009:Sランクのオーラ②(追放サイド)


 パキィィィイイイン…………!



 私は妙な魔力を感じて目を覚ましました。


 いつの間にか眠ってしまっていたみたいです。


「ん……んぅ……?」


 光?


 一瞬の事で良く分かりませんでした。

 眠ってしまっているパーティメンバーのみなさんから、ありえないくらいに大量の魔術式が見えた気がしたのですけど……。


「ん? あれ……?」


 見間違えでしょうか。

 私はゆるんだ瞼をこする。


 なんだろう。

 目の前の景色に何か違和感がある気がします。


「えっ…………?」


 みなさんのオーラが、消えている?


 さっきまではSランクらしい見たこともない強さだったオーラが、今はAランクレベル……いや、Bランクの冒険者に見えるくらいになっています。


 これでは普通の冒険者って感じです。

 ギルドで何度も見たことのあるようなレベルで、とてもSランクとは思えないレベル……。


「って、ありえないか……」


 まだ酔っているのかも知れません。

 ウルトラエール、美味しかったから飲み過ぎたのですね。


 だってオーラはそんなに簡単に増減なんてしないものなのですから。


 もしオーラが増えたり減ったりするとすれば、それは長い時間をかけて鍛錬を積んで成長した時か、もしくは補助魔法なんかを使った時くらいでしょう。


 そして、今の状況は補助魔術でもあり得ません。


 なぜなら、BランクからSランクにまで能力を引き上げるなんて私の全力の補助魔術でも不可能だからです。

 1ランクくらいなら上がるかも知れませんが、そもそもAとSでは力の差に大きな壁があります。

 これを補助魔法だけで超えるなんて事は普通ではあり得ません。


 しかもそれを、4人全員に同時にかけるなど、絶対にできるわけがないです。

 そんなことは私が知っている限りのどんな上級魔術師にもできないと思います。


 もしそんな、神の加護にも匹敵する魔術を使える人間がいたとしたら……。


「そんなの……まるで神さまみたい……」


 つまりは、ありえない。

 奇跡みたいな存在だということです。


 奇跡とは起こらないから奇跡と呼ばれます。

 今の自分に必要な事はそんなあり得ない事を想像するのではなく、これまでの努力の成果を最大限に発揮することですよね。


「うん、明日はがんば……る、ぞぃ……」


 きっと変な夢でも見たのでしょう。

 寝起きで、酔いも回っていたから、夢と現実がまじってしまったのです。


 だからあんな失礼な見間違いをしてしまいました。


 だってSランクパーティのオーラがそんなに弱いわけがないのですから。

 そんなに弱い冒険者だけでAランクダンジョンを次々に攻略したりなんてできるハズがありません。


 Bランク程度のパーティがAランクダンジョンなんかに挑んだら、すぐに全滅してしまうのがオチです。


 みなさんがそんなパーティなわけないのに。


 ……あぁ、びっくりした。


 私は気持ちを切り替えます。


 明日のダンジョン攻略で、みなさんはどんな凄い戦いを見せてくれるのでしょう。

 私はどんな魔術でサポートしましょうか。


 そんな事を考えながら、そうして意識はまた遠のいて行きました。




 *


 *


 *




 この時、まだトランたち『黄金の薔薇』ゴールデンローズのメンバーたちは誰も気づいていなかった。


 自分たちがルードというパーティ内の最高戦力を厄介者あつかいし、そして追放するというあまりも愚かな選択をしてしまった事で、すでに破滅への一歩を踏み出していた事に……。


 そして新しくパーティに加入したパフも、まだ気づいていなかった。


 自分が見たものは見間違いでもなんでもなく、ただの現実だったという事に。

 ルードから無償の愛のように受け続けていた規格外の【補助魔術】という、その神の加護にも等しい力を失った『黄金の薔薇』メンバーたちの、その本当の実力に……。


 この場にいる誰も気づいていなかったのだ。


 これから向かうAランクダンジョンの攻略が、余裕だと思っているハズのその冒険が自分たちにとってどれだけ危険な冒険なのかを…………。

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