065:ヤベーやつが来る①


「その異次元じみたアイテムボックスにはもう突っ込まないが……全く、もう何と言ったら良いのかわからないな。まさか『邪龍の呪穴』を1日で攻略するとは。期待以上と言うか、なんというか……」


「しかも一人ソロ攻略です。凄すぎてちょっと引いてます……お一人だけでSランクパーティを超えてるんですか……?」


 俺は攻略の証としてボスである邪龍の頭だけを持ってギルドへと帰還した。


 いつものようにギルドマスター室に案内され、そこでアイテムボックスから白骨化した頭部を取り出して見せると、エナンとサヴィニアにそんな感じで呆れられてしまったのだ。


 あれ?

 もっと喜ばれると思ったのだが……。


「とにかくダンジョンは無力化したからもう安全だぞ。呪いは消えている」


「ルードが安全だというのなら信じるさ。とにかく調査隊を送る手配をするよ。だが、そもそも往復するのに2週間はかかる距離だぞ? いったいどうやってこんな短時間で……」


「我が家を改造したからな」


「もう、なに当然のように言ってるんですか!? 城が進化して空を飛び始めたって、町は朝から大騒ぎでしたよ!? ルードさんのお城、一部では魔王城と思われてますからね!?」


 ダンジョンからの帰路は空にした。


 これは全くの盲点だった。

 ハイエアでもいつも馬車移動だったから、それが当たり前になっていたのだ。


 ダンジョンでダークバットを見たスーが「空を飛べたらもっと早く帰れそうなのです」なんて言ったので、試しに飛行できるように改造してみたのだ。


 これなら最短距離を進むことが出来るし、障害物もないから好きなだけ速度を出せる。

 そして何より離陸と着陸以外ではあまり揺れないのが素晴らしいな。


 行きは半日かかったが、帰りはその半分の時間でついた。

 おかげで早朝からこうしてギルドに報告する事ができているが、逆に帰る間に寝る時間が短くなってしまったな。


 ダンジョン攻略に付き合わせてしまったため、スーにも夜更かしさせてしまった。

 だからかずっと眠そうにしているが、俺から離れるのはイヤらしくこうして報告にもついてきている。

 そしていつものように定位置で丸くなっているのだが。


「あとダンジョンの大半を破壊してしまった。そんなつもりはなかったんだが……いろいろあってな。すまない」


 これはちゃんと報告しておかなければな。

 ダンジョンは人類にとって脅威である一方、魔力密度の高いダンジョンだからこそ発生する鉱石や魔草なども存在するため大事な資源でもある。

 だから本来なら、ダンジョン内のモンスターだけを倒すのが好ましい攻略法なのだ。


「……えぇと、それはジョークではないんだよな?」


「ダンジョンを破壊するって意味が分かりませんけど、ルードさんならあり得ますもんねぇ」


 真面目に報告したんだが、ジョーク扱いされかけていた。

 さすがにそれくらいの空気は読めるつもりなのだが。


 まぁ、俺も今までダンジョンを地形ごと破壊する攻略法なんて見たことないからな……。


「その点は心配いらない。本部からは攻略できるなら手段は選ばなくて良いと指示が来ているからな。もし全壊していても問題ないだろうよ」


「なら良かったよ」


「報酬についてだが、調査隊が戻ってからになる。本部に報告が終わらないと金が降りてこないらしくてな。全く、こちらには急がせておいて自分たちはのんびりとしたものだよ……」


 サヴィニアもかなり不満が溜まっているようだ。

 これ以上は余計な愚痴に突き合わされそうになったので早々に退散する事にした。


「金の心配はいらない。もう十分もらっているからな」


「そう言ってもらえると助かります」


「ありがとう、ルード。やはり君に頼んで正解だった」


 ダンジョンへの調査隊の派遣や本部への連絡など、緊急依頼クエストは事後処理の手順が多いので、報酬の受け渡しまでの作業はギルドが代わりにやってくれるらしい。


 エナンに後の手続きを任せ、俺はギルドの外へと出る。

 スーは目を覚ましたが、それでもまだ眠そうだ。


 今日は我が家でゆっくり休むとしよう。


 俺も城と化した荷馬車を【浮遊魔術】フロートで移動させるのには思いのほか魔力を使ってしまったからな。

 風魔術でサポートしてみたが、あまり効率的ではなかった。


 もっと効率化できるだろう。


 今度、師匠に相談してみるか……。


 転生の弊害でしばらく眠ると言っていたが、目を覚ましたら連絡をくれるとも言っていた。


 ん……?

 そういえば、どうやって連絡するつもりなんだろう。


 師匠の事だから急に脳に直接話しかけてきたりしそうだよな……。

 得体の知れない人だからそれくらいではもう驚かないけど。


「ん?」


 そんなことを考えていると、黒猫が足元にすり寄って来た。


 どこから現れたのだろう。

 触れられるまで存在に気が付かなかった。


 動物にだって魔力は宿っているハズなのだが……


「お? おぉ?」


 やけに人懐っこいその黒猫は俺の足からスルスルと上ってきて、肩の上に収まった。


 そして「んなー」と大きなあくびを決めて


「やっと帰ってきたか、小僧。待ちくたびれたぞ?」


 当たり前のように話しかけてきたのだ。

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