040:Bランクなんてありえない!③(追放サイド)

「本日限りでパーティを抜けさせていただきます。お世話になりました」


 夜になって酒場にやってきたパフは、席に着くこともなくペコリと頭をさげた。


 まったく、相変わらず良い乳してやがるぜ……ってそうじゃない!


「ちょ、待てよ!?」


「待ちません! みなさんの無謀な冒険にはついていけません! 冒険者条約31条がなければ前回のダンジョンの途中ですでに抜けたいくらいでしたよ!」


「はぁ!? なんだよそれ!?」


 冒険者条約っていったら、ハイエア王国が定める冒険者の掟だろ。

 えーと……31条ってなんだ?


「31条では『ダンジョン内での裏切り』を禁じているな」


「途中で仲間をおいて逃げることを禁止してるアレですねぇ」


 あー、あれか。

 そういえば冒険者なりたてのころそんな話を聞いた気もするな。


 破れば罰則があるし、それに悪い噂が広まればそもそも居場所がなくなるからみんな守ってるんだっけ。

 例外はパーティの半数以上の戦闘不能になった場合。

 全滅するよりは1人でも逃げ帰り情報をギルドに共有する方が有益だからだ。


「って、どういうことだよ!? 俺たちははお前のせいで死にかけたんだぞ!?」


 なんで俺さまたちが悪者みたいに言われなきゃいけないんだ!


「なっ!? 私は撤退すべきだとなんども言いましたよね!? そうやって無謀な戦闘ばかりするからスフォウさんは戦えなくなってしまったんですよ!?」


「……は?」


 スフォウが戦えない?

 なんだそれ?

 そんなの聞いてないぞ?


「何言ってんだ? たしかに拳は大ケガだったが教会で回復してもらっただろうが!? それが何で……」


「……呆れた。仲間の様子すら知らなかったんですか? スフォウさんはもう心が折れてしまったんです。さきほど様子を見てきましたが……ゴブリンゾンビキングとの戦闘の恐怖からか、Eランクのモンスターですら目の前にすると震えて動けなくなるんですよ? 明日にでも正式にパーティからの脱退申請があるはずです」


 こいつ、今日はスフの見舞いに行ってたわけか。

 それで集合が遅れたのか。


 確かにいつまでも出てこないと思ったが、スフがそんな状態だったとはな……。


「そ、それは……そもそもお前の補助魔術が弱すぎからあんな目にあったんだろうが!?」


 今まではもっと強敵を2人でボコボコにしてきたんだ。


 そうだよ、それが普通なんだ。


 俺さまは悪くねぇ……。

 俺さまたちは悪くねぇんだよ!


「私はちゃんと魔術でサポートしていましたよ! それに補助魔術だけでどうにかなるレベル差ではないことくらい一目見ればわかるでしょう!?」


「ふっざけんな!! ルードはやってたんだ!! アイツにできる事すらできねぇのかよ、このザコ女!!」


「そうだな。ルードは当たり前にやっていた事が専門家にできないとは、片腹痛い」


「ですねぇ。ちょっと期待しすぎていたのでしょうか?」


「あ~、もう! そんな人は知りません! ここに来る前に冒険者ギルドにも寄ってきました。そこで聞きましたけど、ルードさんなんて冒険者はギルドには登録されていませんでしたよ!?」


「はぁ? ルードはお前の前に補助魔術やってた仲間だぞ? いないわけが……」


 ハッ……!

 そうか、俺が勇者の権限でギルドにムリやり登録抹消させたからだ。


 だから今、ルードはギルドには居ない存在になってるのか。


「全く、呆れます。話を聞いていればあり得ない要求ばかりするから一体どんな神がかった魔術師なのかと思えば……まさか妄想の存在だったとは。みなさんの考えた最強のサポーターならそれは何だって出来るでしょうね! でもいくらなんでも神話の読みすぎです!!」


 はぁ?

 ルードが最強のサポーター?


 あの役立たずの荷物持ちが神話レベルの存在だって言うのか?


 ありえねぇ~~~!!


 こいつもどこかで妙な噂話を吹き込まれたのか?


 バカどもが!!

 あんな奴いなくて良いんだよ!


 最強は俺さまなんだ! 俺さまが絶対的な勇者なんだよ!! 絶対は俺さまだ!!


「それでは失礼します。請求書のお金はギルドに納めてくださいね」


「おい、待て!! メイ、シーン……なんかあったよな、脱退のルール!」


「条約の29条にある。ドタキャン禁止」


「はい。当日の急な脱退は禁止ですよね? たしか条約ではパーティが決めた日数以前に申請が必要ですよ?」


 よしよし、良いぞ。

 悪い噂だらけの今、仲間が減るのはまずい。


 役立たずでも確保しておかないと……!


 っていうかこの2人、状況が分かってんのか!?

 のんびり酒なんか飲みやがって!!

 パーティが崩壊しかけてんだぞ!?!?


「だから今日、宣言しました。みなさんのパーティには申請日数なんて設定されてませんでしたよ? その場合は前日で認められます。だから正式には明日の脱退になりますけど同じです。もう一緒に冒険に出る事はありませんので」


「い、いや……一緒に出てもらうぜ!! 今からだ!!」


「えっ?」


「えっ?」


「えっ? って、そこのお仲間2人もおどろかれてますけど……」


 こうなれば仕方ねぇ……俺さまの切り札を使うしかねぇな!!

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