒菓子のようにポリポリ食べられる。


 スーの胃袋は俺にわしづかみにされていると思っていいだろう。

 これがご主人様の力だ。


 そしてこれでリリルルの胃袋も掴んだだろう。


「だろう?」


 俺も自分の分を口に放る。

 今日は魔力を使ったからワームの体液を多めに摂取しておく。


「たしかにこれは止まらなくなりますわね……でも、これだけではダメですわっ!」


 ポリポリ。


「ダメなのか?」


「確かに美味しいですわ。それに栄養もあるのでしょう」


 ポリポリ。


「ですが噛むという行為も立派な食事の要素でしてよ? 特にスー、この子は狼系の獣人みたいですから、しっかりした固形肉を与えた方が良いですわね。栄養や味だけでなくて、顎を鍛える事も必要でしてよ?」


 なるほど。

 確かに一理ある気もするが……


 ポリポリ食べ続けながら言われてもあまり説得力がなかった。

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