042:Bランクなんてありえない!⑤(追放サイド)


「夢を見すぎでしょう。そんなダンジョン攻略できるワケがありません。危険すぎますよ」


 俺さまの完璧な計画に水を差してきた。

 思い出してみれば、こいつは最初からこんな調子だったな。


 パーティの士気を下げる発言ばかりしやがって。

 まったく、やはり指導が必要だ。


 こんな状況でなければいつでも夜の密室指導をしてやるんだがな!!


「確かにパフの言う通りだ。かなり危険だと推測する」


「そうですねぇ。さすがに相手が悪いような気がします」


 チィ、さすがにメイとシーンも弱気だな。

 たしかに「誰もクリアできないダンジョン」なんてヤバイと思うだろう。


 ただでさえ、この前のダンジョンから不調が続いてるしな。


 ……しかし情報はまだある!!


「いや、それがそうでもないぜ? なぜなら封印のおかげでダンジョン内はモンスターがいないんだ。だから最奥にいるボスだけ倒せばそれで終わり。楽勝だ」


「だったら王国から討伐依頼が出てるでしょう。うさんくさすぎます」


「いや、そうじゃない!! 俺たちだから倒せるんだよ!! ここに封じられているボスは火と光に弱いらしいんだ。メイとシーンの魔術をパフが最大まで強化する。そして全魔力を使って強烈な1発で消し飛ばせば終わりだ!! 楽勝なんだよ、俺たちなら!! 俺たちにしかできないんだよ!!」


「なるほど、トランがそこまで言うなら」


「まぁ、トランさんが言うなら」


「いやいや、そんなの信用できません。上手くいくわけがないです。私は参加しませんからね」


 チッ、パフめ。

 やはり強情な女だ。


 しょうがねぇなぁ、この手は使わずに穏便に行きたかったが……。


「おいおい、それで良いのか? パフ、お前は偉大な冒険者になるのが夢なんだってな?」


「な、なんですか、急に? 夢くらい持っても良いでしょう。冒険者なら誰だって似たような夢を見ます」


 自分の大きな夢を他人の口から語られたからか、ちょっと照れてやがる。


 可愛いもんじゃねぇか。

 いつもそうしてろっての。


「その夢、壊したくないだろう?」


「……どういう意味です?」


 一転してキツい視線だ。

 おーおー、怖い怖い。


 だが俺さまにはまだ手札があるのさ。

 いざと言うときに逃がさないため、前もって調べておいた情報があるのだ。


 それはパフの生まれと育ちについての情報だ。


 パフには夢がある。

 偉大なる魔術師になるという夢が。


 パフは家庭に対して少し複雑な事情を持っているのだ。

 そして夢はその事情に関係していて、パフにとってとても大事なモノになっている。


 だから冒険者として活動できなくなるのは絶対に避けたいはずだ。

 それこそ命がけで成し遂げたい夢なハズだからな。


 ククク、俺さまの勇者的な調査能力をなめるなよ!?


「ルードの情報がギルドに存在しない理由、教えてやるよ。それはアイツが俺たちを裏切ったからだ。だから俺が勇者の権限を使って冒険者資格を剥奪した」


「そんなバカな……! 信じませんよ、そんな嘘。そんな横暴、許されるわけがない……」


 嘘は言ってない。

 半分くらいは嘘だけど。


「さぁ、どうかな? 信じるか信じないかはお前次第だ。ただ、慎重に選んだ方が良いぜ?」


 ここは余裕の姿勢を見せておく。

 これが勇者様の話術ってヤツだぜ。


「いや、ありえません。私はギルドを信じますからね!」


「おいおい、よく考えろよ? 俺は勇者なんだぜ? 俺がその気を出せば裏切者のルードと同じように資格を抹消する事もできるんだぞ? お前の冒険者としての居場所はなくなる。その意味がわかってるのか?」


 本当は今は無理だ。

 俺さまの信用は落ちてしまっている。


 今ギルドでそんな事を言い出せば「勇者(笑)」とか言われるだろう。


 だがパフはそんなこと知らない。


 だから「あり得ない」と思っていても「絶対にありえない」とまで言い切る確信は持てないハズだ。

 だからこう言われたら俺さまの言う事を聞くしかないんだよ!!


「くっ……この卑怯者!」


 よし、良いぞ。


 あと一押しだな。

 前から思っていたがチョロイ女だぜ。


 賢いくせにマヌケなヤツだ。


「今回だけダンジョンに付き合ってくれればその後は自由にしていい。俺は何も干渉しないと誓う。本当に安全な冒険なんだ。それを少しサポートしてくれるだけで良いんだよ」


 最後にはアメを与える。

 我ながら天才的なトークだぜ。


「……わかりました。でも、本当に安全なんですね?」


「あぁ、絶対に安全だ。危険が排除されたダンジョンだからな」


 これでトドメだな。


 ザ・エンドってね。


「……今日までは同行します。それで最後ですから」


「わかった。よろしくな!」


 やっと自分の立場を理解したらしい。

 世話が焼けるぜ。


「でも今回だけです。約束ですからね!?」


「わかってるって。それで十分だ」


 よし、これで良い。


 パフの力を最大限利用すれば、ダンジョンはクリアできるハズだ。


 絶対にクリアしてやるぜ!!

 こんなところで俺さまの夢は終わらねぇんだよ!!


「よし、そうと決まれば早速準備していくぞ!! 俺たちの戦いはこれからだぜ!!」

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